SUNTORY SATURDAY WAITING BAR
2006年10月28日の放送

この日の放送曲目リスト/過去の放送内容リスト

「バーの魅力」

image

 静かに流れるジャズに、葉巻の香り。洒落た会話と、美味しいお酒。当店を贔屓にしていただいてる皆さまには言わずもがなですが、バーという空間は大人を魅了するすべての要素を兼ね備えています。
 かくいう私、小穴もバーの魅力に取り憑かれて、バーテンダーを目指した1人ですが、私などよりも当店の常連のお客さまの方が、バーの魅力についてはるかにお詳しくていらっしゃいます。今日はそんなお客さまの「バー」にまつわるお話を、ここで少しだけご紹介させていただきましょう。


image
森田恭通さん(インテリアデザイナー)の

『バーのデザイン』の話

 バーは基本的に夕方からなので、ライティングに一番気をつける。そしてライティングを考える時に大事にしているのは「いかに女性が美しく見えるか」ということ。というのも、ライティングはお化粧と同じで「シャドウ(影)」の作り方が重要だから。
 だからと言って暗ければいいというものでもない。レストランやバーへ行くと、食事やつまみが出てくる。その時に何を食べているのか分からないくらい暗くては本末転倒。食べるモノや飲むモノはちゃんと光が当たって見えなければいけない。そしてバランス良く間接照明などを使いながら、明るいところと暗いところのメリハリを付ける。
 今までいろんなバーテンダーさんと仕事をしてきたけど、それぞれで考え方は本当に違う。自分がお酒を作っている姿にピンスポットを当ててお客さんに見せたいという人もいれば、逆に見せたくないという人もいる。でも皆さんそれぞれ、いろんな経験を積んで自分のお店を持つにあたって、自分のオリジナリティをちゃんとわかっている。
 そこでデザイナーとしては、そのリクエストを全部聞いた上で、優先順位を提案するのが最初の仕事。あれもやりたい、これもやりたい、という気持ちはわかるけど、それを全部詰め込んでしまうと、お店のコンセプトがボケてしまう。そこでオーナーさんのお話を聞いて「ここを強調してあげることがこのお店にとってオリジナリティに繋がるだろう」ということを提案する。
 僕はデザインを考える時に、ペンを持つ前に「ストーリー」を考える。あるバーの場所があったとして、そこに扉を開けて中に入っていく。そこですぐにバーカウンターが見えた方が良いのか、ワンクッションあって中に入り込んでから初めて何かが見える方が良いのか。さらに頭の中で座ったり立ったり飲んだり、いろんなシーンを考える。
 その空想の中で連れ行くのはスーパーモデル。「スペシャルシートはここだな」と思ったら「連れの女の子が本当に喜ぶためには、もう1つサプライズがないと……」なんてことまで考える。そうやっていろんなストーリーを組み立てて、その上でやっとペンを持つ。
 ただ、実際にそのお店が出来てしまうと、本当に女の子を連れて行くのはなかなか照れくさい。というのも、オーナーさんにも全部その話はしてしまっているから。むしろそうやって口説いている人を冷静に横から見ていたい。

【Hot Link !!】





image
出石尚三さん(服飾評論家)の

『バーの魅力』の話

 僕がバーを好きなのは、ゆっくりと語れるところ。バーはお互いに魂を触れあわせる場所だと思う。
 日常の中で、裃を着て、堅苦しい挨拶をして……という状況では、なかなか本音は出てこない。そこでアルコールをちびりちびりとやりながら、一枚一枚薄皮を剥ぐように本音が出てくる中で、心と心で会話する。そんな場所はバー以外に無いんじゃないかと思う。昔のキリスト教には懺悔室があったけど、今の日本社会ではそういう場所がない。だからバーが今用の懺悔室のようなものなのでは。
 レイモンド・チャンドラーなら「僕は開けたばかりのバーが好きなんだ」というテリー・レノックスの有名なセリフがある。バーが開店したばかりの夕方4時くらい、バーテンダーがグラスを磨いていたり、髪に櫛を入れていたり、最後に蝶ネクタイの結び目を直していたり、そんな真っさらなバーに入っていくのが良い。そんなことは当たり前なんだけど、その当たり前のことをちゃんと言ってくれたテリー・レノックスは偉い。
 僕の場合はそれに加えて、団らんが主役になるようなバーが最高だと思う。できれば洒落た会話が飛び交っていれば、なお良い。そんなオシャレな会話が似合うバーが僕は最高だと思う。
 そんなバーに似合う格好は、たとえて言うなら「タキシードにブルージーンズ」。つまりそれは、パーティーの帰りに「いろんなヤツがいたけど、俺は本当はここでのんびり飲んでいたいんだ」みたいなスタンス。ドレスアップの気分もあって、くつろいでいる気分もある。そんな気分を服装で表現すると「タキシードにブルージーンズ」になる。
 その場合、靴はエナメル・レザーのウエスタン・ブーツとか。お金があればオール・クロコで。70〜80万円ぐらいするけど。そんなオシャレな格好で、バーで一杯やりながら、粋な会話を交わす。これが理想。

【Hot Link !!】





image
羽鳥好之さん(『オール讀物』編集長)の

『文壇バー体験記』

 純文学と、エンターテイメント系でも売れない作家は、新宿で飲むものだった。銀座で飲めるのは、一部の流行作家の特権だった。でもその銀座で飲んでる一部の人たちがどんどん伝説化されて、文壇の銀座伝説になった。
 だから銀座には「文壇の誰それが名付けた」みたいなバーがある。でも渡辺淳一さんですら「40代の頃にはなかなか銀座に来れなくて、新宿でくすぶっていた」と言っている。渡辺淳一さんがデビューしたのは37歳。当初は医学モノなどの地味な作品を書いていたので、まったく売れなかった。その時代はやっぱり新宿で飲んでいた。
 僕が文藝春秋社に入社した昭和59年、最初に配属されたのは週刊文春だった。当時、文春は野坂昭如さんがコラムを持っていて、僕はその担当をすることになった。そしてある時、打ち合わせをしていて、「いや〜、先生、昨日は参りましたよ」という話をした。
 その話とは、僕が新宿のバーに行って1人で飲んでいた時の話。そのお店のママが銀座出身で、ちょっと酔って僕に「君は文春の社員?新人?」と聞いてきた。「はい」と答えると、舌打ちをして「文春の社員と言えば、昔は給料全額を持って銀座に行ったもんだ、3日で給料を使い切るのが編集者というもので、今の若者は彼女を連れてチャラチャラして、実に情けない……」と言われてしまった。
 そんな話を野坂先生にしたところ、先生はニコニコしながら「君は今日の予定は?」と聞く。「先生との打ち合わせだけです」と答えると、「ちょっと待っていなさい」と言って、10分ぐらいどこかへ行ってしまった。そして戻って来るなり「これから銀座へ行こう」とハイヤーを呼んだ。
 僕はそのハイヤーに乗せてもらい、当時、銀座で最も有名な『眉』というクラブに連れて行ってもらった。そのクラブは政財界から作家など、超一流の人たちが集う、銀座の社交場のような場所だった。
 先生は慣れた様子でさっさと席に座り、「野坂先生、いらっしゃいませ」と挨拶に来たママに「○○子は?」と聞いた。するとたまたまその女の子は休み。それを聞いた先生は「○○子がいないのか?!そんな店には1秒も居たくない!」と立ち上がり、帰ろうとした。
 お店にいた人は皆、政財界を代表する人たちも女の子たちも「何があったのか」とこっちを見ている。その中を野坂先生は、あの黒めがねの出で立ちで堂々と横切って帰っていく。新入社員の僕は何が起こったのかまったくわからず、オロオロしながら先生の後を追い掛けた。
 先生は追いすがるママ(この人も銀座では有名だった)を振り切り、ハイヤーに乗り込んでしまった。僕は仕方がなくその隣に座って、何が起こったのかと縮こまっていた。
 しばらく移動して、先生は違うバー(後日、そこも有名なバーであることがわかる)へ入っていった。そして席に座り、黙ったままひと言も口をきかない。女の子たちが「先生、ご機嫌悪いですね」なんて声を掛けても、黙ったまま。僕はやむを得ず、先生の代わりに女の子たちの話し相手になっていた。
 その話の中で、女の子の1人がふと聞いてきた。「ところで羽鳥さんは先生のご親戚か何かですか?」と。僕はその時、たまたまラフな格好をしていたので、お店の人は野坂先生が甥っ子か何かを連れてきたと思っていたらしい。
 それを聞いた先生、途端にニヤッと笑って「バカを言うんじゃない、コイツは文春の新人で僕の担当だ!」と言った。そして「普通、新人の編集者と言ったら、あの辺の入り口で這いつくばっているよな、コイツみたいに楽しそうにお酒を飲んでるヤツはいないだろ?」と。
 僕は本当にビックリして「先生!それはないでしょう!」と叫んだ。そして「先生がひと言も喋らないから、僕はこの場を和ませるために話していただけで、最初から仰って下されば僕だって玄関に這いつくばってましたよ!」と言ったら、そこから先生は途端に機嫌良くなって、そこから1〜2軒飲んで回った。
 これが僕の銀座文壇バー初体験。今でも鮮烈に覚えている。
【Hot Link !!】





image
太田和彦さん(グラフィックデザイナー)の

『バーの流儀』の話

 僕はバーに行く流儀がある。まず、バーに入る前に何杯飲むか決める。基本は3杯。というのも、バーはそんなにたくさん飲む場所じゃないから。
 かといって、1杯ではお店の人が「気に入らなかったのか」という印象を持ってしまう。2杯なら「気に入ってくれた」、3杯だと「もう1回来てくれるだろう」。その3杯が基本。もちろん気に入らなければ1杯で帰る。
 どの順番で飲むかも決まっている。最初に頼むのはジン・トニック。初めてのバーに入るのは、お客の方も緊張するけど、迎える方も緊張する。そこで最初は難しい注文を出さず、どこのバーにもある最も基本的なジン・トニックを注文する。挨拶代わりのようなもの。
 そして僕は初めてのバーでも、空いている限りカウンターの真ん中に座る。そういう人はなかなかいないから、バーテンダーさんも目の前に座られて緊張する。でも緊張させるのが美味しいカクテルを飲むコツ。
 バーテンダーがカクテルを作っている様子を見ていれば、飲まなくても美味しいか美味しくないかはだいたいわかる。手順や手際で「これは期待できそうだ」「ダメそうだな」なんて、すぐにわかってしまう。
 ジン・トニックは単純なカクテルだけど、単純だけに個性や技術の差がハッキリと出る。もちろん使うジンによっても微妙に異なるけど、それ以前に氷が重要。硬く締まっていて、手で持っても濡れないくらいの氷じゃないと。その硬く締まった氷を2つグラスに入れて作るのが良い。
 お店によっては「ジンのお好みはございますか?」と聞かれることもあるけど、僕は「いつも使っていらっしゃるものでお願いします」と答える。もちろん僕の好みもあるけど、自分の好みを出す前に、そのお店のスタンダードを飲みたいから。
 ライムを搾って入れる時も、どのくらいの大きさのライムを、いつ搾るのか、などで違いが出る。ライムを最初に投入する人もいれば、ライムでグラスの縁をスッと拭いてくれる人もいる。搾ったライムをグラスに入れず、捨ててしまう人もいたて、これは銀座の『オーパ』などがその流儀。
 ジンを入れるのも、目分量かメジャーカップで量るかの違いがある。僕はメジャーカップで量って欲しい。最後にトニック・ウォーターを入れる時は、なるべく泡が出ないよう、氷を避けてグラスの縁から入れるのがコツ。
 そうやって基本的で、そのバーテンダーが毎日作っているカクテルを頼むことで安心させる。そして飲んだら必ず印象を言う。出した方はお客さんが気に入ってくれたかどうか不安になっているので、味わって「美味しいですね」と言うと、必ず顔がほころぶ。
 2杯目はショート。それはシェイカーを振るので、バーテンダーにとっても腕の見せ所。でもわけのわからないものを注文するのではなく、ギムレットやマンハッタン、ホワイトレディなどのスタンダードなカクテルを注文する。それでもショートは手順も多いし、その人独自の作り方もあったりする。それを楽しむ。
 2杯目を飲んだ時もちゃんと味わって感想を言う。そうすればバーテンダーも「この人は僕の作ったものをちゃんと味わって飲んでくれる人だ」と思って意欲が湧いてくる。
 そこで帰っても良いけど、気に入ったのなら3杯目は変わったカクテルを。それはその時々で、暑い日だったらモヒートとか、今の季節だったらザクロを使ったジャック・ローズとか。そんな少々面白いモノを頼むと、バーテンダーも「面白いモノを頼んでくれましたね」と喜んでくれる。

【Hot Link !!】





image
尾崎浩司さん(青山『Radio』店主)の

『バーテンダー』の話

 お客さまにカクテルを出す時に考えているのは「世界中のバーに負けない、一番美味しい味を作ってお出ししよう」ということ。それを常に心掛けている。
 美味しく作るコツはたくさんある。でも、こちらが「これが一番美味しい」と思っていても、飲み手にはいろんな人がいる。だから1つのパターンだけでは足りない。10人いれば10種類の美味しさがある。その10種類が作り出せなければプロではない。
 始めてのお客さまだったら、少し様子を探る。お店に来て、いきなり「マティーニ」「はい」というわけではない。その前にちょっとしたやりとりをして、その人の好みを聞き出す。風邪を引いた時にお医者さんに行って「風邪を引きました」「はい、薬です」じゃないのと同じ。ゆっくり、慌てず、その人の症状(好み)を聞くべき。
 でも「どんなダイキリがお好みですか」なんて聞くわけじゃない。「今までダイキリはたくさん召し上がりましたか?どんなところで、どんな風に?」という風に、その人の経験を探る。
 実際はそんな直接的に聞くわけじゃなくて、服装やメガネ、ヘアスタイル、顔つき、態度で探る上級の探り方もある。その人の人柄がわかれば、その人の好みがだいたいわかる。ただこれは、経験の浅いバーテンダーには難しいと思う。
 そんなやり取りは、バーテンダーにとっても面白い。音楽で言えばイントロ、落語で言えば枕の部分にあたるやり取り。そこで相手のことを知ろうとする。そして相手もお店のことを探ろうとする。
 お店に入って、もし「この人には頼まない方が良いな」と思ってしまったら、ビールか水割りを注文した方が安全。でもビールの出し方を見ていれば、だいたいのことはわかる。ビンとグラスをぞんざいに扱っている人だったら、もうカクテルは止めた方がいい。がさつなバーテンダーに良いカクテルは作れないから。
 お客さまや普通のバーテンダーは知らないことだけど、ビンから注いで氷を入れて、ちょっとかき回すだけのモノも、作り手によって良し悪しが出る。たとえばグラスに氷を入れて、その上にお酒を注ぐ。普通はそのままで出してしまうけど、丁寧なバーテンダーはそれを2〜3回ステアして出す。それだけで味が変わる。
 さらにステアの仕方とステアの回数でも違いがあって、10回ぐらい、しかも心を込めて良いスピードでステアすると、さらに美味しくなる。理論的に解明されているわけではないけれど、その違いは如実にわかる。
 バーテンダーが片手でグラスを持ち、片手でバースプーンを持つ。そうやってステアする時に、バーテンダーのオーラのようなものがお酒に移り込むのかもしれない。だからオーラの強い人がやった方が、より美味しくなる。

【Hot Link !!】






■ 放送曲目リスト

Time Title Artist Label Number
9'05" A Lot Of Livin' To Do Nancy Wilson Capitol TOCP-50457
17'53" A Lot Of Livin' To Do Annie Ross Venus TKCZ 79510
28'59" A Lot Of Livin' To Do Louis Armstrong MCA MVCM-297
42'39" A Lot Of Livin' To Do Sammy Davis Jr. Collector's Choice Music CCM-447


 Back