手を使う仕事の人と、頭を使う仕事の人では、如実に性格が表れるというか、仕事部屋に大きな違いがある。
手を使う仕事というのは、画家、刀匠、寿司屋、靴磨き、床屋など。こういった仕事をしている人たちの仕事場はすごく整頓されている。一流と呼ばれる人なら道具がゴチャゴチャしていることなんてまず無い。包丁でも筆でも「この場所にこれがある」とわかっていないと仕事にならないのだろう。
一方、頭を使う仕事というのは、経営者や作家。そういう仕事をしている人の仕事場はメチャクチャ。別に「ここにこれがある」と決まっている必要はないし、何かを探すのも考えながらだったりするので、それでも構わないのでは。
僕の場合「考え終わってあとは書くだけ」という時はけっこうちゃんと整理している。でもやっぱり考えている間はいろんな本がその辺に積まれていたりしている。
最近、千住博さんという画家と一緒に本を書いた縁もあって、彼のニューヨークのアトリエを見せてもらった。本当に整頓されていて、キレイで、その仕事部屋でご馳走になった料理もおいしかった。画家というのは大きな作品になると肉体労働だし、助手もいるので、ちゃんと食べないと気力が充実しないのかもしれない。
その千住さんの仕事部屋はとにかく広かった。高校の体育館とは言わないけれど、バスケットボールはできそうな広さ。でも千住さんに限らず、今の一流画家のアトリエはやたらと広くて、ビルの1フロアをまるごと使っていたりする。いっぱい仕事をしなきゃいけないから、その広いアトリエにいっぱい作品が置いてある。
ニューヨークでそれだけ広いフロアを借りるのは高いだろうけど、それだけの仕事があるということ。千住さんの場合はバック・オーダーが500枚あると言っていた。広いアトリエに、日本画の絵の具を調合する場所、絵を乾かす場所、いろんな場所があって、日本画用の岩絵の具の香りが漂っていた。
他の仕事場といえば、札幌の寿司屋『すし善』のカウンターも印象深い。普通のお寿司屋さんのようなガラス・ケースが無く、カウンターの一部がくり抜かれていて、そこにネタが仕舞われているので、握っている手元が見える。この方式を考えたのが『島善』で、後に高級な寿司屋がこぞって真似をするようになった。
横浜の洋服屋『フクゾー』のデザイン室と会議室を見せてもらった時は、窓を開けると海の匂いがするのに感心した。店の中にいるとわからないけど、上の階まで上がって窓を開けると、横浜港が見えて潮の香りがする。「こういうところでデザインしているから横浜らしいのか」と納得した。