■ 山本益博さん(料理評論家)の
『醤油』の話
日本人が外国に行くと、その国の調味料の匂いを感じるように、日本に来た外国人は「魚」と「醤油」の匂いを感じるらしい。それから「蒲焼き」の匂い。この辺りが日本の匂い、ということなのだろう。
でも、醤油という調味料が変質してしまったことに、日本人はあまり気がついていない。みんな色を見ただけで「醤油」と思っているんだけど、醤油で一番大事なのは、実は「香り」。自分の家の醤油を生でなめてみれば、どんなに香りのない醤油を使っているか、まざまざとわかる。
塩分を加えたいだけなら、塩で事足りる。わざわざ醤油を使うのは、他の調味料では出せない、あの独特の香りを加えるため。だからこそ、醤油を焼いたり煮詰めた時に出てくる香りこそが、もっとも日本人の郷愁を誘う香りになっている。
たしかに醤油は日本で発明されたものじゃなくて、中国にだって東南アジアにだって、似たような調味料はある。でもやっぱり、何かが違う。一言でいうと、洗練されていない、という感じがする。それは僕が日本人だから、という問題ではないと思う。
以前にスペインの『エルブリ』という話題のレストランに行ったら「お醤油のヌーヴェ(雲)」という泡料理が出てきて、すごくおいしかったんだけど、惜しむらくは醤油が日本のものじゃなかった。それで、今年の4月にそこのシェフが日本に来た時に、お土産として醤油をプレゼントした。「これは僕が家でお刺身を食べる時に必ず使っているおいしい醤油なんだ」って言ったら、彼はすぐその場で開けて、一口なめて一言「うまい!」。そして「悪いけど、僕の店では使わないよ。その代わりバルセロナにある行きつけの日本料理屋に持っていって、ボトルキープして、自分だけで使わせてもらうから」なんて言っていた。
その醤油は、9月9日の重陽の節句、お醤油の一番搾りがとれるその前に、タラッ、タラッと出てくる、貴重な醤油。そんな醤油を使ってるなんて、たしかに贅沢きわまりないんだけど、僕は「米と醤油に贅沢しなくてどうする!」というのが信念なので。だからもし、この世の最後の晩餐を選ぶとしたら、僕は「炊きたてのご飯に醤油をひとたらし」という料理を選ぶ。
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■ 辛永虎さん(焼き肉『虎の穴』オーナー)の
『タレとコチジャン』の話
もともと醤油は、中国から朝鮮半島を通って日本に伝えられたもの。味噌をつくるときの副産物として生まれるのが醤油なので、中国や韓国、そして九州くらいまでは、基本的に醤油といえば「たまり醤油」。
正直、関東で生まれ育った僕にとって、たまり醤油の甘さはどうにも馴染めない。やっぱり刺身には、生醤油のキレのあるしょっぱさが合うと思うので、韓国に行くときはいつも生醤油を持っていく。
そして、焼き肉のタレも日本と韓国ではかなり違う。行ったことのある人ならみんな知っていると思うけど、韓国の焼き肉は「ゴマ塩」がメイン。一応、たまり醤油にちょっと味付けしてあるようなタレも出てくるけど、これはかなりおざなりで、日本のそこら辺の店で、普通のおばちゃんが作ったタレの方がよっぽどおいしい。
タレには、2つの使命があると思う。1つは、素材の旨みを生かすこと。そしてもう1つが、弱点を補うこと。焼き肉でいえば、肉が安くて味がイマイチのときに、もうひと味を足してあげるのがタレ。たとえばウチのタレは、リンゴや白桃を使って甘みを加えている。さらにニンニクや生姜を加えてキレを出した上で、熟成させている。さらに、そのタレを付けた肉を焼くときに、ジュッと立ち上る醤油がこげる香りも欠かせない。
焼き肉では、コチジャン(唐辛子味噌)も重要。作るのに非常に手間がかかるので、自分で作っている店はほとんどないんだけど、そういう店があったとしたら素晴らしい。実際問題そういう店はほとんどないので、次点としては「甘すぎない」店がいい。コチジャンは作る過程で水飴を入れるんだけど、水飴を入れすぎるとその甘さだけが際だってしまって、唐辛子の香りが失われてしまう。本物のコチジャンは、唐辛子の香りが前面に出ていて、そこに糀(こうじ)独特の甘さが残っている。このコチジャンを入れることで、肉の甘みやタレの甘みが引き立つ。焼き肉屋に行ったら、ぜひコチジャンをチェックして欲しい。
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■ 良川伸一さん(「世界の食品カーニバル」店主)の
『魚醤』の話
醤油にもイロイロある。日本の醤油で変わったものといえば、魚から作る「しょっつる」。それからタイの醤油は「ナンプラー」、ベトナムは「ニュクナム」、フィリピンでは「パティス」。日本だけじゃなくて、世界にもいろんな醤油がある。
海外の醤油は、魚醤といって魚から作るので、日本の醤油に魚のダシをちょっと加えたような味が多い。タンパク質がちょっと発酵した香りがあるので、そのクセはひとによって好みが分かれるところ。でも日本の鍋に入れて、魚のダシをとったような風味を楽しむ人もいる。
キムチを漬けるときも、ちょっと魚醤系の醤油を入れていることはあまり知られていない。日本でも白菜を漬けるときに昆布を入れるけど、それと同じ感じの「隠し味」なんだと思う。
調味料というのは、決して主役にはならない。でも、お刺身だって、醤油がなければ生臭くて食べられない。ワサビだけでもダメ。醤油をつけることで、不思議と魚の生臭さが薄れてくれる。
10年前、ウチのお店でナンプラーを扱い始めたときは、1年に2ケース売れるかどうか、という感じだった。それが今は、1ヶ月に2ケースも売れている。それくらい魚醤に対する認知度は上がった。中には「ニュクナムありませんか?」「今ちょっと切らしているので……タイのナンプラーで代用なさってはいかがですか?」「いえ、ニュクナムが欲しいんです」なんて人も出てきた。生春巻きやフォー(ベトナムのヌードル)を作るのに、本に「ニュクナム」って書いてあるからなんだろうけど、本当は代用しても大丈夫。でも、それだけこだわる人が出てきたというのは嬉しい限り。
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■ 氏家アマラー昭子さん(タイ料理研究家)の
『ナンプラー』の話
ナンプラーの原材料は「ヒコイワシ」。ナンプラーは簡単に言えば「ヒコイワシの塩漬け」で、イワシの上に塩をまぶして、それを発酵させて作る。タイは海抜が低いので、パタヤへ向かう道のまわりには塩田がたくさんあって、そこでおいしい塩がザクザクとれる。たぶん、その塩を使ってナンプラーを作っているのだろう。
ちなみに塩にはオスとメスがある。塩が結晶するときにギザギザができるんだけど、そのギザギザの形によって、タイでは「オス」と「メス」に分類している。それで昔は体の調子が悪かったりすると、「オスを何粒、メスを何粒飲め」なんて言っていたらしい。
ナンプラーを作っている工場は、見た感じはプールみたい。そこにヒコイワシと塩を入れて、上がってきた水を熟成させる。熟成の期間によって色も香りも値段も違ってくるので、ナンプラーといってもいろいろある。
私が考えるナンプラー料理の代表は「ヤムナン」。「ヤム」というのは「和える」という意味で、この料理の塩分や香りは、ほとんどナンプラーで付ける。この香りや旨みは、日本の醤油では絶対に出ない。ナンプラーが日本の醤油と決定的に違うのは、小魚のタンパク質が分解されてできたアミノ酸が含まれていること。だからナンプラーの料理は、塩や日本の醤油で代用することはできない。
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■ 陳健一さん(赤坂『四川飯店』オーナー)の
『豆板醤』の話
四川料理の調味料といえば、山椒と唐辛子、それから豆板醤と鷹の爪。油もごま油だとかニンジン油だとか、イロイロある。ニンジン油というのは、ニンジンをすって、油でよく炒めて、ニンジンの甘みと色を油に移したもの。隠し味に使ったり、前面に出したり、いろんな使い方をする。
豆板醤というのは、唐辛子とソラ豆で作られている。それぞれを塩漬けにして、発酵させる。でも、その時に加える発酵菌はシークレット。それぞれのお店の秘密。
豆板醤は辛い、と思われているけど、あれは味噌だから「味」を加える調味料。辛さは一味唐辛子なんかでつける。ちなみに、一番辛いのは唐辛子のタネなんだけど。
豆板醤にもいろんな種類があって、たとえば熟成が1年未満の若いヤツは、色がキレイ。だからチリソースを作るときなんかは、若い豆板醤をブレンドして、色を鮮やかにしたりする。今、ウチの店で使っている豆板醤は6種類だけど、本場に行けばもっといろんな種類がある。ご飯の上に乗せて食べる豆板醤なんてのもあって、干しエビが入っていたり、中国ハムが入っていたりする。日本人がキュウリに味噌をつけて食べる感覚に近いかもしれない。
もちろん、日本ではそんな豆板醤はどこにも売っていないので、ウチは四川からわざわざ取り寄せている。四川省成都の近くにある工場で、毎年5トン作ってもらっているんだけど、発注してから届くまで2年かかる。6年前にそこと専属契約して、やっと今は豆板醤に不自由しなくなった。そこに行くと、自分のところの番号がついた大きな容器があって、それを見ると我が子を見るような気持ちになる。
その豆板醤がウチの麻婆豆腐に使われているので、食べる機会があったらその味と辛さを味わって欲しい。
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放送曲目リスト
| Time |
Title |
Artist |
Label |
Number |
| 11'05" |
The Lady's In Love With You |
John Pizzarelli |
TELARC |
CD-83546 |
| 23'33" |
Like A Woman |
Rosemary Clooney |
RCA |
BVCJ-2030 |
| 33'17" |
Where Were You |
Nat King Cole |
Capitol |
CDP 0777 7 80595 2 3 |
| 42'03" |
House Of Bamboo |
Earl Grant |
RHINO |
R2 722 38 |
| 47'36" |
The Best Thing For You |
June Christy |
Capitol |
CDP 7243 4 95448 2 6 |
|