『本の雑誌』では毎年夏に「上半期のベスト10」を発表している。今年の1位は島本理生さんの『ナラタージュ』。これは良かった。
私は年輩なので、若い人が恋をしてうんぬんかんぬん、という小説には興味がない。でもこの『ナラタージュ』は恋愛小説。大学生の女の子が主人公で、その子は高校時代に演劇部の先生が好きだった。でも片思いのまま卒業して、大学生になってから「文化祭で人数が足りないから来てくれ」と頼まれて母校に帰る。そこで再び恋心に火がつく……というお話。
こんな話、いつもなら「バカヤロウ!」と放り出したくなる。ところがこの本にはどんどん引き込まれてしまった。
男と向かい合う主人公。その時、男の表情を見て何かを思う。ところがその「何か」が書かれない。そしてずいぶん経ってからその時の感情をフッと出す。この手法がすごく新鮮だった。ラストシーンもすごく良くて、胸が苦しくなった。
この作品は山本周五郎賞の候補になって、残念ながら落ちてしまったけど、この作家はその後にもマガジンハウスから『一千一秒の日々』という素晴らしい小説も出しているので将来は有望。ちなみに現役女子大生。
「上半期のベスト10」の2位は森絵都さんの『いつかパラソルの下で』。森絵都さんはもともと児童文学の人で、児童文学界のあらゆる賞を総なめにした人。その人が書いた大人向けの小説の2作目が『いつかパラソルの下で』だった。
『いつかパラソルの下で』は家族小説。ヒロインは3人兄弟の真ん中で、上にはお兄ちゃん、下には妹がいる。ヒロインとお兄ちゃんはフラフラしていて、大学を出ても就職もせず、しょっちゅう恋人も変えるような人間。一番下の妹はしっかりしている。
そして父親の一周忌の時に、叔父さんから衝撃の事実が明かされる。亡くなった父親は、女に手の早いとんでもない人間だった、と。お兄ちゃんやヒロインが世間の常識から逸脱していたのは、厳格だった父親への反抗だった。あまりにギャップに、3人の兄弟は父親のルーツを知るべく、父親の故郷である佐渡を訪れる。
そして佐渡に行くと……何も起きない。結局、父親がどういう人間だったのかわからないけど、3人はいろんな人と出会って帰ってくる。これが素晴らしい。
続いて「上半期のベスト10」の3位は三雲岳斗という人が書いた『カーマロカ』。これは波瀾万丈の伝奇小説で、「平将門が生きていた」というところから話が始まる。
将門は甲府を通って北上しているらしい、という話を聞いて、続々と刺客が送り込まれる。将門の娘はお供を連れて父に会いに行こうとする。地元の不穏な連中もどちらに付くのかもわからない。みんなが一斉に甲府に集まって、波瀾万丈の伝奇小説が繰り広げられる。そして物語の最大の謎は「将門はなぜ甲府にいるのか?」という問題。最後にはその謎が明かされ、将門という人物の大きさと物語のスケールの大きさに胸を打たれる。
伝奇小説は物語のモチーフの芯がしっかりしていないと、小手先で終わってしまうもの。この『カーマロカ』は「すごいよ将門!」という芯がしっかりしていて素晴らしい。