家庭料理は、本来は手間がかかるモノであっても、経験を積む内に上手く手間を省いて、簡単にする術を身につけるのが普通。とは言っても「押し寿司」などはどうしても手間がかかってまう。
私は母方が九州の出身で、「大村寿司」という押し寿司を作ることがある。大村寿司を作る時は、中に入れるシイタケやニンジン、レンコンなどの具を1つずつ煮なければいけないし、春の食べ物なのでフキなどの材料はアク抜きも必要。タイは塩して酢で締めて、酢飯も作って、最後に押して出来上がり。
昔、母が作ってくれた料理の中にもずいぶん手間のかかった料理があった。それは中華料理で、鶏をまるごと油で揚げた料理。でも普通に鶏を油で揚げようとしたらピシャピシャになってしまう。そこで油を掛けるようにして鶏を揚げる。そしてショウガやニンニクのタレを作って、そこに揚げた鶏を漬け込む(タレをかけるだけでもOK)。これが本当に美味しかった。
大人になって自分でも作ろうとしたんだけど、鶏を丸ごと1羽というのは大変だから、もも肉だけでやってみた。ところがやっぱり1羽まるごとじゃないと、本来の味にならない。時間をかけて少しずつ油をかけて、皮をパリパリに揚げつつ、肉汁を中に閉じこめるからこその味なのだろう。
その揚げた鶏肉には、刻んだネギのタップリ入った醤油とショウガのソースが本当に良く合った。作るのが大変だから母もそんなに何度も作ってくれたわけではないけれど、子供の頃に法事か何かあって母が作ってくれたその料理に「こんなに美味しいモノは食べたことがない!」と感激したのを今でもハッキリと覚えているのだから、その時の衝撃がうかがわれる。
料理本の中でその母の鶏料理を再現してみようとしたけれど、鶏に火が通るまでものすごく時間が掛かった。鶏に竹串を刺して、中から澄んだ汁が出てくれば火が通っていて、血や白濁した汁が出てくるようだとまだ火が通っていないということ。澄んだ汁が出る頃には、鶏の外側は茶色になっている。
母は料理上手だし、美味しいモノを作ってくれたけど、いかんせん面倒くさがり屋だった。とても男っぽい気性で、その鶏料理を食べたいと言っても「そんなもん時間かかるからダメ」とあっさり却下された。でも「あの鶏は美味しかった」という記憶はいつまでも残った。
最近は鶏肉も骨が付いていると「調理に時間がかかる」という理由で、なかなか売れないらしい。でも骨付きだからこその美味しさもある。私も一度はあの鶏肉料理を娘たちに食べさせて、受け継いで欲しいと思う。