僕はバーに行く流儀がある。まず、バーに入る前に何杯飲むか決める。基本は3杯。というのも、バーはそんなにたくさん飲む場所じゃないから。
かといって、1杯ではお店の人が「気に入らなかったのか」という印象を持ってしまう。2杯なら「気に入ってくれた」、3杯だと「もう1回来てくれるだろう」。その3杯が基本。もちろん気に入らなければ1杯で帰る。
どの順番で飲むかも決まっている。最初に頼むのはジン・トニック。初めてのバーに入るのは、お客の方も緊張するけど、迎える方も緊張する。そこで最初は難しい注文を出さず、どこのバーにもある最も基本的なジン・トニックを注文する。挨拶代わりのようなもの。
そして僕は初めてのバーでも、空いている限りカウンターの真ん中に座る。そういう人はなかなかいないから、バーテンダーさんも目の前に座られて緊張する。でも緊張させるのが美味しいカクテルを飲むコツ。
バーテンダーがカクテルを作っている様子を見ていれば、飲まなくても美味しいか美味しくないかはだいたいわかる。手順や手際で「これは期待できそうだ」「ダメそうだな」なんて、すぐにわかってしまう。
ジン・トニックは単純なカクテルだけど、単純だけに個性や技術の差がハッキリと出る。もちろん使うジンによっても微妙に異なるけど、それ以前に氷が重要。硬く締まっていて、手で持っても濡れないくらいの氷じゃないと。その硬く締まった氷を2つグラスに入れて作るのが良い。
お店によっては「ジンのお好みはございますか?」と聞かれることもあるけど、僕は「いつも使っていらっしゃるものでお願いします」と答える。もちろん僕の好みもあるけど、自分の好みを出す前に、そのお店のスタンダードを飲みたいから。
ライムを搾って入れる時も、どのくらいの大きさのライムを、いつ搾るのか、などで違いが出る。ライムを最初に投入する人もいれば、ライムでグラスの縁をスッと拭いてくれる人もいる。搾ったライムをグラスに入れず、捨ててしまう人もいたて、これは銀座の『オーパ』などがその流儀。
ジンを入れるのも、目分量かメジャーカップで量るかの違いがある。僕はメジャーカップで量って欲しい。最後にトニック・ウォーターを入れる時は、なるべく泡が出ないよう、氷を避けてグラスの縁から入れるのがコツ。
そうやって基本的で、そのバーテンダーが毎日作っているカクテルを頼むことで安心させる。そして飲んだら必ず印象を言う。出した方はお客さんが気に入ってくれたかどうか不安になっているので、味わって「美味しいですね」と言うと、必ず顔がほころぶ。
2杯目はショート。それはシェイカーを振るので、バーテンダーにとっても腕の見せ所。でもわけのわからないものを注文するのではなく、ギムレットやマンハッタン、ホワイトレディなどのスタンダードなカクテルを注文する。それでもショートは手順も多いし、その人独自の作り方もあったりする。それを楽しむ。
2杯目を飲んだ時もちゃんと味わって感想を言う。そうすればバーテンダーも「この人は僕の作ったものをちゃんと味わって飲んでくれる人だ」と思って意欲が湧いてくる。
そこで帰っても良いけど、気に入ったのなら3杯目は変わったカクテルを。それはその時々で、暑い日だったらモヒートとか、今の季節だったらザクロを使ったジャック・ローズとか。そんな少々面白いモノを頼むと、バーテンダーも「面白いモノを頼んでくれましたね」と喜んでくれる。