バイクに乗るようになってから、肌の感覚が敏感になった。
たとえば北海道でドーンとした一本道を走っていると、風がいきなり変わるのが分かる。それは夏から秋に変わる瞬間だったりする。もうすぐ雨が降りそうな時も分かる。五感が研ぎ澄まされる感じ。匂い、風の温度、湿度、そういったことが敏感に感じられる。
私が好きなのは真夏のカーッとした空気。汗がダラダラ流れてくるくらい暑いんだけど、ちょっとスピードを出すとその汗がスーッと引いて、爽やかになる。その時の風が好き。
去年はずっとイタリアに行っていた。向こうでオートバイを借りて、あちこちを走ってきた。イタリアの空気はすごく乾燥していて、南の方はまさに「照りつける太陽」だった。その暑さは「干からびちゃうかも?!」というくらいで、イタリアでシエスタ(お昼寝)という習慣があるのももっともだと思った。
シチリアの空気は最高だった。カラッと乾燥していて、休憩の時に飲む濃いオレンジジュースは最高。その場で絞ってくれたようなオレンジジュースを飲むと、「さあ、次の場所を目指そう!」と元気がわいてくる。
奄美大島の空気も好き。すごく雨がちな島なので空気が湿気ている。でもその空気が喉に優しく、肌にも優しく、ふんわりと包み込まれるような優しい湿気を帯びている。
アメリカのネイティブ・アメリカン居住区を1〜2ヶ月旅した時のことも忘れられない。その時は車で旅をしたんだけど、何時間走ってもずっと同じ景色が続いた。だんだん眠くなってきて、「私はいったい何をやっているんだろう?」という禅問答も始まったり。ずっと夢の中を運転しているような感じだった。
そこの空気はカラッカラに乾いていて、生きているのか死んでいるのか分からない干からびた草が生えていたりした。イメージ的には「エスカレーターを逆に歩いている」ような感じがした。
そんな旅の途中で、いきなり雨が降ってきた。砂漠の雨は意外とアグレッシブで、まさに豪雨。前の車のテールランプも見えなくなるくらいだった。そんな豪雨の中を必死になって1〜2時間ぐらい進んだら、パッと雨がやんで、目的地まであと1マイルという標識が見えた。
その瞬間の景色が、あり得ない景色だった。メサやビュートなどの岩山が地平線にポツポツと見えて、その岩山と岩山の間を虹が何本も架かっていた。しかもその虹の橋がしっかり地面まで掛かっている。まるで地球じゃないどこかにいるような感じだった。
車を降りて、その景色をボーっと眺めていたけど、そこには少し乾燥しているんだけど湿気を帯びた、寂しい風が吹いていた。どこか懐かしい風だった。