最近のオススメはエリック・ガルシアの“恐竜ハードボイルド”。主人公は恐竜だけど、時代は現代。恐竜が絶滅したというのは実はウソで、人類に化けて生き残っている、という設定のお話。
人間の衣装を着ているので、人間にはわからない。でも恐竜同士は匂いでわかる。だから映画館で行列を作っていると「あ、アイツは恐竜だな」なんて。全人類の5%が恐竜なので、政財界にも、警察関係者にも、ハリウッドにも恐竜がいる。その中の1人、私立探偵をしている恐竜を主人公にした、すごくまっとうなハードボイルド小説。
第1作のタイトルは『さらば、愛しき鉤爪』。これは傑作中の傑作だと思う。ミステリーのプロットが“恐竜だからこそ成り立つ構造”になっているのが素晴らしい。
さらに、普段は恐竜であることをひた隠しにしなければならないけど、誰も見ていなければいいわけで、私立探偵として「いざ」という時に人間の衣装を捨て去るシーンが格好良い。人間の顔をしたマスクを剥ぐと恐竜のアゴが顔を出し、手袋を捨て去ると鉤爪が出てくる。こんな細部が本当に格好良い。
ちなみにこの小説の中では、ナポレオンとかジュリア・ロバーツが恐竜なんだとか。5%だからけっこう多い。
三羽省吾の『厭世フレーバー』もオススメ。タイトルも暗い感じだし、帯の「オレがお前のかわりに殺してやろうか」なんてコピーも暗い。でも実はそうでもない。
物語はお父さんが失踪してしまうところから始まる。おじいちゃんはほぼボケている。お母さんは落ちこんでいる。長男は失職したばかり。長女は深夜帰宅が続いて、何をしているのかよくわからない。末っ子の中学生は進学が嫌だと言い出す。
こんな表面的にはメチャクチャな家族を、残された5人、1人ずつの視点から描くのがこの小説。すると5人それぞれに様々な事情があり、それぞれのドラマが実に上手い。だからそれをずっと読んでいくと「そんなに捨てたもんじゃない」「けっこう希望はある」と力が湧いてくる。これは作家の持っている力。
この作家、数年前に『太陽がいっぱいいっぱい』というナニワのガテン系を描いた軽妙な青春小説でデビューして、この作品でまだ2作目。あと2〜3年したら賞レースに参加してくると思う。
さらに別の作品をご紹介すると、『県庁の星』という作品を書いた桂望実は、小学生が靴職人のおじいさんと仲良くなるヤングアダルト少年小説デビューした作家。それもなかなか良い作品だったけど、今度はジャンルをガラリと変えてきた。
『県庁の星』は入所10年くらいのそこそこ若い県庁の役人が主人公。この主人公が市長の気まぐれで、民間企業へ研修に行くことになる。出向先は、歴史はあるけれど古びた大手スーパー。主人公は役人なので、ハンコがないと動けないとか、上の意見を聞かないとダメだとか、スーパーの体質になかなか馴染めない。この若い役人が1年間の研修の間にどう変わっていくかを描くのが、この小説は実に上手い。
登場人物の中でも一番魅力的なのがパートのおばちゃん。このおばちゃんはスーパーを牛耳っていて、すべてを知っている。どんなクレームが来ても対処するし、仕事は完璧。でも友達がいなくて、家に帰ると反抗的な息子がいる。そして若い役人はこのおばちゃんと対立しながら成長していく。その辺がみどころ。