SUNTORY SATURDAY WAITING BAR
2006年11月4日の放送

この日の放送曲目リスト/過去の放送内容リスト

「あばたもえくぼ」

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 気に入ってしまったが故にその欠点さえも良いと思ってしまうことを「あばたもえくぼ」と申します。「惚れた弱み」「馬鹿な子ほど可愛い」「恋は盲目」など似たような言葉も多く、人は美しかったり便利だったり優れていることだけを好むとは限らない生き物のようです。
 当店のお客さまにも、実用面だけを考えれば疑問符が付くモノを愛してやまない方々が大勢いらっしゃいます。そんなお客さまの「あばたもえくぼ」なお話を、今日はここで少しだけご紹介させていただきましょう。


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鈴木正文さん(『ENGINE』編集長)の

『クラシックカー』の話

 クラシックカーに乗るのは、お爺さんやお婆さんを歩かせるようなもの。その車が現役だった頃とは交通環境も変わっているし、土台無理な話。保存して動くようにするだけならそんなに難しくはないけど、実際に走らせるといろんな問題が出てくる。
 だからそういう車を走らせる時は、そのための環境を作るところから始めなければならない。それはさすがに1人ではできないので、「クラシックカー・ラリー」みたいなイベントが盛んに行われている。
 そういったイベントでは、メカニックもちゃんと付いて、サポートカーも付く。道路があまりに渋滞するようなら警察が先導して、スムーズに流れるようにする。そうやって初めて思いっきりガスペダルを踏んだり、思いっきりハンドルを切ったりできる。
 そして思いっきり走ると、車は傷む。だから翌年に走る時まで、一生懸命直す。そうやって走る自動車だけが、元気な状態で保存されていく。だから大変ではあるけど、イベントなしには古い車は本当の意味では楽しめない。ある意味、文化事業のようなもの。
 クラシックカー・ラリーには100年前の車も出てくる。今でも残っている100年前の車といえば、必ずレーシングカー。だから今でも凄いスピードが出る。だけどそこは昔の車。風防などないから、ヘルメットをかぶって、ゴーグルをして、マスクを付けなければならない。
 その車の運転席には65歳くらいのご主人。助手席には同い年くらいの奥様。その2人が真夏なのに防寒着を着て、時速140kmくらいの風圧に耐えている。そんな苦行に耐える理由は「愛」としか言いようがない。そんな無償の好意がクラシックカー文化を支えている。

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傅信幸さん(オーディオ評論家)の

『アナログ・レコード』の話

 今、欧米のオーディオ・ファンは、表へ出る時はiPodで、家では「ヴァイナル」なんだとか。ヴァイナルというのは「Vinyl(ビニール)」、つまりアナログのLPレコードのこと。
 CDが生まれたのが1982年だったので、来年でちょうど25年。もう若い人には、かえってアナログのレコードの方が新しく見える。それでアナログが復活してきた。ジャズが好きな人なら、昔のディスクを今でも持っているし。
 アナログのカートリッジは、今は高いものなら30万円なんてものもある。そのカートリッジを使っていたら、聴きながらうかうか寝ていられない。オーディオ・ファンが使うプレイヤーにはオートリフトアップ機能なんて付いてないから、最後に「プチッ、プチッ」となって、30万円のカートリッジを無駄遣いしてしまう。
 アナログのレコードは良くできていて、溝の部分を1本にして伸ばすと約400m。両面で800mが僕らの青春だった。そしてダイヤモンドの針は、針を身長180cmの人にたとえると、レコードに下ろした時に、くるぶしまでしか溝に入らない。その小さな溝に、よく音楽が入っているものだと思う。
 アナログとデジタルは、変わらないと言ってしまえば変わらない。その違いは、わからない人にはわからないから。ただ、美味しいモノを食べると、美味しくないモノがわかってくるような違いはある。
 たとえばヴァイオリンには「フラジオレット」という弾き方がある。これは弦をギュッと押さえずに、倍音を出すところの弦だけ軽く押さえる弾き方。ギターでは「ハーモニクス」とも言う。この弾き方の音と、オーボエあるいはクラリネットの高い音が重なると、iPodなどでは音が混ざってしまう。これがオーディオのちゃんとした機械だと、「2つの音が重なっている」ということがわかる。
 ただ、それでもモーツァルトであることには変わりはないわけで、それでも良いと言えば良い。お腹がいっぱいになるための食事か、美食か、という違い。
 アナログの良さはふくよかさであったり、厚みであったり、スムーズさであったりする。デジタルは情報量が多いので、場合によっては神経質に聞こえることもあるかもしれない。
 オーディオは科学技術に支えられているけど、その一方で趣味のもの。だから電気製品として特殊な部分がある。たとえば今の我々の生活に、真空管なんて使われていない。でもオーディオの世界で使われ続けているのは、音が独特だから。トランジスタに較べて歪み成分は多いけど、その歪みは音に艶や暖かみが乗るような成分だったりする。そして視覚的な効果もある。
 これから団塊マーケットを狙っているところは、真空管とヴァイナルがオススメ。手間のかかるモノだからこそ可愛く感じる。まさに「あばたもえくぼ」。

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山崎貴さん(映画監督)の

『CGと模型』の話

 映画『ALWAYS 三丁目の夕日』ではCGを多用したけど、どれも一度は模型を作っている。模型には模型の特長があって、CGよりもリアルに見えたり、看板を簡単に取り替えられるといった改造の容易さがあるから。
 もちろんCGの良さもある。特に良いのがカメラワークを合わせるのが簡単になること。実際に撮ってきてしまった映像に合成する時、ミニチュアでやろうとするとカメラワークを合わせるのがすごく大変。これがCGだと非常に楽になる。それからライティングの修正も後からやりやすい。
 そこで『ALWAYS……』ではCGと模型のハイブリッドにした。音楽の世界も最初は生楽器があって、シンセサイザーの登場でなんでも出来るんじゃないかと思われた。でもシンセサイザーではダメで、サンプリングという技術が登場した。それを映像にも取り入れようという試み。
 ミニチュアで一度全部撮影して、それをCGに取り込む。そしてコンピュータの中で再構築して、もう一度CGの中で並べ直す。最初にミニチュアを作ることで、光の情報は完璧になる。そこにカメラワークを加えるのにCGを使う、というやり方。
 光にはいろんな屈折や反射があって、たとえば光が壁に当たって反射されて屋根の裏側を照らしたり、いろんな乱反射によって影も微妙にぼやけたり、非常に複雑な情報を持っている。それを全部CGでやろうとすると、大変な時間が掛かってしまう。
 特にクリーチャーのように動き回るものより、そこにポンとあるだけというモノはミニチュアの方が良い。そして幸い、ウチのチームには模型を作るのが上手い人たちがいるので、彼らに作ってもらった方が圧倒的に早かった。
 以前の『ジュブナイル』の頃は、模型の一部分を作ったり試行錯誤をしていた。でもイロイロやってみて、結局「全部作って撮影するのが一番良い」という所に辿り着いた。「宇宙船の開き」みたいなモノを作ってみたけど、ちゃんと宇宙船を作って撮影した方が良かった。
 このやり方はウチだけじゃなくて、ハリウッドで一番トップの人たちも皆、ミニチュアに帰ってきている。一時期、CGが発展するとミニチュアが無くなるんじゃないかと言われていたけど、実際にはそうではなかった。

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林信行さん(ITジャーナリスト)の

『Mac』の話

 最初のMacは100万円くらいした。そのせいか日本ではMacに変なイメージがあって「舶来のコンピュータをパイプをくわえた紳士が使っている」なんて雰囲気だった。
 初期のノート型「PowerBook 145B」は、モノクロ2色でグレー表示すら無かった。でもそれはそれで味のある表示だった。ハードディスクに至っては、今のiPod Shuffleと較べても、較べものにならない容量。みんなフロッピーディスクで済んでいた。
 Macは一度ノート型パソコンで大失敗している。それは「Macintosh Portable」という機種。これがとにかく重くて「膝の上に乗せても重い」と言われた。日本でイベントが行われて、みんなの前でジャネット・ジャクソンに進呈したら、重すぎて持ち上げられなかったという伝説も残っている。
 パソコンの歴史を振り返るに、90年代はスペックシートの文化だった。どこのソフトウェアメーカーも毎年新しいソフトを出してきて「今度は20個の機能を追加しました」と機能を競い合った。
 それが、ジョブズがAppleに復帰して、iMacでAppleが復活してきたあたりから変わってきて、スペックシートだけではなく、感性に訴えかけるような部分で勝負するし始めるようになってきたような気がする。Mac OSの触り心地の良さ、フワッとウィンドウが動く感じとか、「ペン回し」のような遊びの要素がパソコンに入ってきた。
 左脳的なモノだけで作られているのがWindowsパソコンだとしたら、右脳的というか情感に訴えるのがMac。メニューの出方にしても、ピッとクリックしたら即座に出てくるのがWindows。たしかに早くて機能的には良い。それに対してMacはクリックしてからコンマ数秒のタメがある。それもまた妙に有機的で良い。
 Windowsに慣れている人はMacの1ボタンマウスが不便に感じるみたいだけど、実はノート型のトラックパッドはMacの方が便利だったりする。1本指でなぞると普通にポインタが動き、2本指でなぞるとスクロールしてくれるとか、1本指でタップすると左クリックだけど、2本指でタップすると右クリックだとか。これは慣れると病みつきになる。

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犬養裕美子さん(レストラン・ジャーナリスト)

『サルサ・ズッカ』の話

 実は私は「隠れ家的なレストラン」があまり好きじゃない。隠れるくらいなら遣らなければいいのに、と思ってしまう。
 でも、商店街の中に「あれ?これってレストランなの?」っていう感じのお店が時々ある。たとえば笹塚商店街の、魚屋さんや八百屋さんが並んでいる通りのど真ん中にある『サルサ・ズッカ』というリストランテがそう。「サルサ」はソースで「ズッカ」はカボチャだから、「カボチャのソースって……変な名前だなぁ」と思っていたら、「笹塚」のダジャレだった。
 イタリア料理のお店にはトラットリアとリストランテの2種類がある。トラットリアというのはカジュアルなお店で、単品の料理をいっぱいたのんで、みんなでワイワイと楽しむお店。それに対してリストランテはコース料理のお店。そしてこの『サルサ・ズッカ』は、そんな大衆的な場所にあるにも関わらず、明快にリストランテだった。
 お料理は2900円だけどちゃんとしたコースで、しかもリストランテと名乗るだけの手の込んだ料理を出している。さらにワインも充実していて、イタリアで資格を取ってきたソムリエもいる。私たちもそのお店に行ったら絶対にそのソムリエさんにお任せするけど、必ず料理にピッタリなワインを選んでくれる。
 そんなお店が商店街のど真ん中にポロッとあるのには本当に驚かされる。さらにカウンターもあるので、ご近所であろう1人のお客さんも気軽に利用している。私はそのお店で「みなさん、この店の実力をお分かりですか?」と立ち上がって叫びたくなる。
 料理もちゃんとしているし、ワインもバッチリ。さらに食後酒のグラッパも揃っているし、エスプレッソに至っては4種類の豆が揃えてある。ここまで至れり尽くせりで、2人で行っても1万5千円ぐらい。ゆっくり食事をしたいと思ったら『サルサ・ズッカ』は最高。
 でも本当は、こういうお店はどこにでも1軒ずつはあるはず。そういう店を見つけようと思ったら、飛び込むしかない。そして何度も飛び込んでると、何となく「このお店は良さそう」という勘が働くようになる。
 基本的にそういう良いお店は、隠れてるお店じゃない。ちゃんと顔を出して、お客さんを迎えるために万全の構えをしているお店。たとえば店先をキレイにしておくとか、そういう部分で「そのお店が何をしようとしているか」が見えてくる。
 ちなみに飛び込む時は、中を覗いて「これは違う」と思ったら、そこで「あ、間違えました……」と引っ込むことも可能。私はけっこうやる。

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■ 放送曲目リスト

Time Title Artist Label Number
8'38" I Never Knew Meg Myles 東芝EMI TOCJ-6073
18'43" The Sweetest Sounds Eydie Gorme CBS SONY 32DP 696
25'45" I Want To Be Happy June Christy Capitol CDP 72434 95448 26
34'32" There Will Never Be Another You Beverly Kenney 東芝EMI TOCJ-5384
44'22" It's Only A Paper Moon Four Freshmen Hindsight HCD 604


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