麻布十番に健康ドリンクバー「揚田・あき」を作った。「健康に気を遣ってコミュニケーションする」というコンセプトのバーで、油をいっさい使わないのでお店もキレイ。水と空気にこだわって、「たくさんのお茶にたくさんの健康になるお食事、つまりは子供から老人まで、安心して遊べるバーにしたいんです」というプレゼンを『マネーの虎』でやって、お店を作ることになった。
ところが実際には、探せど探せど物件がなくて、『マネーの虎』のお金は辞退することに。それでもあの番組に出た反響はとてつもなく大きくて、お手紙やメッセージですごく励まされた。正直、芸能界でデビューして以来、こんなに注目されたのは初めて、というほど。
それに感動して「もう借金をしてでもお店を作るしかない!」と。たまたまそんな風に考えたタイミングで、麻布十番に居抜きの物件が出た。私がお店を出そうと考えていた渋谷の桜ヶ丘は「ちょっとハイソで健康のためなら1杯600円も惜しまずに出す」という人が多い場所。麻布十番も似たような場所なので、ここに決めた。
でも本当は途中で何度も止めようと思った。お店を出そうと決めて、借金はした。でも調理師免許はない。お店の運営方法も全然わからない。自分が作ったモノをお客さんに出してはたしてお金がもらえるのか、人は来るのか、自分が遊びに行く時間はあるのか、など何もわからなかった。
さらに言えば、もしお店をやめることになったとしたら、芸能界もやめなくちゃならない。芸能界の力を借りて出来たお店なんだから、お店だけ止めて芸能活動は続けるというわけにはいかないだろう、そんな恐怖もあった。まさに人生の決断だった。
看板をどうやって作るのか、いくらかかるのかも知らない。保健所の検査でも、チェック項目にあった「エルゴ」がわからなかった。これはトイレに付いている小さな手を洗う場所。これがちゃんと付いていないと保健所の許可が下りない。その他にも「ホコリが溜まりやすい構造はダメ」「キッチンに入るドアに隙間があるとネズミが入るからダメ」などなど、気が遠くなるくらい細かかった。
看板もバカでかいのを作ることにしたら、すごい値段になってしまった。そこで知り合いにプレゼンして、どんどん安くしてもらって、エルゴもタダで付けてもらえることになって。とにかくお店が見つかってからオープンまでは一ヶ月。飛ぶように時間が過ぎていった。
そして迎えたオープン初日、なんと私はロケでお店にいなかった。ロケ先の埼玉から「どう?」とお店に電話を掛けたら「店長がいないってお客さんが騒いでます」って。たしかに店長不在のオープンなんて前代未聞。翌日はお店に出たけど、翌週にはまたロケで中国へ1週間。お店の人はみんなやつれていた。
今でも時々不思議に思うのが、まったく知らないお客さんが自分の作ったものを食べて、それにお金を払ってくれること。友達でもない、恋人でもない人がリピーターになってくれると、自分の存在を認められたというか、自分の人生をまるごと肯定されたような嬉しさがある。TV番組で「お客さんの喜ぶ顔が……」という飲食店の人は多いけど、アレは本当に嬉しいモノだと知った。
そういえばお店がオープンしてまだ間もない頃、お客さんの「キャー!」という悲鳴が上がったことがあった。それはウチの看板犬・ハンサムが、お客さんの5千円札をくわえて逃げてしまったのが原因だった。もう大慌てで「ハンサムー!」と叫びながら追いかけっこ。そのハンサムはジャガイモが大好きで、ジャガイモのメニューが注文されるとそのお客さんの横に座っておねだりする。「ほとんど自分が食べてない」なんて苦笑するお客さんもいるくらい。ある意味、売り上げに貢献していると言えなくもない?!