SUNTORY SATURDAY WAITING BAR
2006年8月12日の放送

この日の放送曲目リスト/過去の放送内容リスト

「若いうちに行くべき所」

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 社会に出て働き始めると、なかなか長期の休暇は取りにくいもの。またさらに、社会人でも結婚して家庭を持つと、夏休みや正月休みさえも自由には使えなってしまいます。
 だから海外へ行って見聞を広めるのであれば若い内に、と人生の先達の方々は口を揃えます。本日はそんなお客さまが教えて下さった「若いべきに行くべき場所」のお話を、ここで少しだけご紹介させていただきましょう。


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高橋歩さん(自由人/島プロジェクト代表)

『世界一周』の話

 僕は26歳で結婚して、妻と世界一周の旅に出るまで、ほとんど「旅人」ではなかった。
 世界一周に出たきっかけも、妻と「ドラゴンボールが7つ揃ったら何をしたい?」なんて話を喫茶店でしたことだった。「何でも願いが叶うなら、2人で世界一周をしたいなぁ」と言うのを聞いて、「2人で世界一周か!」と脳味噌がスパークした。そして仕事もフリーになって、結婚式の3日後から世界一周の旅に出た。
 世界一周は何千万円もかかると思っていたけど、そうとも限らなかった。バックパックを背負って、地元の人が移動するような方法で移動すれば、ちょっと良い車を買うくらいの値段で行ける。
 1週間ごとくらいで町や国を移動を移動していたので、1週間ごとに引っ越しをしていた2年間、みたいな感じだった。期間もコースも決めないで、スタートのオーストラリアだけ決めて、いつも世界地図を見ながら「次はどこいく?」なんて話をしていた。
 たとえばオーストラリアの南端に近いメルボルンで世界地図を見ていたら、南極が意外と近い。それで「行っとく?」みたいなノリで南極にも行った。現地の旅行代理店で「アンタークティカ」って連呼して、ツアーを紹介してもらった。
 最後はアラスカで終えようという構想も持っていた。星野道夫さんという写真家のオーロラの写真が大好きで、それを見に行きたかった。
 世界一周した中で特に印象深かったのはゴビ砂漠。夜に妻と散歩に出かけたら、あまりの「音」の無さに驚かされた。人間は不思議なもので、音がないと不安になる。そのせいか僕は一生懸命喋ろうとしていた。そこで妻が「ちょっと黙ってみない?」と提案するので黙ってみたら、怖くなるくらいの無音だった。
 そのまま5分ぐらい黙っていたら、満天の星から「星の音」が聞こえてきた。たぶんそれは自分で勝手に生み出している音なのだろう。ベタだけど「シャラシャラ」みたいな音が聞こえてくるような気がした。妻も「聞こえた」と言っていたけど、あれは強烈に印象に残っている。

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林光さん(博報堂生活総研)の

『アイルランド』の話

 アイルランドは20世紀になってから、ヨーロッパで最後に独立した国。でもアイルランドという地域自体はケルトの民族と文化が昔からある、すごく歴史が古い場所。
 アイルランドには高い山がない。一番高いところで1000mなくて、「○○マウンテン」と呼ばれる山もない。「○○ヒル」と呼ばれる場所がせいぜい。そんな国土なので「エメラルド・アイランド」と呼ばれるくらい、牧草で覆われた緑の島になっている。
 首都ダブリンからちょっと電車で出ると、そこはもう牧場。そして延々と牧場が続いて、ヒツジなどが見える。そんな広大な環境で暮らしていると、哲学的な話が日常的に交わされるようになる。そのせいか、アイルランド人にはノーベル文学賞をもらっている人がすごく多い。
 アイルランドはパブが発祥した国でもある。「パブ」というのは「パブリック」という言葉から生まれた言葉。イギリスのパブはただの飲み屋になっているけど、アイルランドのパブは「パブリック・スペース」としての機能を今でもちゃんと持っていて、ストリート・ミュージシャンの卵たちが練習場所として空いている時間に使わせてもらったり、地元の町内会の寄り合いや、小中学校の遠足向けにトイレの提供などを行っている。
 アイルランドはパンク・ミュージックの本場でもある。だから刺青を入れてピアスをいっぱい付けたお兄ちゃんたちがパブで飲んでいたりする。日本だとそういう雰囲気はけっこう怖い。ところがそこに、アメリカから来たと思われる観光客のオバチャンがドヤドヤと入ってきたら、お兄ちゃんたちは椅子を立って「どうぞどうぞ」と席を譲っていた。「みんな観光で疲れたでしょ?俺たちは若いから大丈夫」って、このホスピタリティには感心させられた。
 こういうホスピタリティは、日本が失ってしまったモノだと思う。こういうことを見るだけでも行く価値がある。それにフランスやドイツでも、英語を勉強しに行く場所として、イギリスじゃなくてアイルランドを選ぶ人は多いらしい。
 歴史と文化を若い内に見ておくというのは大切なことだと思う。ロンドンやパリで「観光」をしたり、アフリカあたりを「冒険」するんじゃなくて、アイルランドでは温かいほのぼのとした人間の暮らしに触れることができる。

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鈴木裕史さん(放送作家)の

『世界一周』の話

 2001年4月1日、留学していたロサンゼルスを出発して、東回りに世界を一周。同年9月11日に日本へ帰ってくる、という旅行をした。実に163泊164日という旅。
 もともと働いていたけど、仕事を全部やめて、純粋に学生として留学していた。でも帰ったら仕事をしなくちゃいけない。だから「最後の春休み」だと思って、スターアライアンスの「世界一周チケット」を買った。これは30万円くらい払うと、スターアライアンスの飛行機だったらどこでも乗れるというチケット。飛行機界の青春18キップみたいな感じ。若い人が世界一周をしようと思ったら、絶対に利用すべき。
 ロサンゼルスを出発して、まずはカナダのトロント。ニューヨーク、ロンドン、パリと回った。パリからは「ユーレイロ・パス」という観光客向けの電車乗り放題チケットを使って電車で移動した。このチケットは一等車にも乗れるのが特徴で、日本で言えば新幹線にも乗れてしまう。これでヨーロッパ中を回った。
 僕の場合、3年間も仕事をしていなかったので、お金はなかった。でもバックパッカーというほどヘビーでもなかったので「なんちゃってバックパッカー」と自称していた。さすがに300円の宿だと、板の間に寝るようなことも多いし、シャワーも水でも出れば上等、という感じだから。
 ヤモリが出るくらいならまだ良い方。僕はヨルダンのアカバという街で、1泊500円くらいの宿に泊まったら、身体中50箇所くらい蚊に刺されてしまった。ヨルダンの蚊は力強くて、刺された場所は2cmくらい膨らんでる。それが全身50箇所あったら、痒くて痒くておかしくなるかと思った。
 中東はトルコからバスで入って、シリア、レバノン、キプロス、イスラエル、ヨルダン、そしてエジプトへ抜けた。あの辺は飛行機や電車があまりないので、バスがすごく便利。向こうの人にとっては生活のルートとして定着している。
 だから「バス・ターミナル」というドラマもやっていた。日本で言えば「シンデレラ・エクスプレス」みたいな感じ。大きなバス・ターミナルになると、200〜500台のバスが止まっていたりするので、そこここでカップルがキスをしている。それをドラマにしたものらしい。バス・ターミナルで現地の人たちの生活の一部が見れたような気がした。

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石原隆さん(テレビ番組制作会社/写真右)と高井一郎さん(フジテレビ ドラマ・プロデューサー/写真左)

『スペインとモロッコ』の話

 学生の時だから1975年頃、バルセロナへ行った。夜の9時くらいにフランクフルトから「イベリア・エクスプレス」に乗って、スイス、南フランスを経由して、朝の8時くらいにバルセロナに着いた。
 バルセロナの駅を出たら、そこにはもの凄い数の客引きがいた。スケッチブックにマジックでベッドとシャワーの絵が描いてあって、値段を書いてある。その値段はだいたい800円くらい。シャワーに×が付いていると500円くらい。そんな客引きが大勢いた。
 僕と友人はお金が無かったから、その中から一番安い宿に決めた。そこは朝ご飯付きで250円。もちろんシャワーは×(共同)。いったいどんなに酷い部屋なのか……と覚悟して連れて行かれたその宿は、びっくりするくらい広い部屋だった。
 「もしかして、宿の人が間違えた?!ラッキー?」なんて思ったんだけど、よく見たらベッドが20台くらいある。つまり相部屋だった。その15人くらいいる相部屋の人の中に、日本人が1人いた。
 彼はいわゆるバック・パッカー。モロッコから戻ってきたばかりらしく、しきりに「モロッコは良いよ!」と言う。彼が言うには「モロッコではBICのボールペン1本でラクダが3頭買えた」のだとか。こっちでは一番ありふれたBICのボールペンが、向こうでは本当に貴重なものらしい。だから、もしこっちでたくさん買い込んで行けば億万長者になれる、という話だった。
 そんな話を聞いた僕と友人は、モロッコにも行くことにした。その話を信じたわけではないけど、せっかくだからちょっと足を伸ばしてみようかと。そして恥ずかしながら、一応、BICのボールペンも買って持っていった。
 モロッコが好きという人は多いけど、うなずける部分は確かにあった。ただ、僕たちが着いたタンジャという街は本当に酷かった。タクシーは人をすし詰めにするし、テッドワンという街に着いたら今度は客引きに引っ張られる。とにかく酷かった。
 その客引きの中に、流暢な英語を話す若者がいた。「僕は学生なんだけど、君たちも学生だろう?同じ学生のよしみで、良い宿に案内してあげるよ」と言う。しかも「学生だからお金はいらない、今度僕が日本に行った時に日本を案内してくれよ」なんて泣かせることも言うので、彼に案内してもらうことにした。
 彼は迷路のような市場を抜けて、どんどん奥へ行く。途中「これはもう自分じゃ戻れないな」と思うくらい奥まで行った時に、その彼がいきなりナイフを出して、「金をよこせ」と流暢な英語で言い出した。
 この時、僕は「ヤバイ」と真っ青になった。実はその時点では、まだお金をモロッコの通貨に替えていない。しかも国境の両替所でトラベラーズ・チェックを替えようとしたら「これじゃダメだ」と断られている。持っていたお金はせいぜい500円くらいのスペイン通貨だけだった。
 一応、そのスペイン通貨を出してみたら「ふざけんな」と言われてしまった。そして「お金を持っていないんだ」と説明すると、彼が提案してきたのが「タバコを持ってないか?」ということだった。マルボロやキャメルといった外国タバコが非常に貴重なので、それでも良い、ということらしかった。でも僕らはそれすらも持っていなかった。
 そこで彼がさらに提案してきたのが「BICのボールペンを持っていないか?」だった。僕らは喜び勇んで「それなら持ってる!」と、カバンの中からBICのボールペンを取り出した。たぶんその時、彼はBICのボールペンを1本盗ろうと思ったのだろう。そこに僕らは1ダースのボールペンを取り出した。あんなに人が驚いた顔を、その後2度と見たことがない。
 僕たちはBICのボールペンでラクダは買えなかったけど、BICのボールペンで命を買った。
 それから約四半世紀以上が経った今年の7月、僕はそれ以来初めてバルセロナを訪れた。泊まったホテル『マジェスティック』は5つ星のホテル。チェックインするとポーターが荷物を持って、部屋へ案内してくれた。
 「こちらのお部屋でございます」と案内されたその部屋は、25年前に泊まった部屋とほぼ同じ広さの部屋に、ダブルベッドが1つしか置かれていなかった。若い頃に苦労をしておくと、大人になって良いホテルに泊まった時に、ひとしおの感慨がある。

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■ 放送曲目リスト

Time Title Artist Label Number
8'12" Around The World Kay Starr Jasmine JAS CD 307
17'34" Give Me A Break Karrin Allyson Concord Jazz CCD-2291-2
24'53" A Big Beautiful Ball Jackie & Roy Verve J25J 25137
39'07" Swinging Down The Lane Perry Como BMG COL-CD-2764


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