SUNTORY SATURDAY WAITING BAR
2004年4月3日の放送

この日の放送曲目リスト/過去の放送内容リスト

「文房具」

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 新入社員のみなさんは入社式も終わって、いよいよ本格的に社会人としての生活がスタートしますね。
 引っ越しやスーツの用意はすでにお済みかと思いますが、「文房具」はいかがでしょうか? たしかに学生時代に愛用していた100円のボールペンでも困ることはありませんが、そういったさりげない小物にこだわるところから、大人への一歩を踏み出すのも悪くないと思いますよ。
 今日は当店を訪れたお客さまの、そんな文房具に対するこだわりを、ここで少しだけご紹介いたしましょう。


image ■ 鴨下信一さん(演出家)の

『万年筆』の話

 実家が度量衡(どりょうこう)と文房具の店をやっていた。だからというわけじゃないけど、今も書く時は万年筆を使っている。
 万年筆は腕で書けるのが良いところ。懸腕直筆(けんわんちょくひつ)と言って、筆は指先で書かずに、肩で書く方が正しい。万年筆に慣れると、ボールペンや鉛筆が使いづらくなる。
 使っている銘柄はウォーター・マン。わりとペン先が柔らかい方で、使いやすい。神田の金ペン堂でいつも買っていて、そこのオヤジに日本語が書きやすいように直してもらう。
 基本的に外国の万年筆は横書きで書くのに使いやすく作られているので、縦書きの日本語を書くにはあまり向いていない。それを金ペン堂のオヤジは日本語向けに直してくれる。そうなると当然、横書きには向かなくなるけど。
 昔の人の原稿を見ると、万年筆か付けペンかがわからない。万年筆かと思うと、付けペンのこともけっこう多い。インクを付ける、書く、また付ける、書く、というリズムが良いらしい。僕も昔、付けペンで書いていた時期がある。その時は、万年筆よりもペン先が選べるので、調子を変えるためにペン先を変えるという手が使えた。ですます調の軟らかい文章を書く時は太めの柔らかいペン先で、カッチリした報告書を書く時はGペンで、といった具合。
 そういう意味では、調子を変えられないワープロは「不自由」とも言える。そして何より、ワープロではいまいちノってこない。原稿用紙に字で書いていると、自分がノってきたのがわかる瞬間がある。やたら早く書けて、それが自分で嬉しくなってくる。
 ワープロが普及して、日本の作家の文章も変わった。文章には「言い換え」があって、たとえば「弾丸が飛んできた」は「弾が飛んできた」と言い換えても構わない。昔の戦争文学なんかが顕著だったんだけど、その言い換えが非常に多かった。それがワープロの普及で劇的に少なくなってしまった。
 校正者も悪い。「駅」と一度書いて、次にひらがなで「えき」と書くと、「どっちかに統一して下さい」と必ず言ってくる。この作業はワープロなら楽で、一括変換ですぐにできてしまう。でも、原稿用紙に手書きで書いていると、逆にその書き分けはやりたくなる。そうすることによって、ニュアンスが確実に付く。ところがワープロで書いていると、つい変換ボタンを押して全部変換してしまう。
 最近知ったところでは、意外にも江國香織さんが肉筆主義なんだとか。その江國さんはやっぱり「雪」と書いたり「ゆき」と書いたり、言い換えがすごく多かった。
 なんて事を言いつつ、「万年筆がいい」なんていうのはおまじないのようなもの。特に「金ペン堂じゃなきゃイヤ」なんて言ってるあたりがおまじないっぽい。

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image ■ 塩沢秀明さん(銀座『伊東屋』)の

『文房具の今昔』の話

 ウチで扱っている文房具は、アメリカやヨーロッパからの輸入モノが多い。それは100年前の初代会長、勝太郎がハイカラな人で、しょっちゅう向こうに買い付けに行っていた頃からの伝統。
 90年前のカタログが残っているんだけど、中には今でも売ってる商品が載っている。たとえば「ブックエンド」。本を立てかけるために鉄板をL字型に曲げたモノだけど、まったく同じモノを今でも売っている。
 それから「ルーズリーフ」や「リングブック」も載っている。『米国製ルーズリーフ式手帳/最近、欧米に於いては一般の記帳に応用しつつあり、表装が高雅なるのみならず、用紙の差し替え自在にて、かつABC別の見出しを添付せる、極めて便利なる紳士的手帳なり』なんて謳い文句で売っていた。
 ペン先の販売では、90年前から「1グロース」なんて単位が使われていた。1グロースは1ダースのセットが12個、つまり144本のことなんだけど、90年前にちゃんと通じたのかな?と心配になってしまう。レターセットの刻印も売っていたみたいで、ちゃんと機具一式がカタログに載っている。
 日本には昔から「筆墨硯紙」という言葉があって、この4つが日本の文房具の基本だった。そこにウチの初代なんかが、鉛筆や洋紙を持ち込んだ。そして紙の発達に伴って、複写のためのカーボン紙が生まれ、便利になればなるほど必要な文房具がどんどん増えていった。でも、以前に必要だったモノもちゃんと残る。その流れは今でも変わっていなくて、ワープロで手紙を書いても、最後は万年筆でサインをしたりしている。
 文房具にも流行り廃りがあって、ここ20年で一番変わったのは“紙”だと思う。コンピュータができて、自分でプリントアウトできるようになり、昔は印刷に頼るしかなかった部分が個人の手の届くところへ下りてきた。その結果、プリンターペーパーとして紙の需要が飛躍的に伸びた。印刷方式に合わせていろんな種類の紙があったり、必要とされるクオリティに応じても紙を使い分けたり、とにかくいろんな種類の紙が誕生している。
 ウチもドイツから紙を入れたりして、この需要に対応している。名刺の大きさの紙からB1版の紙まで、あらゆるサイズの紙をばら売りしていて、かなりの需要がある。その種類たるや数千種。プリンタ、工作、その他、様々な分野から引き合いがある。この“紙”が、今の文房具の最先端では。

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■ 川崎雅生さん(トンボ鉛筆)の

『鉛筆』の話

 株式会社トンボ鉛筆は、明治10年代、日本に鉛筆が入ってきた一番最初の時期に、初代が鉛筆作りに着手したのがその始まり。だから会社の歴史が、ほとんど日本の鉛筆の歴史みたいなもの。
 明治維新で開国して、鉛筆という文化が日本に入ってきた。それまでは毛筆で縦書きの文化だった日本人は、洋学を学ぶ際に鉛筆で洋紙に横に書く、という事にみんなビックリした。そしてどうしても鉛筆が必要になって、西洋へ作り方を学びに行った。それが明治の10年代。
 でも、作り方を学びに行ったからといって、そんなに簡単に作れるはずもない。芯を作る技術と、木を加工する技術。まったく異なる2つの技術の習得には、ずいぶん時間が掛かった。そのため、明治時代はドイツからの輸入鉛筆がほとんどだった。
 そして大正期に入り、日本の鉛筆作りの技術もやっと成熟しだす。それでやっと国産の鉛筆が中心になっていった。
 鉛筆の芯の素材は黒鉛(グラファイト)。そこに粘土を混ぜて焼く。お茶碗を焼く時にみたいに、高い温度(1000度以上)で長時間焼く。そうやってできた硬い芯を、木で包む。木の板を2枚重ねて、その間に芯を挟み、いわゆる鉛筆の形に削り出す。その後、形を整え、色を塗り、製品としての鉛筆が出来上がる。
 鉛筆に木が使われるようになったのは、鉛筆が日本に入ってくるはるか以前、1700年代にコンテという人が発明してから。ナポレオンが「国を強くする器具」として、知的な部分を強化するための道具として作らせた。実際、鉛筆と紙を使ってスケッチすることで、世界のあらゆる技術を集めて、たしかに強くなっている。
 鉛筆の硬さを表すのに“B”“H”“F”などいろんな記号がある。女性が使うならFが向いているかもしれない。一説には“Feminine”のFとも言われているけど、一般的には“Firm”(引き締まった)だと考えられていて、アメリカで女性が職場に進出した時期に、女性のために作られた鉛筆がFであろう、というのが定説になっている¥。ちなみにHは“Hard”で、Bは“Black”。
 鉛筆の後ろに消しゴムが付いているのは、アメリカ人の好きなスタイル。この鉛筆がアメリカでブームになっていた時期に日本人が製法を学びにいったので、日本でもこのスタイルが定着した。
 鉛筆と消しゴムは夫婦のようなもので、どちらが欠けても機能しない。鉛筆のお尻に消しゴムが付いているということは、もしかしたら尻に敷かれている消しゴムの方が夫なのかも。

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image ■ 斎藤修一さん(パイロットコーポレーション)の

『万年筆の修理』の話

 万年筆の修理には、ペン先の細かいところまで見るためのルーペが必需品。そしてルーペで見ながら、指で修理していく。だから手先の器用さと、目ではわからない微妙なところを指先で感じる職人芸のような感覚が必要になる。
 人によって好みや癖が違うので、使いやすい万年筆も違ってくる。そして選ぶ基準もさまざま。「万年筆はファッションだ」と考えるのも間違いではないので、気に入った形や色で選んでもいい。書き味に関しては、筆圧や筆記角度によって変わってくる。それと、ペン先の表面が左を向くのか右を向くのかでも違う。この辺を考えながら調整をする。中には最初からそういう調整をして売っているモノもあるし、お店にはいろんなペン先の万年筆が置いてあるので、自分に合ったモノが必ずあると思う。
 試し書きをするときは「永」という字を書くと、ペンの先がいろいろな角度に向くので、引っかかりがないかどうか確認できる。それから一番使う機会が多いのは自分の名前なので、それを気持ちよく書けるのが大事。そして一番重要なのは、書き出した時にパッと書けること。試し書きではこのあたりをチェックする。
 万年筆が他の筆記具と違うのは、使い始めてから徐々に書き味が良くなっていくこと。もうなくなってしまった会社だけど「オノト万年筆」という古い万年筆があって、80年ぐらい前のモノが修理で持ち込まれたりする。そういう万年筆をルーペで拡大して見ると「この人はこういう使い方をしていたんだ」とよくわかる。
 お父さんやお祖父さんが亡くなって、形見分けでもらった万年筆を修理に出すと、「お祖父さんはこうやって使ってたんですね」「私も同じです」なんてこともしばしば。「万年筆なんて嫌だと思っていたんですが、嬉しくなってきました」なんて言われると、修理する人間としても嬉しくなってしまう。

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image ■ 泉麻人さん(コラムニスト)の

『懐かしい文房具』の話

 僕は今でも原稿は手書き。2Bの鉛筆を使っている。柔らかさと濃さが自分に一番合う。
 子供の頃、6Bの鉛筆が新発売されて、すごく欲しかった記憶がある。それから“ハイユニ”が出た時も欲しくてしょうがなかった。それまでは1本50円が最高だったのに、ハイユニは100円。あの金色のロゴが妙に高級があって、格好良かった。
 今はあまり見ないけど、“ユニホルダー”という、シャーペンと鉛筆の中間のような筆記用具も憧れた。
 鉛筆は、使っている内に先が丸くなってしまう。だから小学校の頃に使っていた筆箱には、小型の鉛筆削りを収める定位置が確保されていた。
 文房具にはいるのかどうか微妙だけど、“ボンナイフ”が流行ったこともあった。小型のカミソリみたいなナイフで、小学校3〜4年の頃にすごく流行っていた。理科の実験で、種子を切って中を見るのに使ったような。
 ペンテルの“60色クレパス”も憧れだった。当時、子供向けでは色数が最大で、買ってもらって「紅梅色」「萌葱色」「薄赤紫」なんて新種の名前を発見した時は嬉しかった。もっとも、子供だからわざわざ新しい色を無理して使っちゃって、その辺からなくなっていくんだけど。

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放送曲目リスト

Time Title Artist Label Number
9'07" I'm Gonna Sit Right Down And Write Myself A Letter Ella Mae Morse Capitol TOCJ-5990
20'10" A Hundred Years From Today Dean Martin Capitol TOCJ-5890
32'08" Three Little Words Carmen McRae Decca GRD-610
41'24" Something Gotta Give Frank Sinatra Capitol CDP 0777 7 80326 2 5
47'46" I Could Write A Book Peggy Lee Capitol TOCJ-5342


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