高橋克彦さんの『火怨 ―北の燿星アテルイ』という講談社文庫の上下2巻をまずお読みいただきたい。この本は、坂上田村麻呂が東北の乱を征伐しに行った史実を、坂上田村麻呂に滅ぼされた側から描いたお話。
時は8世紀。東北で黄金が産出されるようになり、それまでは東北を無視していた朝廷が、黄金を手に入れるために東北を支配下におこうとする。そこで20年に渡る戦いが繰り広げられることになる。
ところが実は、蝦夷(えみし=東北の先住民族)には、中央に刃向かう気はまったくない。ただ静かに暮らしたいだけなので、彼らはなるべく人を殺さずに、友好関係を結ぼうと努力をしながら戦いを続ける。
この本ではその戦いの描写がすごくて「お前が見てたのかよ!」と突っ込みたくなるくらいディテールが細かい。しかも新しい戦略をどんどん考えだすし、迫力も満点。登場する男たちも格好良い。
結局、この戦いは20年間続き、最後に主人公のアテルイが降伏することで終結する。ただ、もしアテルイが降伏しなければ、もう10年は戦いが続いただろうと言われるほどの天才だった。
そんなアテルイの戦いを描いた上下2巻の『火怨』を読んで面白いと思ったら、次はその300年後の東北を舞台にした『炎(ほむら)立つ』を読んで欲しい。NHK大河ドラマにもなった小説で、奥州藤原氏4代の歴史を描いた作品。
この小説も作者は高橋克彦さん。8世紀の『火怨』から300年も経っているので登場人物は1人もダブっていないけど、意味的には「火怨で滅んだ蝦夷の末裔たち」が描かれる。戦う相手は、朝廷から派遣されてきた源義家。つまり源氏が最初に世に出るきっかけになった戦いとも言える。
ちなみに『炎立つ』は全5巻。130年に渡る長大なお話なので、けっこう長い。それでも『火怨』の興奮は続く。
さらに『炎立つ』が面白ければ、その400年後、戦国時代の東北を舞台にした『天を衝く』という小説がある。九戸政実という南部一族の男を主人公に、20万人の秀吉軍を敵に回して、わずかな戦力で戦った英雄のお話。
『火怨』で滅ぼされた蝦夷、『炎立つ』でやってきた源氏、そんな歴史を経て東北に残った人々の末裔が、東北の民として一致団結して秀吉に立ち向かう。つまりそこまで読み進むと、高橋克彦さんが『火怨』で書きたかったのは、蝦夷というある一族の話ではなく、東北という地に住む人々の暮らしを守ろうとする誇りと気概だったということに気付かされる。
この「みちのく三部作」、著者の高橋克彦さんはもちろん東北の出身。東北とそこに住む人に対する思い入れがあるのだろう。全部読むと9冊で、それぞれもけっこう厚いけど、最初の『火怨』が面白いと思ったら、一気に読めてしまう。