■ 平野甲賀さん(グラフィックデザイナー)の
- 『書体』の話
アルファベットは26文字。それに対して日本語は、漢字があるので1万を越える。だから日本語の「書体」を作るのは一苦労。
最初、アルファベットの書体が作られた時はあっという間だった。1日1書体みたいなスピードで、アウトラインもどんどん公開されていった。ところが、日本語はそういうわけにはいかなかった。
たとえばウイスキーボトルに書かれた「響」という文字。その文字をグラスのガチャガチャするようなバーで見ると、急に良く見えたりする。だから作った人はそれほど意識していなくても、一種の表音文字だと言えなくもない。
僕が拠り所としているしているのも、その音とか臨場感。その文字があるべくしてある場所のようなもの。椎名誠が「平原」と言えば、自ずとその形が出てくる。その平原がモンゴルなのか、ガラパゴスなのか、パタゴニアなのかで、少しずつその“平原”の形が変わってくる。モンゴルだったら草がなびいているような平原だし、パタゴニアだったら岩がゴツゴツした荒涼たる平原。そういうイメージによって字の形が変わってくる。
だから、いつも音楽を掛けながら仕事をしている。もしかしたら、微妙にその音楽に引きずられる部分もあるかもしれない。
写植の場合は、文章を一生懸命書いた人が必ずいるので、その仕事に乗っかっていく。小林信彦さんの『紳士同盟』の時は、丸ゴチックの書体を使った。
丸ゴチックを使ったのは、離婚届の一番上に書かれている「離婚届」の文字とか、病院でもらってくる処方箋に書かれた「処方箋」、そういったものの書体がだいたい丸ゴチックなのが、異様に不気味で印象に残っていたから。町中で見かける「産婦人科」「眼科」の看板も丸ゴチックだった。その「痛くないですよ〜」と呼びかけている雰囲気自体が「本当は痛いに違いない!」みたいなマイナスの印象を持った。
そういう胡散臭い雰囲気が『紳士同盟』にはピッタリだと思った。紳士同盟なんて言葉自体、どこかに誤魔化しがあるわけだし。
そんな風に、町を歩いていると“書体”が気になって仕方がない。
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■ 沖森卓也さん(立教大学文学部教授)の
- 『平仮名と片仮名の由来』の話
日本古来の文字“神代文字”があったという説もあるにはあるけど、残念ながら今の資料では「日本にも文字があった」と言いたい人がでっち上げたとしか思えない。やはり日本の文字は中国から朝鮮半島を経由して日本に入ってきた、と考えるのが自然。
最初は漢字の音だけ、ないしは意味だけを借りて日本語を書いていた。今なら英語で日本語の内容を書く、みたいな感じだった。
漢字には訓読みという読み方がある。でも漢字はもともと中国のモノだから、もちろん最初は訓読みなんてものはない。英語にたとえるなら“I”と書いて“わたし”と発音するようなもの。この訓読みは平仮名、片仮名が生まれる前から使われていた。
平仮名や片仮名の前には万葉仮名という仮名があった。これは漢字をそのままで仮名として使うものだった。その漢字の書体を楷書から草書に崩し、さらに日本的にもっと崩して平仮名になった。いわば漢字に楷書体、草書体、日本書体(=平仮名)があった、みたいなもの。
それから実は、平仮名よりも片仮名の方が先。片仮名の場合は漢字の画を省いていって作られた。“イ”なら“伊”の人偏(にんべん)だけ、“ウ”は“宇”のウ冠だけ、といった具合。片仮名は平安時代の初め頃に使われ出したと言われているけど、最近の説ではもう少し前に新羅の手法を真似たのではないか、とも言われている。
平仮名の“う”は“宇”を崩したもので、“い”なら“以”、“え”は“衣”。平仮名と片仮名のルーツが違うのは、万葉仮名でいろいろな漢字が使われていたから。万葉仮名では“い”なら“伊”でも“以”でも良かった。それを崩したり省略したものの中から、形が良いもの、書きやすいものが残って、それが今の平仮名、片仮名の由来になっていった。
そもそも“仮名”というのは「仮の文字(名)」という意味。では、本当の文字は?と言うと、もちろん漢字。“かりのな”が“かんな”になって“かな”になった。では“平”と“片”とは何か。“平”は“一般的な”“普通の”という意味。“片”は“片方”。つまり省略した文字、という意味。
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■ 石川九楊さん(書家)の
- 『書』の話
書は人を表すと言うけど、正しくは“書に本音が見える”ということでは。お礼状だって、乱雑な字で書いてあったら「本当にありがたいと思っているのかな?」と感じてしまう。実際そういうお礼状は「送られてきちゃったから、忙しいけどとりあえずお礼状ぐらいは出しておくか」と場合が多そう。本当にありがたいと思っていたら、その気持ちが書に乗っかってくる。
書の怖さは、そんな風に無意識が表れてしまうところ。言葉だったら、肉声の部分に本当の意味のありかが込められる。同じように字も手で書いたものは“肉字”とでも言うべきもの。だからこそ本当の意味が相手にも伝わる。
もし、ワープロなどで本当に伝えたいことを伝えようと思ったら、丁寧にたくさんの言葉を紡ぎ出して、キチッとした形容をし、削るべきところは削り、「これで自分の言いたいことに足りてる」と確信できるところまで文章を練らないと、なかなか難しい。“肉”がない部分を言葉で補ったり削いでいったりしなければいけない。
たとえば「好きだ」という言葉だって、苦々しく「好きだ好きだ」と言えば、“肉”の部分で「実は好きじゃない」ということが伝わる。同じように、書かれた言葉にも“肉”の部分で伝わることがある。
芸術としての「書」は、絵画のような芸術とは少しスタンスが違う。どちらかと言えばオーケストラの演奏者に近い。西洋の音楽に当たるのが東アジアの書だと言っても良い。西洋の芸術の中心には音楽があったのは、声が中心のアルファベット言語を使っていたから。その声の延長の音楽が、芸術の世界でも中心になった。
それに対して東アジアの言葉は、たとえば「昨日、僕はコウエンに行きました」と言っても、“公園”か“講演”かわかりにくい。つまり僕らが喋っているのは“声”ではなくて“文字”ということ。文字が頭に浮かばなければ会話が成立しない。そういう文化圏なので「書」が表現の中心になった。
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■ 小倉紀蔵さん(東海大学外国語教育センター助教授)の
- 『ハングル文字』の話
たしかに慣れない人は、ハングル文字を見ても何もわからないと思う。でも実は、ハングルは非常にわかりやすい表音文字。その根底には漢字の構造がある。ちなみに「中国から攻められた時に都市に入られても通りの名前がわからないようにハングル文字が作られた」というのは根も葉もない噂。
もともと朝鮮半島は漢字文化圏だったけど、漢字は習得するのが難しい。学問のある男性ぐらいしか使えなくて、15世紀頃に「誰でも使える文字を新しく作ろう」ということでハングル文字が作られた。15世紀というのは非常に新しく、世界でも最も若い部類に入る文字。
ハングルは表音文字なので、音と音との組み合わせというのが基本。母音と子音の発音記号が組み合わせて、1つの文字になっている。非常にわかりやすく作られているので、大学で教えていても覚えの早い学生なら、90分の授業1回で一通り覚えてしまう。なにせ母音と子音さえ覚えてしまえば、すべての文字が読み書きできてしまうから。
たとえば「キムチ」なら「キム」が1文字。母音と子音に分解すれば“K”“I”“M”の3つ。この3つを組み合わせればハングルの「キム」という文字になる。なにせ新しいし、自然発生的に生まれた言葉ではなく、言語学者が頭をひねって考え出したものなので、非常に合理的に作られている。
文字の形も覚えやすいように作られている。アルファベットのA、B、Cがどうしてこういう形になったかは僕らは知らないけれど、ハングル文字の形は発音する時の口の形をベースに作られた。発音する時の口の形を絵描きがスケッチして、何百人分ものスケッチを集めて、ギュッと抽象化させてデザイン化した。
たとえば、“M”を表す子音は“□(真四角)”。これは「エム」と発音し終わった時のギュッと閉じた唇の形に近い。“P”ならMの“□”に角を生やしたような形。これは“POP”の後ろのPのように、Pで終わる時はやはり口を閉じるから、Mと似たような形になっている。
こんな風にデザインを考えに考えて、煮詰めて作られたのがハングル文字。
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■ 橋本英典さん(印章店「銀杏堂」)の
- 『ハンコの文字』の話
ハンコの使われる文字はだいたい5書体。印材も3〜4種類くらいしかない。
印材に文字を掘る時は、直に下書きを書く。楷書や行書なら、雁皮と言って、炭で下書きしたものを打ち付けて、彫る。てん書体や古印体なら直接書いて、彫る。
ハンコのあのスペースに実印の4文字を入れる場合、縦の上下、名前の対角線の大きさが問題になる。人間は書くと必ず右上がりになるので、鏡に映して曲がり、バランスを見る。ちなみにバランスを見る時は、正面から見るのではなく、ひっくり返して見た方がわかりやすい。
辞書でちゃんと文字を確認する、鏡文字になっているかちゃんと確認する、なんて基本中の基本が一番重要なんだけど。
ハンコの書体は、ウチでは古印体かてん書体がほとんど。これは左右対称な字の方がバランスが取りやすいから。それから楷書や行書は、最後の筆法の部分を見せるためにどうしても枠から離れてしまう。そうすると、ハンコの形が丸で、しかも微妙に右上がりなので、ちょっと押す時に曲がっただけで文字が寝てしまい、曲がっているように見える。これが四隅がくっついていると、ちょっと曲がってもキチッと真っ直ぐに見える。
ハンコを真っ直ぐに押すというのはけっこう大変なので、ハンコの字には古印体かてん書体がオススメ。そこら辺でよく売っている安いハンコはほとんどが古印体なので、いかにもハンコの字というイメージだと思う。認印などでわかりやすい書体が良い時は古印体、実印の場合は多少わかりにくいてん書体が向いている。
女性がお店に来て「どういう字が良いですか?」と聞くと「女性っぽい字が良いです」と答えることもある。昔は行書にすることもあったけど、機械じゃないので古印体でも細め太めを調整して、ちょっと内側にすると女性らしいカワイイ感じに仕上がる。太めにしてドンと入れると男性的な感じ。
最近は……というかかなり前からだけど、新聞広告なんかで「印相体」を見かけて指定してくることもある。あれは商売で生まれた字体なんだけど、それが流行りと言えば流行りかも知れない。
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放送曲目リスト
| Time |
Title |
Artist |
Label |
Number |
| 8'20" |
I Could Write A Book |
Peggy Lee |
Capitol |
TOCJ-5342 |
| 18'34" |
Three Little Words |
Carmen McRae |
Decca |
GRD-610 |
| 29'01" |
Too Marvelous For Words |
Ella Fitzgerald |
Verve |
823 247-2 |
| 39'38" |
I'm Gonna Sit Right Down And Write Myself A Letter |
Ella Mae Morse |
Capitol |
TOCJ-5990 |
| 45'42" |
It's A Pity To Say Goodnight |
June Christy |
Capitol |
7243 5 35209 2 2 |
|