2009年7月には日本近海で皆既日食が見られる。皆既帯というのは非常に幅が狭くて数十kmしかない。この時は太平洋上を小笠原沖から中国大陸に伸びる形になるので、おそらく船がたくさん出て、皆既日食帯の中で晴れそうな場所へ行って、船の上から皆既日食を眺めるという人が多いのでは。
皆既日食は世界中から10万人規模の人が集まるイベント。特に日本近海というのは集まりやすい場所なので、大勢の人が来ると思う。日食は「次はアフリカで起こる」「その次はヨーロッパ」など、あらかじめ予測できるので、毎回、各国から人々が集まっている。
去年はトルコ・エジプト・リビアを通った日食があったけど、エジプトでは「日食村」ができたほどだった。砂漠のど真ん中に大勢の人たちが集まってきて、みんなテントを張って日食を待つ。そんな「村」が点々と見受けられた。
そんな人たちがたくさんいるくらい、日食という現象は感動的。一度見ると、どうしてもその感動をまた味わいたくなる。それで「次の日食」「また次の日食」とリピートする人が多くて、我々はそれを「日食病」と呼んでいるくらい。
日本の近くで皆既日食が起きるのは非常に珍しく、2009年の日食は前世紀から予約が入っているらしい。10年前に調査隊が「10年後の部屋を押さえたい」と言ったら笑われた、という話も聞いている。でも、もう予約は入っているはず。
日食はそれくらい魅力的な現象なので、宿もあっという間に埋まってしまう。たとえばヨーロッパで日食が起こるとなると、何年か前にデポジットを払ってまで押さえる人もいる。ところがその日が近づくにつれ、宿の方も「こんなにお客さんが来るのか」ということがわかり、最初の約束を文書化していないと、どんどん値上げされてしまう……と旅行会社の人に聞かされた。
私は今まで5回の日食を見てきたけど、少ない方だと思う。10回20回という人は大勢いる。私が見てきたのはメキシコ・ハワイ、小笠原沖、モンゴル、ブルガリア、昨年のエジプト。そして5回行って3勝2敗。でも20回行って全勝という人もいる。あらかじめ晴天率などを調べておくのが重要らしい。
皆既日食以外の部分日食や金環日食は、太陽の表面が一部でも出ているので、直接見たり望遠鏡で見たりしては絶対にダメ。再生しない網膜がやられてしまうので、非常に危険。ガリレオはまだそれを知らなかったので、それで目をやられてしまった。そこで部分日食を観測するときは「日食グラス」のような減光するようなグラスを使って見る。日食グラスはサングラスよりも濃くて、有害な赤外線もカットするような特殊な作りになっている。つまり普通のサングラスでは危険だし、下敷きもダメ。かなり特殊なモノを使う必要がある。
皆既日食は長くて6〜7分。短ければ数十秒。その瞬間は大歓声が上がる。そして写真を撮ったりスケッチをしたり眺めたりして、最後の「ダイヤモンドリング」でまた大きな歓声と溜息が聞こえる。
初めて見た人は必ず泣く。特に女性はあまりの美しさに感動の涙を流す。私も見る前は「何回も見たって同じじゃないか」と思っていたけど、1回見たら見事に日食病に掛かってしまった。世の中にはいろんな自然現象があるけど、あれほど自然への畏敬を感じる現象はないと思う。