SUNTORY SATURDAY WAITING BAR
2006年4月22日の放送

この日の放送曲目リスト/過去の放送内容リスト

「WBCの裏側」

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 春分の日の3月21日、野球の日本代表チームがWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)決勝でキューバを破り、記念すべき第1回大会で見事優勝を果たしたのは、みなさんもご存知の通りです。
 当店のお客さまには、実際にアメリカへ行って取材をしてきたり、中にはチームの一員として参加していた方もいらっしゃいます。そういったお客さまがWBCフィーバーも一段落してきた最近になって当店へお立ち寄りになり、あまり語られることのないWBCのお話をして下さいました。
 今日はそんな「WBCの裏側」のお話を、ここで少しだけご紹介させていただきます。


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衣笠祥雄さん(野球解説者)の

『野球の基本』の話

 強いチームとは、1個のボールが動く時に、9人の選手がそれぞれの役割をちゃんと果たすチーム。ボールが飛んだ場所の人だけが動いているようなチームは弱い。
 たとえばノーアウト・ランナーなし。そこでバッターがライト前にヒットを打ったとする。その時、2塁手はカット・マンとしてライトと2塁の線上にいなければいけないし、ショートは2塁にいなければいけない。キャッチャーはライトとファーストを結んだ線の後方でカバーをしなければならない。こんな風に、1個のボールに対してどれだけチーム全体が動けるかが野球というスポーツでは非常に重要。
 だから「何かあった時のカバーリングがどこまでシステムとして出来ているか」で強いチームと弱いチームはハッキリ分かれる。テレビだとグラウンド全体が見えないので分かりにくいけど、実際に球場へ行って、ボールがどこへ飛んだ、じゃあみんなどう動いているか、と見渡すと誰でもわかる。
 WBCは最高の選手を集めた場だったけど、6月の終わり頃から始まる高校野球の予選を見ると「野球の勝つ方法論」「負ける方法論」が見えてくる。負けるチームはまず投手が四球を多く出す。それから野手はエラーする。間に合わないのに投げて暴投する。強いチームはこういうことをしない。
 ところで、WBC中継の解説で里崎捕手のリードに苦言を呈したのは、捕手には「ある場面で絶対にされてはいけないこと」があるから。その中の1つが「1点を争う場面で引っ張って本塁打を打たれること」。流して本塁打を打たれたのならまだ諦めもつく。その打者の持つ最高のモノを引き出してしまうようなボールは絶対に避けなければいけない。
 もちろんそこで相手の裏をかく、という考えも時には有効だけど、里崎選手のリードは見ていて怖かった。たとえば韓国のイ・スンヨプ選手は内角高めに弱点があるけど、そこからちょっと低くなると途端に強くなる。しかもWBC中は本塁打を連発して絶好調。1点を争うゲームの中で、よくその内角高めを要求するな……と思ってコメントした。
 たまたまあの時はイ・スンヨプ選手を抑えられたけど、2次リーグが終わった時点でわずかな失点率の差で日本は準決勝に進出。万が一あそこで本塁打を打たれていたら、失点率で逆転されていたかもしれない。正直、見ていて「度胸が良いのか?何も考えていないのか?」と思った。
 やっぱりセオリーは外角低め。外角ギリギリのボールを本塁打にできる打者はいない。もし10球投げて10球とも外角低めに投げられる投手がいたら、ずっとそこに投げるだけでいい。しかしそれが出来ないのが人間であり、だからこそ人間のやるスポーツは面白い。

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王理恵さん(スポーツキャスター)の

『父・王貞治』の話

 WBCの優勝以降、何度「おめでとうございます」と言われて乾杯したかわからない。今でもその余韻は続いている。
 みんな応援はしていても、まさか世界一になるとは思っていなかったみたい。正直、父(王監督)も家では「とりあえずアメリカ(2次リーグ)には行かないとなぁ……」と言ってたほど。
 「サダハル・オウ」の名前は向こうでもずいぶん知られていて、監督として出場したことにもずいぶん驚かれたらしい。私もそういう場面に出くわしたことがなかったのであまり知らなかったけど、向こうではお爺ちゃんが野球少年に戻ったような雰囲気で父のサインを求める姿を見かけた。父は、向こうでは日本とはまた違った捉え方をされているらしく、さらに今回、監督として世界一になったことで、また株が上がっているみたい。
 イチロー選手も、おそらく日本にいた頃は、今ほどには父に対する想いみたいなものはなかったのでは。でもメジャーに行って、向こうで父の凄さを実感して、それが「王監督に恥をかかせるわけにはいかない」という発言に繋がったのだと思う。父もあの言葉を聞いてすごく嬉しかったらしい。
 イチロー選手といえば、WBCで世界一になって、シャンパン・ファイトなども全部終わり、ホテルに戻ったその夜。私が父と一緒に決勝戦のビデオを見ていたら、イチロー選手が回り込んでホームベースにタッチするシーンを見て、父が「イチローはすごくセンスがあるんだよなぁ……」と呟いていた。
 それから福留選手が韓国戦で打ったホームランに関しては「打った福留がスゴイ」と言っていた。ちなみに代打で出したことよりも、先発だった福留選手をレギュラーから外す方が勇気がいったのだとか。さらに言えば「準決勝のホームランよりも、決勝戦でヒットを打ったことの方が嬉しかった」とも言っていた。
 実は父は、かなり喜怒哀楽をハッキリ出す人で、巨人の監督時代はそれをずいぶん抑えている風だった。でも博多に行ってからは喜ぶ時は喜ぶし、怒る時は怒るようになった。より人間らしくなったというか、今の父だから日本代表チームの監督も務まったし、世界一にもなれたんだと思う。
 選手ともずいぶん仲が良いみたいだった。決勝戦の前夜、監督主催の食事会があったんだけど、けっこう和やかな雰囲気で、父がお酌をしたりもしていた。食事会の前は「決戦前夜だし、私が行ってもいいのかな?」と思ったんだけど、行ってみたら「じゃ、明日は頑張りましょう!かんぱーい!」で楽しく飲み食いしているだけ。しかもアメリカだからビールもピッチャーでドーン!お肉もドーン!ロブスターもドーン!みたいな席で、選手の家族も一緒にみんなで和気あいあいと食事をしていた。私も大塚選手の家族と一緒のテーブルで楽しい時間が過ごせた。
 ただ、最後に世界一になれてすごく良かったんだけど、日本代表チームはずいぶん待遇は悪かったみたい。アテネ五輪の長嶋ジャパンの時は、有名な日本料理屋のスタッフがチームに帯同して、食事はすべて豪華な和食が出ていた。ところが今回は選手に1万円ぐらいのプリペイドカードが渡されただけ。それを使ってホテルのレストランで勝手に食べてくる、というシステムだった。それをオーバーしたらもちろん自腹。選手が「あといくら残ってる」なんて計算してる姿はどうかと思った。
 そんな環境や誤審といった逆境があったので、結果的に選手たちは結束したという側面はあったらしいけど。

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大島康徳さん(野球解説者/WBC日本代表チーム打撃コーチ)

『イチローと松坂』の話

 WBCの日本代表チームにおいて、イチローの存在は非常に大きかった。
 まず、予選が始まる前にチームが集合した合宿で「今の気持ちのまま行くと、アメリカには勝てない」という話をバシッとしてくれた。もちろん監督からもそんな感じの話はあったけど、やっぱり選手の中から出る言葉というのが一番重かった。今にして思えば、イチローがリーダーシップを発揮しながらあそこでガツンと言った一言が金メダルに繋がったような気がする。
 はっきり言って、イチローはオーラが違う。監督は別格として、若手の選手のみならずコーチの僕でさえ近寄りがたい雰囲気があった。そこで、その緊張感をほぐすのはキャラクター的に自分しかいないと思って、僕からイチローに近づいていった。
 最初の接触はティー・バッティング。僕がボールをトスしていたら、イチローが「大島さん、ヘタクソ」って言うから「イチロー!ヘタクソはないだろう(苦笑)!」とやり返した。
 普通、ティー・バッティングはウォーミングアップ的にやるものなんだけど、どうもイチローはティー・バッティングから試合を想定してやっているらしい。だから「今のはボールです」というのがイチローの主張。これには驚いたけど、僕の闘争本能にも火がついて「やめるまでに上手いと言わせてやる!」と思った。結局「よし!上手くなった!」と思った頃にはイチローはティー・バッティングに来なくなってたけど。
 話は変わって決勝のキューバ戦。日本の先発投手は松坂大輔だった。ところがゲームが始まって、1回の表の日本の攻撃中、隣の投手コーチ(鹿取義隆さん)が「大変なんだよ……」と呟いている。日本は1回の表に4点も取っていたので「何が大変なんだよ?」と聞いたら「いや……今は言えない」と言う。「いま言わなきゃいつ言うんだよ!」と問いつめたら、「実は松坂が首を痛めているんだ」と。これには「えっ?!」と驚いた。
 なんと先発の松坂は、投球練習の最後の1球で首を痛めてしまったのだとか。松坂に「行けるか?」と聞いたら「行けます」と言うので、とりあえずそのままマウンドに送ったけど、渡辺俊介など他のピッチャーの準備は初回からさせていた。そして1回の表に日本が4点を取れたことも大きくて、30分近くかかったその攻撃の間に、松坂はマッサージを受けることができた。もし、1回の表の日本の攻撃が3人であっさり終わっていたら、松坂のあの好投はなかったかもれない。
 おそらく監督は3イニングで松坂を代えるつもりだったと思う。ただ「もう1イニングいけるか?」と松坂に聞いたら「行けます」と言って、松坂は先発のノルマだった4回を投げきってくれた。そんな感じで、1回の表裏、日本代表のコーチ陣はハラハラのドタバタ。それでも監督は何食わぬ顔で采配していた。
 終始リードする展開だったとはいえ、相手は世界のキューバ。楽勝だと思うことはなかったし、実際ジリジリと追い上げられた。9回の表にキューバを突き放す追加点をあげて、やっと「これでもらった!」と思えた。
 最後に審判から「ベンチから乗り出すな」と注意されたのも、今となっては笑い話。キューバの選手はベンチから出て水をまいていたのに、ベンチから片足の、それもつま先だけが出ていた日本だけ注意する審判には「またアンパイアかよ!」と思ったけど。

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義田貴士さん(スポーツジャーナリスト)の

『選手の和』の話

 WBCが始まる前に「日本代表がどこまで勝ち進めたら拍手を送りますか?」と聞かれた。その質問に対して僕は「2次リーグでアメリカと対戦して、接戦で負けたとしても拍手をしたい」と答えた。それくらいアメリカ代表は強いチームだったし、世界はそんなに甘くないと思っていた。それが世界一という最高の形で終われたのは本当に嬉しい。
 2月20日の福岡合宿から日本代表チームはスタートした。イチローや大塚などのメジャーの選手に対しては、そこで「はじめまして」と挨拶しなきゃいけない選手も多かったはず。その状態からチームの和を作らなければいけなかった。
 中には「やってられねぇよ!」と腹を立てる選手も出たと思う。実際、西岡選手のあのタッチアップ。審判にアウトと宣告されて「これをアウトと言われたら野球なんかやってられるか!」と思ったらしい。でもそこでチーム全体が「これで負けてたまるか!」と一致団結したおかげで、西岡選手も「そうだ!これで負けるわけにはいかない!」と切り替えられた。そんな様々な苦難を乗り越えて、チームが1つにまとまっていった。
 サッカーの世界ではW杯に向けて日本代表チームの強化試合や合宿が定期的に組まれている。でも野球の世界で「プロの日本代表」を作ったのは、アテネ五輪に続いて今回が2回目。まだまだチームの和を作るのは難しい。しかも日本代表として集められた選手は、みな所属チームでは主力と呼ばれる選手たち。「オレが打ってなんぼ」「オレが抑えてなんぼ」という選手たちが、今回のチームではみんな自分の役割に徹していたのが素晴らしかった。それは目に見えないところだったり、テレビに映らないところだったりする。
 たとえば川崎選手がエラーした時に動いたのは宮本選手。川崎選手のオドオドした目を見て、ベンチに戻った川崎選手の所に駆けつけた。そして川崎選手の性格を考えて、「お前は褒めるとエラーするんだなぁ!もっとうまくやれよ!」と冗談交じりに叱咤激励した。今回のWBCでは改めて野球の面白さを再認識すると同時に、こんな人間の深さを痛切に感じさせられた。
 ちなみにヤンキースの松井選手は誤解されている部分があって、本当はWBCに出たいと思っていた。特に王監督は松井選手にとって特別な人で、巨人の入団1年目からずっと声を掛けてもらっていた人。だからWBCには出たかったけど、自分では決められない事情があって苦渋の決断をせざるをえなかった。WBCに出場したかった松井選手がいた、という事実は忘れないで欲しい。

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アルベルト・ロペスさん(メキシコ大使館 報道官)

『メキシコの勝利の後』の話

 私は何もしていないけど「WBCではありがとうございました」というメールが500通以上、メキシコ大使館に送られてきた。
 最初のメールが届いたのは試合が終わった1分後。「グラシアス!グラシアス!(ありがとう)」というメールが来て、最初はいったい何のことかと思った。すぐにメールは100通を超えて、「なんでこんなにお礼を言われるんだろう?」と首をひねっていた。
 中にはわざわざスペイン語や英語で書いてくれた人もいた。メール以外にも、電話も鳴りっぱなし。留守電も感謝の言葉でいっぱいで、せっかくだから取ってある。さらにFAX、手紙、花束も届いた。
 メキシコ大使は代表チームのリーダーに連絡を取って、日本でこんなに感謝されていることを伝えた。そして届いたモノを全部送ったので、すごい量になった。あれは言葉がわからなくても、きっと感動してくれると思う。
 私も試合はテレビで見ていた。準決勝に進めないとわかっていながら一生懸命戦ったメキシコ代表チームにはスポーツマンシップを感じたし、格好良かったと思う。みんな頑張ったし、試合内容もすごく良かった。
 アメリカは非常に強い国だし、アメリカで行われた試合。誰もがアメリカが勝つだろうと思って当然だと思う。一方、メキシコはそこまであまり調子が良くなかった。それをひっくり返して勝ったのだからスゴイ。
 今回の一件で、日本にはメキシコが好きな人がたくさんいることを実感できた。日本とメキシコの間にある友情が、改めて感じられた。

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■ 放送曲目リスト

Time Title Artist Label Number
9'20" Baseball Baseball Jane Morgan RHINO R2 70959
20'35" They Say It's Wonderful Keely Smith Jasmine JASCD 322
33'14" Did You See Jackie Robinson Hit That Ball? Count Basie & His Orchestra (featuring Taps Miller) RHINO R2 70710
42'17" Alright, You Win Peggy Lee Capitol 7243 5 35210 2 8
47'33" Frenesi Eydie Gorme Capitol TOCP-50457


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