『水滸伝』がやっと完結した。5年10ヶ月かけて、19巻、9500枚。その間に別の本を10冊くらい出した。
水滸伝に惹かれたのは、青春時代に持った“熱い想い”に重なる部分があったから。僕の青春時代はちょうど学生紛争のまっただ中。「世の中を変えられるかもしれない」と思って熱くなっていた。もっとも、若いヤツに「何を変えたんだ?」と聞かれても、「日本の歩道を変えた」としか答えられないけど。その昔、日本の歩道はコンクリートの石畳だった。それをはがして投石の石にしていたら、アスファルトに変えられたから。
それはさておき、水滸伝は中国で「四大奇書」と言われるほど有名な作品だけど、その一方で何度も禁書にもなっている本でもある。若いヤツに読ませると権力に反逆したくなるから、というのがその理由。
水滸伝にはメインのストーリーは特になくて、いろんなキャラクターを楽しむ列伝になっている。大筋、宋という国と戦う108人が梁山泊に集まって、その後、官軍に転じて対外戦争へ……というお話はあるけど、このストーリーはかなりいい加減。そもそも原典の水滸伝がいろんな説話の寄せ集めなので、武松というメイン・キャラクターも登場するたびに容姿、性格が全然違ったりする。これは「武松のエピソードを書きたい」という人が大勢いたせい。
だから「私の“水滸伝”」を書くのは自由だと思う。原典が大好きという人には許せない部分もあると思うけど。
とにかく108人のエピソードを書くのは大変だった。しかもちゃんと描こうと思ったら、敵側も描かなくちゃいけない。だから他に水滸伝を最後まで書いた人はいない。水滸伝をモチーフにした『南総里見八犬伝』はあるけど、『水滸伝』として最後まで完結させたのは自分が初めて。
ちなみに吉川英治さんは『新・水滸伝』という形で水滸伝の完結に挑んだけど、途中でお亡くなりになっている。だから担当編集者に「完結まで死なないで下さいね」と冗談交じりに言われたのは、けっこうリアリティがあった。
水滸伝は膨らまそうと思えばいくらでも膨らむ。巨大な国家と戦う反逆の集団。それが梁山泊という1つの場所に集まり、さらに1人1人の物語がある。これには5年10ヶ月の時間と9500枚の原稿用紙が必要だった。
その間、他にも10冊の本を書いているし、僕はけっこう勤勉な人間だと思う。良いお店に行って、美味しいものを食べて、お姉ちゃんと楽しく、なんて生活をしている思われているみたいだけど、そんなことは……たまにしかしない。