SUNTORY SATURDAY WAITING BAR
2005年10月22日の放送

この日の放送曲目リスト/過去の放送内容リスト

「監督を語る」

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 今日からいよいよプロ野球の日本シリーズが始まりますね! 私、小穴は「ボビーマジック」と呼ばれる千葉ロッテのバレンタイン監督の采配に注目しています。ソフトバンクとのプレーオフでも数々の奇跡を演出したボビーマジックは、日本シリーズでも見られるのでしょうか?
 さて、監督といえばスポーツに限らず、映画の撮影や工事現場などでも「全責任を負って采配を振る」立場として注目を浴びる存在です。そんな監督にはみなさんそれぞれに思うところがあるようで、当店のバーカウンターでもいろんな「監督話」をするお客さまがいらっしゃいました。今日はそのお話を少しだけここでご紹介させていただきます。


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吉岡秀隆さん(俳優)の

『山田洋次監督』の話

 山田洋次監督は現場ですごく夢中になる人。だから置いて行かれないように、いつも必死に付いていく。もちろん監督はそうであってほしいんだけど、あまりに夢中になりすぎて、スタッフもタバコを吸いながら「あ、またやってる」と眺めている光景も見かけるほど。
 去年の4月くらいに『隠し剣、鬼の爪』の撮影をしていた時もそうだった。台本も号外の号外でどんどん変わっていく。良いシーンが撮れたと満足することは決してなくて、あれで良かったのかとずっと悩んでいる。1日かけて撮ったシーンでも、次の日に撮り直すこともある。
 でも山田監督は、そういう時は「あのシーン撮り直したいんだけど……」と必ず相談してくれる。決して「撮り直すぞ!」とは言わない。山田監督いわく「僕もわからないことばかりだから、みんなで一所に悩んで下さい、みんなで一緒に作りましょう」というスタンス。
 山田監督ほど夢中になる人でも、自分の中で確固たる映像が出来上がっているわけではないらしい。だからあるシーンの撮影をしていて、カットが変わった時に急につまずくこともある。そういう時は休憩が入って、監督がずっと悩んでいる。
 たとえば『四日間の奇蹟』の佐々部監督はタイプが違った。「このシーンをこう撮ったから、次のシーンはこう」みたいな発想をする監督だった。その一方で、山田監督は1つのカットごとにすごく考える人。
 僕にとっては山田監督はすごく怖い人でもある。お芝居を通して、「きちんと生活してたの?」ということを試されているような気がする。どうしてそこに手を置くのかとか、どうしていま頭をかいたのかとか、そういうことはすべてそれぞれの人間が持つ癖。だからカメラの前でそういう仕草をするということは、山田監督に僕が普段どういう生活をしているのか見透かされているような気がする。
 ちなみに『男はつらいよ』では、アフレコでずいぶん台詞が変わった。撮影が終わった後、やっぱり監督が悩んで「あそこの台詞を変えたい」ということになる。でも撮り直すわけじゃなくて、アフレコで台詞だけを変えた。だから台詞と口が全然合っていないシーンがけっこうある。
 山田監督はそういうところは全然気にしない人で、衣装が繋がらなくても構わないと言うことさえある。僕が船の上から海に飛び込むシーンがあって、白い無地のTシャツで飛び込んだ。ところが監督は乗り物になるとガーッとテンションが上がる人で、やっぱり撮り直し。でも替えのTシャツがないという話になり、監督はスタッフに「君のTシャツ、満男に貸してやってくれよ!」と言った。ところがそのTシャツはスパイダーマンのプリントがデカデカと入っている。その前のシーンとは全然繋がらないんだけど、出来上がった映像を見てみたら案外気にならないというか、うまく誤魔化せていた。
 そのキャラクター、この場合は満男の気持ちがちゃんと繋がっていれば良いのかもしれない。

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広沢克実さん(野球解説者)の

『野村監督』の話

 会社勤めの人もプロ野球選手も、自分と合わない上司というのは悲惨の一言。まだプロ野球なら監督も替わればガラッと変わるけど、会社員の上司なんてそうそう変わるものじゃないから、大変だなぁと思う。
 僕は明治大学時代は島岡“御大”吉郎監督。プロに入って“江戸っ子”土橋監督、一見穏和だけど厳しい関根監督、そして野村監督、巨人に移って長嶋監督、阪神へ行ってまた野村監督、最後は星野監督。これだけの「上司」に出会った。
 戦国時代の武将を較べた「鳴かぬなら……」という有名な川柳がある。これに僕が出会った監督を当てはめてみると、野村さんなら「鳴かぬなら、なぜ泣かぬか考えよう、ホトトギス」となる。
 つまり野村さんは、鳴かないホトトギスを前にして、季節とか時間とかエサとかを考えろ、と言う。僕らはいろいろ考えて、「季節も時間もエサも考えましたけど、やっぱり鳴きませんでした」と報告に行く。すると野村さんは「じゃあホトトギスが鳴くのはオスなのかメスなのか?」と聞く。もちろん僕らはそんなことは知りも考えもしていない。「だからお前たちはダメなんだ!」と。それが野村さん。
 野村さんの野球を指して「テーブル・ベースボールだ」と批判する人もいるけど、そう言うならそのテーブル・ベースボールをやってみせろ、と思う。そしてこれは絶対にマネできない。野村さんの野球理論にかなう人は、後にも先にもいない。本当に素晴らしい。
 野村さんは叱る相手の一番の弱点を言う。人間に長所と短所があったら、まず短所を直す、という発想。だからこれでもかと悪いところを指摘するので、言われた方も防衛本能で反発してしまい、野村さんを嫌う人もいる。
 僕もさんざん言われた口。「大雑把」とか「いい加減」とか、「お前は今まで親にどういう教育をされてきたんだ!」と親まで持ち出して叱られた。ある人は偏食を叱られて「嫁さんが悪い」とまで言われた。でも野村さんが言っていることは当たっているので、そう言われても仕方がない……と思える人は、みんな野村さんを尊敬している。古田なんて本当にブツブツ言われていたけど。
 僕は野村さんに出会えたおかげで、野球評論家としてもある程度支持されるようになれたと思っている。僕がマジメな話をしている時は、野村さんから聞いた話を右から左に話しているだけのことも多いくらい。
 さて、ホトトギス。長嶋さんだと「鳴かぬなら、鳴くのと取り替えてよ、ホトトギス」となる。これもシンプルでなかなかスゴイ。
 長嶋さんは球場へ来て、まず最初にお客さんがいっぱい来ているかどうか確認する。そして「よーし、今日も満員だ!この満員のお客さんに“来て良かった”と思わせるプレーをしなさい!」と言う。ちなみにこの考えは野村さんもまったく同じ。野村さんも「お前ら、給料を球団からもらっていると思ったら間違いだぞ、ファンからもらっているんだぞ」と言っていた。

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広沢克実さん(野球解説者)の

『星野監督』の話

 長嶋さんの「鳴くのと取り替えてよ」というのは、プロの厳しさでもある。野球をやっている多くの人間の中から選ばれた一握りの人だけがプロ野球選手になれる。鳴けないホトトギスに情けをかけることはできるけど、それでは勝てない。差別はしないけど、区別は必要だということ。
 そして星野さんなら「鳴かぬのも、勝手に鳴いちゃう、ホトトギス」。鳴かないホトトギスも星野さんの前なら鳴いてしまう。
 星野さんには人を引きつける人間力がある。僕は星野さんの下で2年間働いたけど、指導者とは、リーダーとは、監督とはどういうものかを、星野さんの背中を見て知った。リーダーにはもちろん知識も必要で、情も必要だけど、非情さも必要。いざというときにスパッと切らなくては勝てない。そして優勝という目標のためにチームを1つにする手腕。これは素晴らしかった。
 阪神の監督時代、星野さんは鉄拳制裁はしなかった。その代わりに大きな声で怒った。鉄は熱い内に打てとばかりに、変なプレーをした瞬間から怒る。普通、監督は試合が終わった後のミーティングで叱るだけど、星野さんは試合中から。だからテレビに映ってしまう。でもそれを厭わず試合中から言うことで、選手はそのことをよく覚えている。
 怒られるのは若い選手だけじゃない。金本、今岡、八木といったベテランですら怒られる。それを見た若い選手が「金本さんが怒られるなら、僕らだって怒られるわけだ」と納得する。野球界に限らず、主力、エース、四番などと呼ばれる人は、監督も少しずつ怒りづらくなるもの。でも星野さんにはそういう遠慮は一切なかった。
 こんな素晴らしい指導者に恵まれてきたので、僕が指導者になったら全員の良いトコ取りをするつもり。去年、楽天の新監督に田尾さんが選ばれ、横浜の新監督に牛島さんが選ばれ、どちらも悪い人選じゃないと思う。でも野村さん、長嶋さん、星野さんと、素晴らしい監督たちに薫陶を受けた人間は、日本に1人しかいないんだけど……

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山田和也さん(演出家)の

『舞台監督』の話

 舞台の演出家、テレビの演出家、映画の監督、英語で言えば全部「ディレクター」。俳優たちを指導して、脚本家の書いた台本を元に、スタッフの指揮をしながら、ある作品をまとめていく、という点においてはまったく同じ職種と言える。
 その一方で、舞台監督という言葉は「ステージ・マネージャー」あるいは「プロダクション・マネージャー」という言葉が当てはまる。明治維新以降、日本が近代化していく中で、それらの言葉を舞台監督と訳し、それが今まで続いているために「舞台監督」と「舞台の演出家」がよく混同されている。
 舞台監督は、演出家の衣装やセットの注文に対してプロデューサーから預かった制作費の中からどう配分するかを決めたり、スタッフの各セクションがどういうスケジュールで動いているかを調整したり、稽古場全体の進行の面倒を見たりする。ようするにスタッフの総元締めのような立場。
 クリエイティブ面での責任者が演出家だとすると、それ以外のテクニカルなことのすべての責任を負うのが舞台監督。稽古場やスタッフの仕事を指揮して初日を開けるまでが演出家の仕事だとすれば、その過程の面倒を見て、初日が空いた後のランニングもやるのが舞台監督と言い換えてもいい。
 だから舞台監督は公演中も毎日ちゃんといて「30分前です」「5分前です」などと指示を出す。各セクションのスタンバイ状況を把握して、幕を開ける指示を出す。どんなに演出家が「始めろ」と言っても、舞台監督のOKが出ないと舞台は始まらない。
 舞台監督は舞台の袖にテーブルを構えて、そこでキューを出す。演出家は稽古場ではあんなに偉そうだったのに、いざ公演が始まると楽屋ももらえず、案外居場所がなかったりする。これが寂しい。
 僕も演出家になる前は舞台監督助手などをした経験がある。たとえば帝劇で森繁久彌さんの舞台を担当していて、舞台が回転すると森繁さんが立っている、という仕掛けがあった。前のシーンが終わり、さあ回せ!とキューを出したけど、故障で回らない。音楽は流れ、お客さんは待っている。さあ、どうする?!こんな瞬間が舞台監督の醍醐味でもある。
 ちなみにその時は、ゆっくり照明を落とし、暗転幕という黒い幕を下ろして、音楽で繋ぎつつ、大慌てで修理した。奇跡的にすぐ直り、幕を上げて照明を灯し、何事も無かったかのように芝居は続けられた。お客さんから見れば演出的な暗転にしか見えなかったはず。
 これ、万が一故障が直らなかったら、緞帳(どんちょう)を下ろして、公演は中止。払い戻し、という事態になる。だからよく先輩から教わったのは「トラブルがあっても緞帳は下ろすな」ということだった。暗転にしたり、暗転幕を下ろして、状況を把握する。これが第一。
 こんな風に、常に何かあった時のマニュアルを自分の中に持っておくのが舞台監督のコツ。反射神経がなければ務まらない。

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益子直美さん(元バレーボール日本代表)

『女子バレーの監督』の話

 バレーボールでタイムアウトを取って、監督の指示を聞くシーンがよくあるけど、監督の言うことを聞いているかどうかは微妙。完全に頭に血が上っている時は、何を言われても頭に入ってこなかったりする。
 最近の傾向としては、回りのコーチもワーッと叫ぶチームを見かける。そんなにいろんなことを言われても、選手は聞けないのに。選手が理解できるのはせいぜい1個。それを監督が的確に「これ」と指示した方が良い。
 バレーボールはベンチにいろんな人がいる。監督はもちろん、コーチも何人もいて、マネージャーもいる。だからラグビーを見に行くと、監督が観客席にいるのがすごく新鮮に感じる。
 特に女子バレーは監督に怒られて育ってきている。だから試合中もミスをすると監督の顔ばかりチラチラと見て、「これが終わったらぶっ飛ばされる……」なんてことばかり考えている。監督の目がすごく気になるスポーツ。一度でいいから「監督のいないバレー」をやってみたい。それはそれで成立しないとは思うけど。
 今の日本代表の柳本監督は「厳しい」という評判だけど、私にはどこが厳しいのか今ひとつわからない。もちろん私は選手として教わったわけじゃなくて、取材だけの立場なので詳しいことはわからないけど、少なくとも殴ったりなどはしなさそう。言葉の暴力みたいなことはあるかもしれないけど。
 私が本当に「怖い」と感じるのは、その場の感情に任せて怒るタイプ。柳本監督の場合はちゃんとシナリオがある。この選手を怒って、あとでこの選手をフォローして、という計算が見える。
 怒っているシーンだけをテレビで見たら、怖く見えるかもしれないけど、それは柳本監督の一部でしかない。根性論の「オレについてこい!」タイプではまったくない。パソコンでデータを解析して、ミーティングで「このコースにサーブを打てば、このセッターはこっちにはトスを上げない」などの緻密な作戦を立てるタイプ。
 女の子というのは難しいもので、誰が贔屓されているだの、私が嫌われているだの、チームの中にはいろんな感情が渦巻く。柳本監督はそれを詳細に観察して、さらに先を読んでいる。たとえば新しい選手を試すために今までレギュラーだった選手を外すと、「○○は××とつるむぞ」なんて私たちに教えてくれる。するとそのレギュラーだった選手は、それまでプライベートでも主力選手と一緒にいたのに、そこから離れて、見事に柳本監督が言った補欠の選手とくっついたりする。
 女の子のチームは怒らないとダメ。さすがに殴るのはマズイけど、ある程度怒ることは必要。でも怒るだけじゃなくて、長所を伸ばしてあげないと。レシーブの下手な人にレシーブを要求しても意味がない。スパイクが良ければそっちで活躍しろと言った方が良い。
 日本の女子バレーが弱くなった時期は、監督が怒れない風潮だった。それで選手もワガママになっていった。高校を卒業して実業団のチーム選ぶ時に「休みが多くて、練習が楽で、給料の良いところが良い」なんて、ぬるま湯もいいとこ。だから監督も選手に嫌われないよう気を遣っていた。でも監督なんて選手に嫌われてナンボ。だから怒る監督じゃなきゃダメ。

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■ 放送曲目リスト

Time Title Artist Label Number
10'23" That's My Guy Marlene VerPlanck Audio Phile ACD-218
21'11" Nice Work If You Can Get It Monica Lewis Verve UCCV-9207
26'07" Control Yourself Doris Day & Andre Previn SME SRCS 9554
35'23" But Not For Me Rita Reys and The Pim Jacobs Trio Mercury 848 307-2
48'06" They Can't Take That Away From Me June Christy CAZ JAZ CJCD-32297


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