SUNTORY SATURDAY WAITING BAR
2005年7月9日の放送

この日の放送曲目リスト/過去の放送内容リスト

「貝」

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 今月の当店のオススメ料理は「ムール貝の白ワイン蒸し」だそうです。厨房のスタッフに聞いたところ、ムール貝は初夏が旬ということで、今が一番美味しい季節だとか。機会がございましたらぜひお試し下さい。
 なんてことをウェイティングバーでもオススメしていたところ、皆さん、貝のお話で盛り上がっていらっしゃいました。ホタテやアワビといった食べる貝から、海の中の美しい貝のお話まで、様々な貝にまつわるお話がありました。
 せっかくですので、そのお客さまのお話をここで少しだけご紹介させていただきましょう。


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中村宏治さん(水中写真家)の

『泳ぐ貝』の話

 貝はほとんどが肉食。死んだ魚を食べたり、海草を食べたり、いろんなモノを食べる。中には「ウミウシを食べるウミウシ」なんてのがいるほど。
 ウミウシは貝の仲間で、とても変わっている。「ハゼのヒレだけしか食べない」なんてウミウシもいたりする。あまり動かないタイプのハゼがいて、巣を持ってそこにドデンと身構えているところを写真に撮って、その写真を大きく引き伸ばすとヒレの所に小さな黒いモノがくっついている。これが「ハゼのヒレを食べるウミウシ」だった。
 ノルウェーあたりの海に行くと、海底を敷き詰めるくらいホタテがいる。そしてそこへ潜ると「何か来た!」と言わんばかりに泳いで逃げていく。しかもホタテは形からして蝶番の方を前にして泳ぎそうなものなのに、実は逆で、口の側を前にして泳ぐ。口を一度開いて、閉める時に真ん中から閉めることによって左右の脇から斜め後方に水を押し出して、前へ進む。
 ホタテはヒトデが大嫌いなので、泳ぐところを見たいのになかなか泳いでくれない時は、ヒトデを持っていくといい。養殖物と違って天然のホタテは、片方の殻が丸くなっていて、もう片方は平べったい。丸くなった方を砂の中に埋めて、平らな方を上にして、ほとんど砂に埋もれている。
 そんな風にホタテが平和に暮らしているところへ行って「泳げ!」と言っても、なかなか泳いでくれるものじゃない。そこで登場するのがホタテの天敵・ヒトデ。どこかからヒトデを探して「オラ!」と投げ込むと、砂の下から一斉にホタテが出てきて「かなわんわ〜!!」と泳いで逃げ出す。
 貝は本当によく泳ぐ生き物で、二枚貝の中にはオリンピック・クラスのスピードで泳ぐヤツもいる。その貝とは月日貝。表側が白くて、裏側が赤い、中華料理なんかでも普通に出てきてすごく美味しい貝。
 この月日貝に伊豆で出会った。何かの撮影をしていたら、向こうからヒューッと何かが泳いでくる。魚のような堂々とした泳ぎで、ホタテの泳ぐ姿をドタバタ走っている人間だとしたら、自転車のようなスムーズさだった。何が泳いでいるのか知りたくて一生懸命追い掛けたんだけど、これがどうしても追いつかない。その内に泳ぐのをやめて、ヒラヒラと海底に落ちたところを拾って初めて「貝じゃないか!」と気がついた。
 その後、台湾へ行ったら月日貝が出てきて「これ、泳ぐのすごいんだよ!」なんて話したんだけど、向こうの人は「早く焼こう」なんて言って、とっとと料理になっちゃった。月日貝はあの泳ぐ姿の素晴らしさを知りながら、「すまない、もう焼けちゃったら泳げないから、俺が食ってやるよ」と感謝しながら食べる。これが大事。

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花岡健美さん(ノーザン・エクスプレス)の

『ムール貝』の話

 ムール貝は今が一番良い時期。特に解禁日が決まっているわけではないけど、生産者が自信を持って出せるようになるのが7月の初めくらい。
 ノルマンディのモン・サン・ミシェルは一番良い状態で養殖できる土地。ムール貝はプランクトンの影響を一番受けてしまう貝で、ムール貝にあったプランクトンは夏の気温の高い時期に増える。さらにモン・サン・ミシェルの湾にはいくつかの川の流れ込んでいて、淡水と海水の栄養素がうまく混じり合っている。
 モン・サン・ミシェルは、干潮の時は干潟になって歩けるくらいだけど、満潮になると完全に干潟だったところが水没する。これもムール貝にとっては良い環境。食べるにあたっては生きている貝を調理するので、海水に浸っていない時の生命力が食材としての貝には重要になってくる。モン・サン・ミシェルのムール貝はこの強さが干潮の時に養われる。
 向こうでは「ムール・マリニエール」といって、洗面器のような器いっぱいに盛られたムール貝だけでお腹いっぱいになるくらい食べる料理もある。それくらいムール貝が美味しくて、好まれている。ビストロからグランメゾンまで、幅広く使われる食材。
 オードブルはもちろん、「スープ・ド・ムール」なんていう有名なスープもあるし、美味しいダシが出るのでソースにも使われる。フランス料理に限らず、イタリア料理でも使われるし、スペインでもパエリアに欠かせない。
 日本でも最近はかなり増えてきている。これはモン・サン・ミシェルのムール貝が手に入るようになったことが大きいと思う。「これならちゃんと一品料理として出せる」と。
 たとえば東京なら青山の『シェ・ピエール』。このお店のオーナー・シェフのピエールさんはブルターニュの出身で、まさにモン・サン・ミシェルのムール貝はピエールさんの十八番の食材。ウチが卸している中ではここが一番消費量が多いし、やっぱり美味しい。
 ムール貝にワインを合わせるなら、暑い季節なのでちょっと冷たいフルーティなものが合うかもしれない。ロゼなんかも向こうの人はよく飲んでいる。

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佐々木猛智さん(東京大学総合研究博物館)の

『貝の研究』の話

 貝というのは「自分で貝殻を作る能力」を持つ生き物。たとえばホタテも、中のホタテの肉とホタテの貝殻を両方を合わせて「ホタテ貝」と呼ばれる。ホタテの肉が殻の縁の部分に新しい殻を塗りつけることで、殻も少しずつ大きくなっていく。
 種類によって貝の寿命は様々。中には100年以上生きると言われている貝もいる。世界中にどれくらいの種類の貝がいるかはまったくわかっていなくて、予想としては6万〜10万種くらいでは。でも正確なところは誰にもわからない。日本なら、名前が付けられているモノだけでも約8千種。だから少なく見積もっても1万種くらいはいるだろうと言われている。
 深海のごく深い海域にしか住んでいない貝もいれば、高い山のある決まったところにしかいない貝(カタツムリ)もいる。高い山と言っても植物が生えていないと貝の食料がないけど、植物の生えている範囲ならかなりの範囲に生息している。
 学術的に言えば、貝は軟体動物。軟体動物の中で硬い貝殻を作るものを「貝類」と呼んでいる。たとえばウニは貝ではなくて、棘皮動物に分類される。陸上ならカタツムリやナメクジが貝に分類される。ナメクジは殻がないけど、これはもともと殻を持っていた生物が、徐々に貝殻を失う方向に進化していったと考えられている。
 貝の研究の世界では、今でも「まったく新しいグループ」が発見されることがある。その貝を見た時に、どの貝に関係があるのかがわからないほど。こんな大きな発見が今でも時々ある。
 そういった貝の研究のためには、網を引っ張ったり、潜水艇で潜って獲ってもらったりする。熱帯も寒いところも行ったけど、たとえばグリーンランドにも行った。そこではカレイを獲るための漁船に乗せてもらい、その網に付いてくる泥の中を探す。すると時々小さな珍しい貝が出てくる。そんな感じで貝の研究をする。
 グリーンランドでは非常に珍しい貝が見つかって、大喜びした。船に乗せてくれた漁師さんは呆れてたけど。
 南の方ならパラオに行ったこともある。ここでは海岸を歩いて採集した。大きな貝ならもうわかっているけど、小さな1〜2mmくらいの貝がたくさんいる。石をブラシで擦るとそういう小さな貝がパラパラと落ちてくるので、それを持って帰って顕微鏡で調べる。陸上にもカタツムリがいるので、落ち葉を振るって、やぱり顕微鏡で調べたりする。
 こんな見た目が怪しい研究ばかりしているので、同業者の中にはテロリストと間違われた人もいる。

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吉野正二郎さん(日本橋「吉野鮨本店」)の

『寿司の貝』の話

 今は「生」が流行りで、目の前で貝を剥いて洗いもしないでつける、なんて寿司屋があったりする。
 たしかに生で食べる貝はけっこうある。赤貝、アワビ、平貝、最近ならホタテ貝。青柳なんかも生で食べさせる店がある。ウチあたりは青柳は加工するけど。
 そもそも、昔は本当に生のタネなんて寿司にはなかった。昔と言っても、せいぜい戦前までという程度のお話。その頃は酢で締めたり、醤油に漬けたり、なにかしらの加工をしていた。それがいつしか生が流行るようになって「動くと鮮度が良い」なんて風潮になった。
 自分が修行した頃は、まだちゃんと加工のやり方を勉強した。赤貝なんかも酢で洗った。今、赤貝をまな板の上でピョンと叩く店もあるけど、あれは「こんなに活きがいいんですよ」というデモンストレーション。でもあれは生きてるんじゃなくて、赤貝は叩くとキュッと締まる性質なだけ。たしかにそれで歯ごたえは多少良くなるかもしれないけど、貝そのものは良くなくなる。
 私もたまによその店に食べに行くけど、赤貝を叩いている内にピタッとまな板について動かなくなるくらい叩いて、それをまな板からはがして寿司につけたりする。さすがに「それはよせよ」と言いたくなる。
 久保田万太郎さんという作家の先生は江戸っ子中の江戸っ子で「赤貝で亡くなられた」と言われるほど。赤貝には縁に柔らかいヘラヘラの部分があって、剥いたばかりの時はそこに「ぬめり」がある。酢で洗ってこのぬめりを取って、お寿司につけて出す。これが本当のやり方。
 そうやって出された寿司は「お、良い格好だな」なんて言いながらちょっと見てから食べてほしい。時には「今日の握りの型はちょっと腰抜けてねぇかよ?」なんて言ってみたり。それで食べて「おお、美味いな」なんて言われたら、私なんかは嬉しくなる。
 誰とは言わないけど、偉い評論家なんかに言わせると「握ったらすぐ食べるのが寿司」らしい。そんなにすぐ食べたいのなら、わざわざ置いたりしないで、握ったらそのまま口に放り込んでもいいけど。
 昔、寿司屋では夏場は貝を売ってはいけなかった。とは言ってもアサリの味噌汁は年中あるものだし、潮干狩りで獲ってきた貝を店に持ち込んで食べる、なんてこともあったと思う。だから決まりというより、そういう習慣だった。
 アワビが夏なのは、一年中アワビを食べていると海にいなくなってしまうからでは。だから解禁日なども決められているのだろう。アワビを獲って良いのは5〜10月の間だけ。それ以外の時期のアワビは、あらかじめ獲ってきたアワビを生け簀で生かしておいたモノ。だから美味しくなくなってしまう。
 アワビも生で出すようになったのは戦後。その前は煮貝と言って、アワビは煮ていた。ただし生と煮るアワビはちょっと種類が違う。そもそも生のアワビは寿司ダネじゃない。生のアワビがご飯と合うワケがない。と言いつつ、ウチでも生のアワビは出しているけど。

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大渕政枝さん(田崎真珠)の

『真珠』の話

 現在、真珠が採れるとされる貝は4種類。日本のあこや真珠、海外で大きな粒が採れる南洋真珠、中国で淡水真珠が採れる貝もいるし、それからマベ真珠が採れるマベ貝、大雑把にこの4つ。
 日本のあこや真珠なら、貝を作るのに2年。その段階で真珠の中心になる部分を貝の中に入れ、そこから真珠層の育成に1〜2年かける。真珠層を厚く緻密に巻かせながら、美しい状態の時に海から揚げる。
 真珠は育成の期間を伸ばせば大きくなるというモノではなく、水温による影響を大きく受ける。夏の暑い時期、水温が高くなると真珠の活動が活発になって、冬になるとキュッと引き締まってとても美しい巻きが出る。
 日本は四季があるので、この引き締まった時に揚げることで、世界でも一番キレイな真珠が採れると言われている。
 真珠の輝き方は他の宝石と違って、専門用語で「照り」と呼ばれる。真珠層が美しくきめ細かく巻いているモノほど光り輝く。その美しさが「状態の良い真珠層」に依存しているので、美しい真珠を作るには良い環境で育てるのが一番大事。
 真珠を縦に割ると、層になっていてレンガを組み合わせたような構造になっている。1つの層の厚さは0.3〜0.6ミクロン。1つの真珠に何百何千という真珠層が積み上げられて、表面を構成している。
 真珠の貝の裏側には、その貝が持っている色素が現れる。黒真珠の貝殻の裏側を見ると虹色をベースに黒っぽいし、金色の真珠が出る貝の裏側はちょっと黄色がかっている。最近は玉だけではなくて、貝殻の裏側の色を楽しむ宝飾品も増えていて、デザインの一環としてシェルと合わせたモノも人気がある。
 真珠の色を見分けるのに適した光というものがあって「北向きの自然光」でしか正確に玉を見極めることができない。だから真珠の養殖場には北向きの窓しかなくて、季節にもよるけど朝早くからお昼の3時くらいまで、選別の作業が行われている。

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放送曲目リスト

Time Title Artist Label Number
9'17" By The Beautiful Sea Jackie & Roy DRG 8474
19'05" Cest Si Bon Lisa Ono TOSHIBA EMI
31'01" Nice 'N' Easy Peggy Lee Capitol 7243 98883 2 6
41'58" Between The Devil And The Deep Blue Sea Annie Ross Pacific Jazz TOCJ-5349
47'57" Nem Um Talvez Doris Monteiro Bomba BOM557


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