SUNTORY SATURDAY WAITING BAR
2002年5月4日の放送

この日の放送曲目リスト/過去の放送内容リスト

「遠くへ行きたい!」

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 青い空、白い雲、遙かに見上げる山々、異国情緒に溢れる町並み、沈む夕日に、満天の星空……せっかくのゴールデンウィークだというのに、蛍光灯の下でパソコンに向かって仕事に励むご同輩の皆さま、いかがお過ごしでしょうか。私、小穴も薄暗いバーの片隅で、せっせとグラスを磨いております。みずから望んで就いた仕事とはいえ、こういう瞬間が一番ツライですね。
 もっとも当店では、お客様の体験なさった素敵な旅のお話を聞ける、という楽しみがあるのが唯一の慰みです。先程からあちらの席でも、そんなお話をされている方がいらっしゃいます。そのお客様が運んできてくださった、異国の空気に触れてみませんか?  



image ■ 馬場啓一さん(エッセイスト)の

「ドミニカ」の話

 一昨年の6月、ドミニカ共和国に行って来た。野球の取材、ではモチロンなく、葉巻の取材旅行だった。
 葉巻の工場、というより大部屋では、机と椅子がズラッと並んでいた。そこでみんなが葉巻を作っているんだけど、なぜか一番前に、牧師さんがお説教をするための台みたいなものが置いてあった。「あれはなんだ?」と聞いたら、「リーダーだ」と言う。でもよくよく話を聞いてみたら、「Leader」ではなくて「Reader」だった。つまり、葉巻を作っている人は、目と鼻と口を使っている。唯一あいているのが耳なので、その台に立って本を朗読する人がいる、ということ。ラジオがあればラジオでも構わないのかもしれないけど、それが伝統というものらしい。ちなみに『モンテ・クリスト』という葉巻の名前は、アレキサンドル・デュマの『モンテ・クリスト』という小説がその朗読で一番人気だったから付けられた、とも教えてくれた。
 小説だけでなく新聞を読むこともあるらしい。それこそ、政治の記事から天気図まで、新聞を隅から隅まで読むんだけど、かつてキューバがアメリカの属国だった時に、新聞には「バチスタ政権はひどい」という記事が載っていて、その記事をキューバの葉巻工場で読み上げると工場は大いに盛り上がったとか。その盛り上がりがキューバ革命に一役買った、とも言っていた。
 フランク・シナトラが一番最後にコンサートをしたのもドミニカで、その会場にも行ってみた。そこは5000人は入りそうな、大きなすり鉢状の野外劇場だったんだけど、思わず感涙にむせんでしまった。
 その劇場自体は『カサデ・カンポ』という大きなリゾート施設の一つ。そしてそのリゾート施設全体は、東京くらいの広さがあるという、とてつもない大きさの「街」。宿泊施設は客ごとに2階建てのコテージが1軒まるまる与えられるし、移動はすべてゴルフカート。カリブ海は観光で有名な場所だけど、ここはその中でもかなり有名な施設らしい。施設のど真ん中に高速道路が走っている、と思ったら、実は飛行機の滑走路だったし、とにかくスケールがでかかった。アメリカやヨーロッパの人にとっての「奥座敷」みたいな場所なんだとか。

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image ■ ジュディ・オングさん(歌手)の

「台湾」の話

 私は台湾の台北生まれ。でも父と母の実家は台南。日本でたとえるなら、台南が京都みたいな古い都で、台北は東京みたいな新しい近代都市、という感じ。だから台北の人、特に台北の女性はテキパキと元気が良くて、歩く姿からして威勢が良い。これが南に下ると、しなやかな雰囲気になる。情緒に溢れていて、人を思いやる気持ちが強い。
 そんな台南に、NHKの番組の撮影で、本当に久しぶりに帰った。流暢な日本語で、優しい言葉で迎えてくれて、懐かしいというか、忘れ物をたくさん見つけたような気がした。
 その台南の中でも、ぜひ日本の人たちにオススメしたいのが「鹿港(ルーカン)」という町。昔の貿易港がそのまま残っている町で、台湾では結構有名なんだけど、まだ日本では全然知られていないハズ。
 その昔、台湾では港側の家の間口が広いと税金が高くなったため、大きい家でも間口が10mくらいしかなくて、その代わりに奥行きが73m、なんて家がたくさんあった。その場合、家の前の方は商売のスペースで、真ん中にお客さんをお呼びして、奥が家庭の空間、という構成になる。そしてさらに一風変わっているのが、良家のお嬢さんは2階から下には決して降りて来ない、という習慣があったこと。これは港町だけに、1階にはいろんな人が出入りして危険だったからなんだけど、そのため各家同士の2階のベランダが何百メートルも繋がっていた。
 今でもその港町が昔のまま残されている「鹿港」。台中からそう遠くないので、機会があったらぜひ見て欲しい。

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image ■ 溝口肇さん(チェロ奏者)の

「メキシコ」の話

 僕は海外へ行くと、プライベートではいつも車で移動している。そのせいで、アメリカは東と西を10往復できるくらいの距離を走ってしまった。
 アリゾナの砂漠や荒野みたいな何もないところを走っていると、普段は好きでもなんでもないカントリー・ウェスタンが、くやしいかなヤケに似合う。そういうところではジャズはダメ。これが都会に入ると逆転するんだけど。
 アメリカの荒野を走るのは、どこか自分の原点みたいなところがあって、元気が出るから。ところがある時、アメリカの延長線のつもりでメキシコへ足を伸ばしたら、エライ目に遭った。
 アメリカはどこへ行ってもある程度整備されていて、どんな小さな町でもモーテルはあるし、何があっても最悪旅行は続けられる。ところがメキシコのある半島へ差し掛かった時に、その半島全域でガソリンがなくなるという事態に巻き込まれた。それは年の暮れも押し詰まった頃で、1月1日の飛行機でロスに戻る予定だったのに、「海が荒れていてタンカーが港までたどり着けない」という理由で、にっちもさっちも行かなくなってしまった。
 町に1軒しかないガソリンスタンドの前には、3キロも4キロも車が列を作り、地元の人も旅行者も、みんなその車の中で野宿。ついに2日目の朝、ガソリンが届いた時には、大歓声が上がった。
 待っている間、「いつ来る」みたいな噂が飛び交っていたけど、ホットドッグ屋のオジサンの情報が一番確かだったのには感心した。「2年に1回くらい、こういうコトがあるんだけど、あと10時間もすれば来るんじゃない?」って教えてくれて、本当にその通りになったのには驚かされた。だからそのオジサンには、ついチップを弾んでしまった。

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image ■ 湯山邦彦さん(映画監督)の

「ヴェネチア」の話

 『ポケモン』の最新作では、「街」を舞台にしたものにしようというアイデアが出された。そこで「ポケモンと街が共生している空間」のモデルとして、ヴェネチアを選んだ……と言えば聞こえは良いけど、本当は、そう言えばヴェネチアに行けるかもしれない、という気持ちも半分あった。
 ヴェネチアは、聞くと見るとでは大違いの街だった。「運河」と言われるけど、実際問題、アレは「河」。ホントに「水の上に浮かんでいる」というか、水の中に街がある、という感じだった。だから道路のように水路があるし、自転車や車の代わりに船がある。あのなんとも言えない感覚は、行かなければわからないだろう。
 水位が高いのか、街が低いのか、水面と街があまりに近い。だから冒頭とクライマックスで、水路を水上ボートで追い駆けっこするようなシーンをカッコ良く作ったんだけど、これは実写では危険すぎて不可能だと思う。
 それから、ヴェネチアの街は迷路のように入り組んでいて、フッと角を曲がると突然人通りがなくなったり、突然大きな広場に出たりする。だから路地をずっと歩いていくと、不思議な空間に辿り着くんじゃないか、と思わせてくれる部分も、今回の映画のモチーフにさせてもらった。
 映画の中では「アルトマーレ」という名前の街なんだけど、アルトマーレの街をさまよい歩いていたら、フッと不思議な空間に出て、そこでポケモンと出会えたら、きっと楽しいだろう……今回の『ポケモン』は、そんな風に楽しんでもらえたら嬉しい。

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■ 若村麻由美さん(女優)の

「ヒマラヤ」の話

 ヒマラヤでトレッキングをしてきた。ネパールでは、標高6000mまでをトレッキング、それ以上を登山と区分している。私は標高5545mの、トレッキングとしては最高ポイント言われるところまで行ってきたけど、あくまでその定義に従えば「トレッキング」。ちなみにエベレスト登山のベースキャンプよりも高いんだけど。
 そこまで行くと、いま吸っている東京の空気と較べて、半分の量しか酸素がない。歩いている分にはそれほど問題にはならないけど、走ったりするとクラッとくると教えられた。ところが何故だか、私は妙に心肺機能が強いらしくて、本来なら3000mを越えたところでいったん高度障害になって、そこで高度順化してから上を目指すものなのに、私は5000mまで何も問題も起きなかった。「5000mまで元気な人は珍しい」って、誉められたのか気味悪がられたのか、その辺は微妙だったけど。
 4000mを過ぎると、そこには荒涼とした世界が広がっていた。あたりに見えるのは氷河に包まれた8000m級の山々、青空と風、それから荷物を運ぶヤク、それくらい。植物も、膝下くらいの小さな、でも凄く良い香りの「びゃくしん」という灌木と、4000mギリギリまでならエーデルワイスがたまに見れるかな、という程度。そんなところへ差し掛かって俄然元気になった私は、「おかしい」と言われまくった。
 5000mに着く頃には大声で歌を歌いながら歩いていたんだけど、一歩足を前に出すことがこんなに楽しいとは思ってみなかった。東京にいる時は、雑音というか雑用というか、いろんな事がありすぎるんだと思う。でも、私が元気なせいで「つらい」と言えなかったスタッフは、ちょっと可哀想だったかも。こっそりテントで寝込んでいたり、熱を出したりしていたらしいから……その頃、私はポーターの男の子とトランプで遊んでいたし。

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放送曲目リスト

Time Title Artist Label Number
9'33" Candomble Mario Castro Neves & Samba S.A. RCA 74321860962
19'20" Cabin In The Sky Rosemary Clooney BMGジャパン BVCJ=7480
29'38" South Of The Border Frank Sinatra Capitol TOCP-8134
36'20" Summertime In Venice Yujiro Ishihara テイチク TECE 25110
46'09" Tommorow Mountain Betty Bennett Athantic AMCY-1065


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