SUNTORY SATURDAY WAITING BAR
2001年9月8日の放送

この日の放送曲目リスト/過去の放送内容リスト

「ジャック・レモン」

image
今日はずっとこのCDをかけています。日本盤は出ていないそうなので、入手をご希望の方は輸入レコード店でお探しになるか、Amazon.comでお取り寄せ下さい。

 2001年6月27日、1人の男性が天国へと召されました。
 その男性は少し気弱な感じのする、不器用で平凡な方でしたが、その都会的なセンスとユーモアで、いつも私たちを楽しませてくれたものでした。ジェイクや古い常連のお客様にとっては友人のような、私や若いお客様にとっては先生のような存在だったのです。
 その男性の名は、ジャック・レモン。今週はここAVANTIに彼を偲ぶ人々が集って、マティーニのオリーブを並べながら彼の思い出を語らっています。なぜこの店でって?『お熱い夜をあなたに』の原題は、偶然にもこの店の名前と同じなんですよ。
 よろしかったら貴方も1杯、マティーニをいかがですか?



image ■ 愛川欽也(俳優)の

「アパートの鍵貸します」の話

 僕の歳ともなると、中学生の頃から映画を見続けてきたとして、もう何千本見たか分からないくらいの映画を見てきた。その中で一番好きな映画は?と聞かれて、『アパートの鍵貸します』だと即答できるのは、幸せなことだと思う。
 『アパートの…』が作られたのは、約30年前。米国映画全盛の時代だった。ジョン・ウェイン、クラーク・ゲーブル、ゲイリー・クーパーといったヒーローがスクリーンの中で大活躍し、悪漢をバッタバッタとなぎ倒していく正義の味方が花形だった。しかし、ジャック・レモンの役どころは違った。本当に隣に住んでいそうな、あまり強くない、どちらかと言えば小心者をいつも演じていた。上司に気に入られるために自分の部屋をラブホテルがわりに貸していたら、本気で好きになったシャーリー・マクレーン演じるエレベーターガールが上司の女だった……なんて、本当にありそうな話だし。そんな話をあの頃の米国で映画にした事がスゴイと思う。
 主人公が会社の中で出世しようがいなくなろうが、時計の針はちっとも変わらず動いていて、彼は大会社の歯車の1つに過ぎないかもしれない。しかもその歯車も、ちっとも噛んでいないのかもしれない。それでもその歯車も生きているんだ、みたいなところが好き。しかも、本気で惚れたら、クビになることも覚悟して、惚れた女性に対する愛を通そうとする……まあ映画の中では出世しちゃったんだけど、そのちっぽけな人間の意気込みがたまらなく良かった。
 シャーリー・マクレーンもまた良かった。すこぶるつきの美女というわけでもなく、特にグラマーな体つきをしているわけでもない。本当にただのエレベーターガールで、会社のお偉いさんの愛人。その彼女が初めて本気で人に愛され、戸惑いながらもやがてその事に気づく。フレッド・マクマレー演じる上司も、いかにもインチキ臭くて良かった。
 僕はオススメの映画を聞かれたら、今でも『アパートの…』を薦めている。僕はこれまで俳優として、映画にドラマに芝居に、数多くの仕事をしてきたけど、その全ての仕事にあの映画は影響を与えている。

【Hot Link !!】





image ■ 小堺一機さん(タレント)の

「ジャック・レモンによろしく」の話

 ジャック・レモンの映画の中では『酒とバラの日々』が好き。子供の頃に「こういう演技が出来るのがうまい役者なんだぞ」と教えられて、それが今でも心に残っている。『お熱いのがお好き』も好きだけど……やっぱり『アパートの鍵貸します』も最高。
 阿久悠さんが『アパートの…』をそのままテレビ業界の話に置き換えた『ジャック・レモンによろしく』という小説を書いて、それがテレビドラマになったことがある。プロデューサー役が原田芳雄さん、売り出し中の若いタレント役が洞口依子さん、そしてジャック・レモンの役にあたる放送作家を僕が演じた。
 僕の役は、いつかドラマを書きたいと思いながら、バラエティのコントしか書かせてもらえない、しがない放送作家。原田さんが演じるプロデューサーに部屋を貸している間はバーで飲んでいて、自分の部屋に電話を掛けては、部屋が空いたかどうかを確認していた。ところがある時、洞口さんが僕の部屋にやってきて、バカヤロー!と叫びながら卵をぶつけていく。つまり、洞口さんは僕の部屋を原田さんの部屋だと思っている、という事は原田さんの不倫相手は……ということに気づく。そんなお話の骨組みは完全に『アパートの…』だった。まあ、それ以前に阿久悠さんの付けたタイトルが『ジャック・レモンによろしく』であるところで、誰でも分かるんだけど。でも、小説を読んだときからその役をぜひ演じてみたいと思っていたので、ドラマ化されるのでその役を僕に、という話を聞かされたときは本当に嬉しかった。
 ジャック・レモンのインタビューを見たら、「僕はコメディをやったことは1度もありません」と言っていた。つまりコメディではなく、あくまで芝居だというコトらしい。言われてみれば、確かにジャック・レモンの演技は笑いに向かっていない。『アパートの…』でも、テニスラケットをギャグにしてスパゲッティを茹でるのではなく、他にないからテニスラケットを使っただけで、それが結果として観客の笑いを誘っている。『ミスタア・ロバーツ』でも、必然性があって泡だらけになるワケで、最近は泡だらけになること自体が目的の人がいるけど、それでは人は笑わない。
 ケビン・スペイシーとの対談では、「脚本を選ぶときに、この役はやれると思った脚本は選ぶな。どうやって演じたらいいんだろう、と思った脚本を選べ」と言っていた。それを聞いたケビン・スペイシーは、今でもそうやって脚本を選んでいるらしい。
 ピアノを弾けるし歌も歌えるのに、それを全然ウリにしていなかった。そういうところがジャック・レモンの格好良さだと思う。

【Hot Link !!】





image ■ 杉浦直樹さん(俳優)の

「おかしな二人」の話

 『おかしな二人』を舞台でやる事になったとき、正直に言ってジャック・レモンの役の方がやりたかった。ただ、演出家の福田陽一郎さんに「ウォルター・マッソーの役を演じる役者がいないだろう」と言われて、半ば無理矢理そっちをやらされることになった。
 ジャック・レモンの役はフィリックスという名のテレビレポーターで、ウォルター・マッソーの役がオスカーという名のスポーツ記者。ウォルター・マッソー自身は元々電気工事会社に勤めていた人で、俳優になりたいなんて思ったこともない人だった。ところがある日突然、ウォルター・マッソーは役者になってしまう。そんな経歴なのに、彼の演技は素晴らしい。素晴らしすぎて、僕にはちょっとマネが出来ない。むしろジャック・レモンの方が、芝居の質としてはまだ理解できる。僕が勝手にそう思っているだけかもしれないし、間違っているのかもしれないけど、少なくとも僕はそう感じている。
 だから今でも、僕は石立鉄男君が演じたフィリックスの方がやりたい、と思い続けている。再演の時もオスカーをやらされたけど、その時だってフィリックスの方をやりたいと思った。いつか、1度はやりたいと思う。石立君も江守徹さんも、自分なりのフィリックスをちゃんと演じていたけど、それとは別に役者のエゴイズムで「自分だったらこう演じる」と考えてしまう自分がいる。
 でも、それを福田さんに言ったら、「わかるわかる、わかるけどな、お前がフィリックスをやるとな、オスカーがお前より大きなヤツじゃなきゃいけなんだよ」なんて言われてしまった。それで「大きさの問題じゃないだろう!……横幅の大きなヤツならいるから、それでどう?」なんて提案してみてもダメだった。
 初めてジャック・レモンを見たのは『ミスタア・ロバーツ』だったと思う。その時の「外国にはこういう形のコメディアンがいるのか」という衝撃は大きかった。それまで日本でコメディアンといえばエノケンや渥美清さんで、ソフィスティケイテッドされた三枚目という人は存在しなかった。だから驚いて、その話を芥川比呂志さんにしたら、「向こうではアクトゥールとコメディアンという分け方をしている」という事を教えてくれた。コメディアンというのは、役に住まわれてしまう、物まねを得意とする人。アクトゥールというのは、役を代行する人。だから日本でコメディアンを喜劇役者と訳しているのは間違いなんだ、と芥川さんは仰っていた。
 笑いの裏には、必ず涙がある。そういうジャック・レモンの洒落ている部分は、彼の人間としての匂いが為せるワザなんだろうか。会ったこともないけど、そう感じる。

【Hot Link !!】





image ■ 愛川欽也さん(俳優)の

「ジャック・レモン」の話

 ジャック・レモンの吹き替えはずいぶんやった。アテレコ全盛期には千本単位で吹き替えの仕事をやったんだけど、ジャック・レモンの声はほとんど僕が担当した。  自分で立候補すればそうなれるというものじゃなくて、そう決めてくれた人がいたんだと思う。そしてそれはたぶん、今でも東北新社でプロデューサーをやっている内池さんという人だと思う。
 一番最初にジャック・レモンの吹き替えをやったのは、『ミスタア・ロバーツ』だった。ジャック・レモンの声を聞きながら、画面を見ながら、台本を見ながら声を当てるんだけど、我ながら器用だったと思う。でもその時、ジャック・レモンの声は意外と自分の声に近いとは感じた。ちょっと高めの声とか、せっかちな演技とか、生理的に合う感じがする。彼は年相応に落ち着いていって、『チャイナ・シンドローム』の頃にはもうせっかちという雰囲気はなかったけど、初期の映画はかなりせっかち。ちなみに僕もせっかちだったんだけど、僕の場合はこの歳になってもいまだにその性格は治らない。
 実は、1度だけジャック・レモンに会ったことがある。もう30年くらい前、『11PM』という教育番組(?)で取材のためにニューヨークへ行ったら、ジャック・レモンがプラザホテルに泊まっていて、日本のジャック・レモン(の声)を紹介してやるという話が出た。こっちとしては願ったり叶ったりなので、喜んで飛んで行って、5〜6分だけど会うことが出来た。ブロークンな英語で「ジャック・レモン・イン・ジャパン」なんて挨拶をしてきたんだけど、その時彼は紺色の背広を着て、洒落たコメディアンと言うよりは、まるで銀行の支店長のような落ち着いた雰囲気を持った人だった。映画で見せるせっかちな性格は演技に過ぎず、その落ち着いた雰囲気こそが素だったのかもしれない。

【Hot Link !!】





image ■ 和田誠さん(映画監督・イラストレーター)の

「マカロニ」の話

 ビリー・ワイルダーが好きで、特にジャック・レモンが出ている映画は全部大好き。『アパートの鍵貸します』などは最高。ジャック・レモンと言えば、ちょっと地味なところで『マカロニ』というジャック・レモンとマストロヤンニが共演した映画も良い。
 時は1970年代。ビジネスで成功したアメリカ人がイタリアへ行く。戦争中にイタリアにいた経験があり、その時に仲良くなったイタリア人を訪ねて行くのだが、そのうだつの上がらないイタリア人をマストロヤンニが演じている。得意になっているアメリカ人と何でもない小市民として生きているイタリア人が出会い、アメリカ人の方がイタリア人に影響されていく物語なんだけど、すごく良い映画だと思う。
 ついに直接ジャック・レモンに合う機会はなかったんだけど、実は1度惜しいチャンスがあった。『麻雀放浪記』を取った直後に、広告代理店からある大企業のCMを撮らないかという話があって、そのCMをジャック・レモンでやらないか、という話だった。こっちとしては願ってもない話なので「絶対にやる!」と言っていた。ところがその企業の社長が「ワシはジャック・レモンなんて聞いたことがない」なんて言い出した。それで、その会社の宣伝部かどこかが銀座の街角で100人にアンケートを採ったら、信じがたい事に知っている人が10人くらいしかいなかった。どういう人を捕まえればそういう結果が出るのか教えて欲しいくらいなんだけど、とにかくそのせいでそのCMの話は流れてしまった。
 これは今から20年くらい前の話だから、ジャック・レモンの知名度が日本で10%というのはちょっとあり得ない。実に惜しいことをした。

【Hot Link !!】







放送曲目リスト

Time Title Artist Label Number
11'07" You'd Be So Nice To Come Home To Jack Lemmon Sony Music Special Products A 053989
21'15" There's No Such Things (As the Next Best Thing to Love) Jack Lemmon Sony Music Special Products A 053989
30'09" Button Up Your Overcoat Jack Lemmon Sony Music Special Products A 053989
40'37" Sweet Sue - Just You Jack Lemmon Sony Music Special Products A 053989
48'14" Come in Out Of the Rain Jack Lemmon Sony Music Special Products A 053989
51'14" Days Of Wine And Roses Henry Mancini RCA 07863 66603-2


 Back