SUNTORY SATURDAY WAITING BAR
2004年12月11日の放送

この日の放送曲目リスト/過去の放送内容リスト

「ベスト・コニサー」

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 土曜日の夕方、当店“AVANTI”のウェイティングバーは大勢のお客様で賑わいます。今日もプロ棋士の島朗さまや元インドネシア大統領夫人のデヴィ・スカルノさまなど、様々なお客さまがグラスを傾け、お喋りを楽しんでおられます。
 そういったお客様たちこそが当店の自慢です。みなさん、映画、音楽といった柔らかい話から、政治、科学のような堅い話、珍談奇談に、怪しげな噂話などなど、とても面白いお話を教えてくれます。
 誰が言い始めたのかは分かりませんが、常連のお客さまの間では、そんな面白い話をする方々を敬意を込めて「コニサー」と呼んでいるとか。なんでもフランス語で「目利き、玄人」という意味らしいのですが。
 お時間がございましたら、そのコニサーのお話を聞きながら、素敵な夕方の一時を過ごしていきませんか?


image ■ 松本百合子さん(翻訳家)の

『パリの恋愛ゲーム』の話

 フランスの男性は「口説く」というよりは「恋愛ゲームを楽しむ」という雰囲気。男と女がいたら、そこになんとなく恋愛的な空気が流れて当たり前だと考えている。だからエレベーターで2人きりになったら、なにかしら声を掛ける。でもそれはその30秒や1分の時間を楽しむためで、そこからどうにかしようとしているわけじゃない。
 そういった3分や5分の恋愛ゲームに慣れるのはけっこう大変だった。向こうではユーモアが大事にされているので、ちょっと話しかける時もユーモアを効かせてきたりする。それをまともに受けていてはダサい。そのセンスは語学力だけじゃまかなえないので、日々戦っているような感じだった。
 日本人のイメージほどフランス人が「愛してる」という言葉を連発するわけでもない。さすがにその言葉はフランスでも重みのある言葉。それでもやっぱりフランス人は恋愛感覚のゲームが大好き。
 もうずいぶん前だけど、ラファイエット・グルメというデパートの食品館で「出会いの場を提供する」という企画をやっていた。木曜日の5時になると紫色のパニエ(カゴ)が置かれて、そのカゴを持って良いのは独身の人だけ、というルール。私も興味本位でそのカゴを持って歩いてみたけど、適当に声を掛け合う陽気な雰囲気もありつつ、お互いに値踏みするような殺伐とした雰囲気もあり、ちょっと怖くなって急いで買い物を済ませようとレジに並んだ瞬間に、後ろから声を掛けられた。
 その時はリンゴがカゴの中に入っていたんだけど、いきなり後ろから「今日のデザートはリンゴのタルトにしましょうか?」って。「え?!」とビックリしていると、向こうは楽しそうに目をギラギラさせて「どっちの家にする?僕の家?君の家?」と聞いてくる。私は何も答えられなくて、ひたすら急いでレジを済ませてその場を立ち去ったんだけど、レジの人の「ダサい女……」という視線が痛かった。
 後で思えば、もうちょっと気の利いたことを言っていなせば良かったんだけど、それができない自分に落ち込んだ。パリにはこんな恋愛の企画がゴロゴロしてる。

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image ■ 北上次郎さん(文芸評論家)の

『今年オススメの小説』の話

 恩田陸さんという女流作家の書いた『夜のピクニック』という小説はオススメ。今年のベスト3には入ると思う。
 これは非常にシンプルな話で、高校生の男女が出てきて、2人はお父さんが同じ、お母さんが違う“異母兄妹”という設定になっている。女の子の方はくったくなく友達として話せばいいと思っているけど、男の子の方はちょっと意識してしまい、その女の子と話をしようとしない。その2人がたまたま同じ高校に入ってしまうんだけど、接点がないまま3年弱が過ぎ、ついに高校最後のイベント「歩行祭」を迎える。このイベントは全校生徒で夜を徹して歩くというありがちな高校の催し。でもこれが男の子と話をする最後のチャンスだと女の子は考え、なんとか話をしようとする。果たして2人は朝までに話をすることができるのか……というストーリー。
 こんなシンプルなお話なのに、最後は感動させてくれる。シンプルな話というのはなかなか感動に結びつけにくいものなので、恩田陸さんという脂の乗りきった力量ある作家をもってして初めて為しえた傑作だと思う。『ダヴィンチ・コード』みたいな派手な道具立ての小説はたくさんあって、その派手さに目が奪われがちだけど、こういった地味な小説にももの凄く良い小説がたくさんあるという良い例。
 酒場で話の種になりそうな小説なら翻訳物の『ブレイン・ドラッグ』。これはある人が“頭の良くなる薬”を開発して、その薬を500錠だけ手に入れた男の話。薬を飲んで頭が良くなった男は、先が読めてしまうから世の中のスピードが遅く感じる。パーティーへ行っても美術評論家の小難しい話も全部わかってしまい、するどい突っ込みを入れたりしてモテモテ。でもその薬は500錠しかない。薬の効力は1日程度。30錠くらい飲んだところで「このままじゃイカン!」と気付く。
 そこで考えたのが「この薬が残っている間に財産を残そう」ということ。そして男は株に手を出す。果たして男は成功するのかしないのか……というお話。
 ちなみにこの薬には1つ弊害があって、頭が良くなるとそれまで付き合っていた連中と話が合わなくなってしまう。もともとは馬鹿な男だったから、身の回りの親友、恋人、親兄弟もそんなに頭は良くない。薬を飲んで頭が良くなってしまうとみんなバカに見えてしまい、付き合いにくくなる。今までの人間関係を壊してでも、たった500錠の薬を使って新しい世界へ入っていくのか?というジレンマも抱えている。
 前編を通じて「もしもそんな薬があったら、あなたならどうしますか?」と問いかけてくる小説。非常に面白い。

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image ■ 辰巳琢郎さん(俳優)の

『シュトルム』の話

 僕は『六本木男声合唱団』というちょっと変わった合唱団に入っていて、そこで去年ヨーロッパツアーをした。ウィーン、グラーツ、ベルリンを回ったんだけど、ウィーンでは世界の音楽の殿堂と言われる楽友協会ホールで歌ったりもした。
 行ったのが9月で、ちょうどワインを仕込む時期。そこで季節物として「シュトルム」というワインを教えてもらった。これは日本酒で言えば「濁酒(どぶろく)」や「中汲(なかぐみ)」のようなもので、まだ作っている途中のワイン。これを一升瓶のような大きなビンに詰めて、ワイナリー近くのレストランに出荷している。
 もちろん飲めるのは9月のある時期だけ。発酵中だからビンが破裂しないように蓋に穴を空け、ビールのように冷やして飲む。オーストリアの人なら誰でも知っているお酒。ちなみにシュトルムという名前は英語のストーム(嵐)という意味。甘みがあって炭酸もあって、度数的にも6〜7度。まさにビールのようにグビグビ飲めてしまうけど、飲み過ぎると腹を下す、というところから名付けられてるらしい。実際、お店にも「3杯まで」という貼り紙があったりした。
 このシュトルムがやたらと美味しい。シュトルムの季節に向こうへ行ったのは初めてだったので、つい3杯以上飲んだりもした。しかも季節を感じられる。西洋においてはワインはとても大事なもので、その収穫の時期はみんなウキウキするもの。ワイナリーでは収穫祭なども行われていて、そこに集まった観光客にもシュトルムが振る舞われたりする。
 ワインを作っている国ならどこの国にもあるようだけど、お店で出しているのを見たのはオーストリアが初めてだった。できれば日本に持ってきたいんだけど、問題はビンで、相当に圧力が掛かりそうなので輸送中に割れてしまうかもしれない。日本に紹介できれば絶対に当たると思うんだけど。

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image ■ 島朗さん(プロ棋士)の

『プロの将棋の世界』の話

 将棋の世界はみんな基本的に一匹狼だけど、チェスの世界はチームで行動する。国を挙げての戦いになるので、国を挙げて戦いになるので、選手以外に作戦のコーチやメンタルのコーチなど、チャンピオンになると10人ぐらいのチームを組んでいる。
 ただ、将棋の世界も一匹狼とは言え、互いに子供の頃からプロ育成機関の奨励会で競い合った仲。プロになってから初めて知り合う、なんて人は1人もいない。下手をすると7〜8歳くらいから死ぬまで付き合いが続くケースもある。その長い月日の中で、ライバル心が少しずつ変容していく。
 もちろん戦っている時は敵。でもその戦いの中に、普段の関係が微妙な影響を及ぼす。たとえばタイトル戦に羽生さんが出てきたとする。タイトル戦は2日制なので、移動日を入れて4日間の行動を一行で共にする。だからトップに居続けようと思ったら、周りに敵を作らないことが大事。
 私は羽生さんと40〜50局くらい対戦した。当然、いつだって必死になって戦う。でも終盤になって負けそうな情勢になると、ふと心のどこかに「羽生さんなら負けてもしょうがないか」と思ってしまう。そうなるともう、最後の一踏ん張りが利かずにそのまま負けてしまう。これは私だけじゃなくて、プロならみんな同じ。
 ところが同じ状況でも「コイツにだけは負けられない」と思っていると、最後の最後まで粘れる。そして最後は2人ともヘトヘトになりながら指しているので、プロでも間違えて大逆転してしまうことがある。
 だから将棋では「相手を諦めさせる」ことが重要で、トップに長く居続けようと思ったら敵を作らないことが肝心。
 将棋には審判がいない。負ける時は自分で負けを告げる。たとえ負けても、誰のせいにすることもできない。それが将棋の良さだと思う。

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■ デヴィ・スカルノさん(元インドネシア大統領夫人)

『イメルダ夫人の宝石』の話

 イメルダ・マルコスさんに招待してもらって、マラカニアン宮殿で行われたマルコス大統領のお誕生日会に出席したことがある。
 あの方は散々晩餐会とパーティーをやる人で、朝の1時からフル・オーケストラのダンス・パーティーだった。朝の4時に小食が出てお開きなんだけど、それまでは誰も帰れない。そんなパーティーだった。
 私はその時1人で出席していて、隣にはパキスタンの大使がいつも座っていた。イメルダさんが毎晩、ブルーサファイア、ルビー、ダイヤ、真珠などの宝石を身につけているのを見て、私が隣の大使に「豪華な宝石ですねぇ」と話しかけたら、その大使は「僕はここに赴任して6ヶ月、独身なもので全部のパーティーに呼ばれていますが、彼女が同じ宝石を身につけているのを見たことがありません」と言っていた。
 でもその数々の宝石を、彼女は政変の時にマラカニアン宮殿の地下にほとんど置いてきてしまった。というのも彼女は荷物をまとめて逃げるのに、1時間しか時間がなかったらしい。アメリカが用意してくれた飛行機に乗って、大統領の生まれ故郷のレイテ島に行くつもりだった。それで機密書類だけを1時間でかき集めて、それだけを持って飛行機に飛び乗った。
 ところが飛行機が行った先はハワイ。そこでアメリカに書類をすべて没収されて、イメルダ夫人がスイスの銀行に600億円くらいの現金を預けていることが明るみに出た。そしてその口座はクローズされ、その後20年くらいそのままになっている。今なら倍の1200億円くらいにはなっているはず。
 イメルダ夫人が1時間で宝石をほとんど持ち出せなかったのにはワケがある。マラカニアン宮殿の下にはドイツのある会社に作らせた巨大な金庫があった。そのドイツの会社はフセイン大統領の防空壕を作った会社で、原爆が落ちてきても大丈夫という¥強固な金庫。しかもホテルの宴会場より大きな空間があって、内装はルイ・ヴィトン。
 彼女はレイテ島から帰ってくるつもりだったので、ほとんどの宝石をその金庫に置いていってしまった。でも彼女はハワイに連れて行かれ、二度と戻れなくなってしまった。
 そして今、誰かがマラカニアン宮殿の地下の金庫をこっそり開けたらしく、彼女が残した宝石が市場に流れ始めている。ただイメルダ夫人の宝石だとわかると困るので、石がバラされて他のデザインになって出てきている。
 そんな宝石を買える人は世界に10人と居ない。その筆頭がブルネイのスルタンで、1年で1千億円以上の宝石を買うのはあの人だけ。そして誰かがスルタンの元にイメルダ夫人の宝石を売りに行った。ところがその宝石は世界に1つしかないような石だったので、スルタンは一目でイメルダ夫人のものだと気づき、売りに来た人間を牢獄へ入れてしまったのだとか。
 これがあんまり表立っては語られない、フィリピン政変の裏話。

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放送曲目リスト

Time Title Artist Label Number
9'29" A Smooth One Blue Stars Mercury PHCE-4208
21'01" You're Making Me Crazy June Christy Capitol CDP 7 96329 2
31'33" Let's Fall In Love Peggy Lee Capitol 7243 5 35210 2 8
39'41" Rules Of The Road Nat King Cole Capitol CDP 0777 7 89545 2 1
46'53" Diamonds Are A Girl's Best Friend Dlla Reese RCA BVCJ-2026


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