割れやすいモノは箱の中で揺れないように、人の手で緩衝剤を詰めて丁寧に梱包する。この作業は機械ではできない。
緩衝剤も時代と共に変わってゆく。私がこの仕事を始めた頃は木毛(もくげ)とか縄、藁なんてものを使っていた。ところが最近はエアキャップもあまり地球環境に優しくないということで、紙などに戻りつつある。
特に美術品は自然素材しか使わない。日本の美術品なら、和紙とか綿とかサラシなどを使う。これは化学的な素材は作品に悪い影響を及ぼすから。
仏像の運搬する時は「魂を抜く」という儀式をしてから運ばなくてはならない。お寺で住職さんが魂を抜いて、美術館内の会場へ運び、改めてそこで住職さんが魂を入れる。
千手観音のように複雑な突起の多いモノを運ぶ時は、2つの方法がある。1つは丁寧に紙を詰めていって、ミイラのようにグルグル巻きにして運ぶ方法。もう1つは「危ないところに触らない」という考え方で、「担架」と呼ばれるお神輿のような台に寝かせて、そのまま運ぶ。
土器を運ぶ時に「壊れやすいので気をつけて運んで下さい」とちょっと大きな声で言ったら、その声で土器が壊れてしまったこともある。だから仕事中は大きな声も出せない。
最近は美術品の運搬時にはショック・センサーが仕掛けられていて、ショックが加わると時計が止まるようになっている。その時間で飛行機で運ばれていた時か、飛行機から降ろす時だったのか、美術館から空港へ運ぶ時だったのかが明確に分かる。
最近なら、唐招提寺の盧舎那仏(るしゃなぶつ)の運搬には5年の年月を掛けて計画を練った。その時は1200年ぶりに本堂から出る、という輸送で、今ちょうど東京の国立博物館で展覧会をやっている。まずは実際に運ぶ前に実験をするところから初めて、高さ3m以上、重さ500kgの仏像を奈良から東京まで運んだ。
世界の三大秘宝と呼ばれる「モナリザ」「ミロのビーナス」「ツタンカーメン」は全部運んだ。ちなみに噂だと、モナリザを運んだ時の保険は1500億円だったらしい。本当にその金額だったかどうかは分からないけど、トップクラスの美術品だとそれくらいの額になるのだろう。