SUNTORY SATURDAY WAITING BAR
2006年4月15日の放送

この日の放送曲目リスト/過去の放送内容リスト

「手間のかかる料理」

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 昔から「男の料理」なんて言葉はよく使われますが、普段あまり料理をしない人の料理は「とても簡単な料理」か「やけに手間のかかる料理」のどちらかに偏りがちなもの。私、小穴もそうですが、やり慣れないだけに適度に力を抜くということが出来ないんです。
 簡単な料理は誰でもできますが、手間のかかる料理は、頑張ったわりには失敗の多いもの。そこで本日は、当店を訪れた料理のプロの皆さんが教えて下さった「本当の手間のかけ方」をご紹介させていただきます。ぜひ参考にしてみて下さい。


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藤野真紀子さん(衆議院議員/食育料理研究家)

『手間のかかる家庭料理』の話

 家庭料理は、本来は手間がかかるモノであっても、経験を積む内に上手く手間を省いて、簡単にする術を身につけるのが普通。とは言っても「押し寿司」などはどうしても手間がかかってまう。
 私は母方が九州の出身で、「大村寿司」という押し寿司を作ることがある。大村寿司を作る時は、中に入れるシイタケやニンジン、レンコンなどの具を1つずつ煮なければいけないし、春の食べ物なのでフキなどの材料はアク抜きも必要。タイは塩して酢で締めて、酢飯も作って、最後に押して出来上がり。
 昔、母が作ってくれた料理の中にもずいぶん手間のかかった料理があった。それは中華料理で、鶏をまるごと油で揚げた料理。でも普通に鶏を油で揚げようとしたらピシャピシャになってしまう。そこで油を掛けるようにして鶏を揚げる。そしてショウガやニンニクのタレを作って、そこに揚げた鶏を漬け込む(タレをかけるだけでもOK)。これが本当に美味しかった。
 大人になって自分でも作ろうとしたんだけど、鶏を丸ごと1羽というのは大変だから、もも肉だけでやってみた。ところがやっぱり1羽まるごとじゃないと、本来の味にならない。時間をかけて少しずつ油をかけて、皮をパリパリに揚げつつ、肉汁を中に閉じこめるからこその味なのだろう。
 その揚げた鶏肉には、刻んだネギのタップリ入った醤油とショウガのソースが本当に良く合った。作るのが大変だから母もそんなに何度も作ってくれたわけではないけれど、子供の頃に法事か何かあって母が作ってくれたその料理に「こんなに美味しいモノは食べたことがない!」と感激したのを今でもハッキリと覚えているのだから、その時の衝撃がうかがわれる。
 料理本の中でその母の鶏料理を再現してみようとしたけれど、鶏に火が通るまでものすごく時間が掛かった。鶏に竹串を刺して、中から澄んだ汁が出てくれば火が通っていて、血や白濁した汁が出てくるようだとまだ火が通っていないということ。澄んだ汁が出る頃には、鶏の外側は茶色になっている。
 母は料理上手だし、美味しいモノを作ってくれたけど、いかんせん面倒くさがり屋だった。とても男っぽい気性で、その鶏料理を食べたいと言っても「そんなもん時間かかるからダメ」とあっさり却下された。でも「あの鶏は美味しかった」という記憶はいつまでも残った。
 最近は鶏肉も骨が付いていると「調理に時間がかかる」という理由で、なかなか売れないらしい。でも骨付きだからこその美味しさもある。私も一度はあの鶏肉料理を娘たちに食べさせて、受け継いで欲しいと思う。

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アンジェロ・コッツォリーノさん(自由が丘『バッボ・アンジェロ』)

『イタリア料理と日本料理』の話

 本来、イタリア料理はサッと作って温かい内にパッと食べるもの。だから手間のかかるイタリア料理はノーヴァ・クチーナ(ヌーヴェル・キュイジーヌ)以降の新しい料理に多い。
 料理はベースが大事。イタリア料理ならトマトソースとダシ。この2つがあれば、素材が美味しいのでなんでもできる。だからソースはほとんど使わない。逆にフランス料理は、ソースの味で美味しいと思わせる。日本の和食は細かい細工をしてあるので、冷たくても美味しい。むしろ冷たくても美味しいから、ゆっくり時間をかけて手間をかけられるとも言える。温かい内に食べようと思ったら、あれだけの細工はできない。
 ピザなんて、日本のお店ではテーブルに持ってきて丁寧に切り分けたりしているけど、あれは雰囲気モノ。イタリア人のお客さんにそんなことをやったら「早く食べたいんだから邪魔!」と怒られてしまう。もっとも、雰囲気を大事にする日本流も僕は好きだけど。
 イタリアのレストランに行くと、よく「QB」と書いてある。これは「Quanto Basta(クワント・バスタ)」の略で、「適量」という意味。つまり「自分が入れたいだけどうぞ」という表現で、これがメニューにやたらと多い。でも日本では「一手間かかっている」ことが大事なので、見た目などにも気を遣う。味だけではなく、見た目も大事だということは、僕は日本に来てから学んだ。
 たとえばカツオのたたき。ワラを燃やして、その火であぶって、すぐに氷水に漬ける。イタリア人の感覚では「なんで魚を水に入れちゃうの?」と思ってしまうけど、食べてみれば「あ、こうして手間をかけた方が美味しいのか」と納得できる。こういう手間のかけ方はイタリア人がもっと学ぶべきところだと思う。
 京都で真鯛の骨を食べた時も驚きだった。その真鯛の骨は油で揚げてあったんだけど、まず40度の油で10分ぐらい揚げる。一度油から上げて、氷水に入れ、水分をキレイにふき取って、今度は120度の油で揚げる。こんな手間をかけると、真鯛の骨が柔らかくパリッと揚がって、めちゃくちゃ美味しい。こんな手間のかけ方は、イタリア人ではちょっと考えられない。

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有馬裕孝さん(池尻『ブラッスリー・イブローニュ』)

『フランス料理の手間』の話

 ウチは「フランスの家庭料理」なので、基本的には単純な料理が多い。ただその分、手間を掛けるか掛けないかで味に大きな差が出てしまう。
 たとえば肉。昔、流通がまだ発達していなかった時代は、臭味が出やすい内臓を調理するには、臭味を抜くためにいろんな作業をする必要があった。また耳などを使う時はちゃんと毛を削がなければいけない。そういう細かい作業に「愛情」とか「気持ち」みたいなものが出る。
 実はお店を開けている時は、厨房では8割ぐらいまですでに出来上がっている料理を完成させる作業をしている。だから正直、そこはそれほど手間が掛からない。その前の仕込みの段階で、どれだけ自分の中で気持ちを込められるかが分かれ目。そこでほとんど料理の質が決まってしまうと言ってもいい。
 特に時間が掛かるのが煮込み料理。僕はリーズナブルな値段にこだわりたいので、それほど良い材料は仕入れられなかったとしても、その分、手を加えることで美味しい料理を出したい。煮込み料理なら、一度煮込んで、次の日にもう一度沸かして、さらに冷まして……という作業を重ねることで、中まで旨味が入っていく。一度沸かして「はい、出来上がり」でもある程度のモノはできるんだけど、沸かして、冷まして、という作業を何度も繰り返す中で、お客さまに気持ちが伝わるんじゃないと思っている。
 レストランの料理が家庭料理と違うのは、大量に作れるところ。40人前の煮込み料理をドーンとまとめて作れるのは、作る側としても嬉しい。料理は攻めるところは大胆に攻めなければいけないので、時にはダイナミックにやることも必要だから。そして手間を掛けるべき所には手間を掛けて。
 実は僕自身が楽しんでやっているので、手間を掛けることを面倒とは思っていない。手間を掛けるのも楽しいし、それをお客さんが喜んでくれるのも嬉しい。
 ウチで一番手間が掛かる料理と言えば「スープ・ド・ポワソン」。これはプロヴァンスの方の郷土料理で、魚のアラや野菜を全部漉してしまう、見た目は非常に単純なスープ。でも魚料理は手を抜くと生臭い臭いが出てしまうので、エラや血合いをちゃんと取ったり、短時間で煮込んだり、火加減は一気に沸かしたり、とにかく手間が掛かる。魚の旨味だけを凝縮させたスープなので、ぜひ一度味わって欲しい……と言いたいところなんだけど、1ヶ月で10人前くらいしか作れないのが悩みのタネ。

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井桁良樹さん(代々木上原『老四川・飄香』)

『中華料理の手間』の話

 中華料理は仕込みに掛かる時間がほとんど。炒めたり作ったりする作業は一瞬で仕上げないと素材が死んでしまうので、時間はかからない。
 たとえばアオリイカの炒め物を作る時は、イカが固くならないよう一瞬で火を通す。でもその前に、皮を剥いて、包丁で目を入れて、ちょうど良い大きさに切り、イカの粘りを洗う、という下ごしらえをしておく。注文が来たら、サッと炒めて出すだけ。だからお客さまが注文してから出てくるまでは早いけど、かなり手間は掛かっている。
 クラゲは塩漬けになっているのを戻すのに1日くらい掛かる。まず80度くらいのお湯にサッと通して、水の中で揉んで塩を抜いて、あとは流水に晒す。この手の「戻す作業」で一番手間が掛かるのがナマコ。
 干してあるナマコを戻すのには1週間くらい掛かる。1日水に漬けて、一度ボイルして、内臓を外す。その後は毎日ボイルして、沸騰する寸前で火から外す、ということを1日2回ずつ繰り返す。3〜4日もすると大きさが倍になって、1週間ぐらいするとちょうど良い弾力になる。一晩明けると急に大きく膨らんでいたりして、案外楽しかったりもする。
 いま出している「豚のすね肉をまるごと煮込んだ料理」なども、1時間ぐらいボイルした肉を一度高温の油で揚げ、その後に6時間くらい煮込んでいる。最初にボイルするのは、豚肉の臭味や脂を抜くためで、高温の油で揚げるのは周りを固めて煮くずれしないようにするため。
 そこまであらかじめ下ごしらえしておくので、注文が来たら仕上げて出すだけ。出てくるのが早い料理ほど、実は手間が掛かっている場合が多い。

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米山光郎さん(四谷『津之守坂 よねやま』)

『日本料理の手間』の話

 ウチの姿勢は「直前に調理する」こと。お客さんが一皿食べ終わって、次の料理が一番のピークの時にお客さんの口に行くように逆算して調理する。煮込んでおいた方が美味しい料理もあるけど、日本料理の場合は「出来たての香りや温度から感じる美味しさ」の方が重要だと思うので、わざわざ小さいお店にしたのもそういう理由。
 カウンター越しだとお客さんとの距離は50cmくらい。目の前で焼き物を焼き、持てないくらい熱くした器を用意して、焼き上がった5秒後にはお客さんの前に出す。盛りつけなどの飾りは一切ないけど、油はまだ「ジュー」と音を立てていて、香ばしい匂いがフワッと漂ってくる。そこに徹底的にこだわるのがウチの料理。
 だから手間を掛けていると言えば材料。かなりキツイけど、毎日築地には行く。行かないと「なにか良いものがあるんじゃないか」と不安になるくらい。そして築地に行くと魚と目が合ってしまう。そうなったら2万円だろうが3万円だろうが、もう買うしかない。
 「これ、いくらするんですか?」と聞いて、本当ならウチじゃ出せない値段でも、ウジウジ悩んでないでパッと買うのが肝心。ウチはカウンター割烹の店なので、そういう潔さとか空元気がお客さんに伝わる。そう信じてウチはこれまでやってきて、お客さんも付いてくれたから、これからも続けようと思う。とはいえ、月末に銀行へ行くといつも大変なことになっているんだけど。
 今はフグやカニといった冬の素材が一段落して、サクラマスやサクラダイといった春の素材の季節。サクラマスなら、お腹のところを厚く切って、塩をバッチリふって、周りが真っ茶色になるくらいまで炭で焼き上げる。
 お客さんの目の前で「いま行きますよ!」と言いながら焼いていると、お客さんも箸を持って待っていてくれる。添えるのは木の芽を散らした大根おろし。マスと一緒に頬張ると、サクラマスの脂で木の芽の香りで春を堪能できる。
 菜の花のおひたしもカツオだしをバッチリ効かせて、菜の花のほろ苦さとカツオの香りが口の中に広がる。基本的には簡単なものだけど、お客さんが食べるタイミングとか料理の香ばしさ、温度などの精度を上げる。それがウチの手間。

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■ 放送曲目リスト

Time Title Artist Label Number
8'15" Somewhere My Love Frank Sinatra Reprise WPCR-1216
19'28" Mambo Italiano Bette Midler Columbia CK90350
32'40" Boum Blossom Dearie Verve POCJ-2653
41'32" Is You Is, Or Is You Ain't Ma Baby Vic Damone Capitol CDP 7243 8 28513
47'45" I'm Beginning To See The Light Peggy Lee Capitol 7243 8 54543 2 5


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