僕はレストランの評論で、ここ20年来「美味しい」と書いたことがない。最近は「絶品」とか「究極」なんて言葉が安売りされているけど、この世に「絶品」なんてモノはない。でも料理人はその目標に向かって不屈の闘志で挑もうとしている。その姿を記したい、と思ってレストランの評論を書いている。
レストランの評論はスポーツ・ノンフィクションと同じ。スポーツ・ノンフィクションが選手の心の内に迫るのと同じように、「食べる」という経験を通して料理人の心の内にどれだけ迫るのがレストランの評論だと思う。
ところで「今、どこのレストランに行ったらいいでしょう?」と聞かれても、いつも同じ答えしか返せない。たとえばフランス料理なら銀座の『ロオジェ』。ここは「今しかない」と言える店。というのもシェフのジャック・ボリーさんが、あと数ヶ月でフランスに帰ってしまうから。フランス料理に興味があるなら、貯金を下ろしてでも食べておくべき。日本で一番フランスの香りがする料理を味わえる。
それから「お前はこの店の広報か?」と言われそうだけど、いつも名前を挙げている『すきやばし次郎』。御歳80歳だから、いつ辞めるかわからないし、ここも今行くべき。
あの店で次郎さんに握ってもらおうと思ったら、まず3週間前に予約すること。それも電話じゃなくて、ちゃんとお店に行って予約する。さらに1週間前くらいになったら「たまたま銀座まで来たので……」という顔をして「来週の何曜日に予約している○○ですが、次郎さんに握っていただきたくてお願いに上がりました」とお願いする。そうすればちゃんと次郎さんが握ってくれるから。そうしないと、次郎さんは常連さんの相手で忙しいから、握ってもらうチャンスがない。
それ以外にも、たとえば1回目がダメだったら、忘れられない内にもう1度行くとか。もしくは5ヶ月間、5千円ずつ貯金して「5ヶ月前には次郎さんに握ってもらえなかったんですけど……」と予約の時にお願いしてみる。そういう事を言ってもあのお店は許してくれる。
ちなみに僕は4回目で次郎さんに握ってもらえた。3回目に勇気を振り絞って「今度来た時は次郎さんの握りを食べたいと思います」と言ったら「あんた、そういうつもりで来てたんだ」と言われて背中に痛いくらいの視線を感じた。そして1週間後、お店の仕舞い際を狙って「すみません、今からお寿司いただけますでしょうか?」とお店に入ったら、次郎さんがスクッと立ち上がって前掛けを締め直して「さあ何から行きましょう」と言ってくれた。
最後にもう1店を挙げるなら、天ぷらの『みかわ』。やっぱり天才はすごい。食べ込んで食べ込んで、その天ぷらの本当の姿に近づけたかな?と思った瞬間、その先にはこんなにも深い奥があるということを教えてくれる。
あのお店は誰でも平等に扱うお店なので、お客さんの食べ方を見て思わず力を入れることもある。1万円の天ぷらを頼んでいるのに1万5千円の天ぷらが出てくる人もいれば、逆に5千円の天ぷらが出てくることもある。早乙女さんを見ていると、お客さんにカワイイ女の子がいると、力を入れているみたい。
やっぱりレストランは男4人でなんかで食べに行く場所じゃない。そっちの方がレストラン評論なんかよりよっぽど大事。