子供の時は食べ物の好き嫌いが多かった。たとえば一番嫌いなものは「卵焼き」。ウチの卵焼きは砂糖を入れてそのまま焼いた堅い卵焼きだったので、全然おいしいと思わなかった。
今でもハッキリ覚えているけど、あれは小学校5年生の時だった。隣の家の子守りをしたら、御飯をご馳走してくれた。そこで卵焼きが出てきて、嫌々ながら食べたら、すごく美味しい。刻んだニラが入っていて、水でのばした小麦粉が入っていて、いわばお好み焼きのような卵焼きだった。
その時に気付いたのが「自分で作ればいいのか」ということ。家族も多かったし、さすがに「自分のために作れ」とは言えない。でも自分で作れば、自分の好きなように作れる。それが僕の料理人としてのルーツ。
それからは自分の弁当などは自分で作るようになった。得意だったのはソーセージの油炒め。自分で食べたいおかずだけを入れられるのが嬉しかった。その後、高校生くらいになると、離れの自分の部屋に「居候」するヤツに晩御飯を作って出したりもしていた。
料理人になる、とハッキリ決めたのがいつだったのかは覚えていない。ただこっちの栄養学校に入った時には、なんとなく食に関する仕事をしたいとは思っていた。学校へ行く途中に3畳くらいの小さなお茶漬け屋があって、「お茶漬け屋なんてやりたいなぁ」と考えたりもした。
料理の世界は厳しいと言われるけど、世渡りの術というか、うまくコミュニケーションを取る方法を知っていれば難しくはない。狭い厨房に大勢の人間が働いているので、どうしても寛容さはなくなってしまう。そこでうまくコミュニケーションを取れれば、厳しくもなんともない。
誰だって自分がリズム良くやっている仕事を中断させられたらイライラする。言葉使いが悪かったり、返事をしなかったり、そんな失敗を下の子はわからないが故に犯してしまう。そこさえクリアできれば上手く行くはず。
僕らもそうだったけど、それができないから先輩に叱られる。寒いからとポケットに手を入れたら箸でピシッと叩かれたり、「あのですね……」「お前、誰と口聞いてんだ!」なんて。そんな風に、僕らに対してキチッとしつけをしてくれた先輩がいたおかげで、今の僕らがある。
逆に、僕らが若い子に教える立場になると「幼稚園」だと思う。「返事をしましょう」「挨拶をしましょう」なんて幼稚園のレベル。でもそれがクリアできれば、あとはうまく行く。
若い頃は「もう辞めよう」と毎日考えていた。ところが先輩も上手いもので、そんな雰囲気を察するとすかさずフォローする。それで「じゃあ、もう1日だけ……」と思っている内に、20年以上が経っていた。