SUNTORY SATURDAY WAITING BAR
2001年9月1日の放送

この日の放送曲目リスト/過去の放送内容リスト

「本屋」

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 高校生の頃、本屋でアルバイトをしていた友人に聞いたのですが、本屋さんというのは意外なくらい力仕事なんだそうですね。1冊ずつの重さは大したことがなくても、それが段ボールにまとめられると、大変な重さになるそうで。しかも本屋でアルバイトするくらいの本好きは、基本的に「力持ち」なんて言葉とは縁遠い人間が多いから、さらに大変なんだとか。
 それなら、とにかく力のある人を集めればいいかと言うと、本に関する問い合わせにも答えられなくてはならないので、やっぱりそれなりに本を読む人でないと勤まらない……本屋さんというのも大変なご商売ですね。
 今日は先程から、その「本屋」に関わっていらっしゃるお客様がいらしています。その話し声に、ちょっと聞き耳を立ててみませんか?



image ■ 鴻上尚史さん(劇作家)の

「柳美里さんのサイン本」の話

 聞いた話なんだけど、柳美里さんが本を出した時に、新聞に「ベストセラー」のデータを提供しているような書店を押さえて、そこでサイン会をやったらしい。その時、予定の時間内で200冊売っただけでは満足できず、店の前に移動してサイン会を続けたんだそうな。さらに、編集者に拡声器を買いに行かせて、呼び込みをやらせたら、「ただ今、柳美里さんの『命』のサイン会を…」というありきたり文句が気に入らなくて、自分で呼び込みの文句を書きだしたとか。それが「芥川賞作家の…」とか「未婚の母の出産を…」とか、とにかくスキャンダラスな言葉を並べたドギツイ文句。それでさらに500冊を売ったというから、大したもの。
 それだけじゃなくて、夕方のサイン会の前は、ずっと近所の書店を全部回って、置いてある本に片っ端からサインをしていったらしい。というのは、サインを書いてしまった本は、返本できなくなるから。定休日の本屋ですら、大声で「柳美里先生です!」って言ってシャッターを叩かせて、無理矢理開けてもらってはサインをしていったとか。それで売った、というか、返本不能にした本の数は、実に2000冊。
 その話を聞いて、柳美里さんに「スゴイですね」と言ったら、「だって鴻上さん、私も演劇出身の人間だから、チケットを売る苦労を知っているんです。バイト先の人に買ってもらったり、知り合いに買ってもらったり、とにかく大変だった。それに較べたら、コレぐらいのこと何とも思わない」と言っていた。僕も演劇の人間だけど、最近はチケットを売ることにそこまで苦労はしていないので、その精神は見習わなくてはいけないなと思った。
 でも、一緒にいる編集者は大変だと思う。だって「この編集者、下手なのよ!赤信号で人が止まっているときこそ『芥川賞受賞!』とか『東由多加の死!』とか言わなきゃいけないのに、青信号で言うんだもの!全然わかってないんだから!」なんて言われちゃぁ…

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image ■ 佐野晋さん(有隣堂書店)の

「本屋の工夫」の話

 最近流行の「書店に椅子を置く」という試みを、ウチの東戸塚の店などでも始めた。まあ、立って読まれても座って読まれてもそれほど変わりはないし、どうせだったらお客さんの居心地が良い方がイイのかな、と思って試している。
 以前、三国志をずっと立ち読みしているお客さんがいて、毎日1〜2時間ずつ読んではキチンと棚に戻し、ちゃんと最後まで読み切った。あそこまで行くと立派というか、それくらいだったら椅子を出しても、と思う。
 今は当たり前になってしまったけど、「1つの商品(本)を多面積みして、ワゴンなどで大量に置く」というやり方は、ここ10年くらいで定着した新しい売り方。八百屋さんなんかでもトマトをドッと山積みにして、購買意欲を煽るような売り方を良くやるけど、アレと同じ。だから単価の低いもの、文庫本や新書版がそういう売り方に向いている。
 書店で本をどう並べるか、これはもちろんベストセラーが中心に置かれるんだけど、その周りのコーディネイトこそが書店の腕の見せ所。たとえば、そのベストセラーの本をよく買う購買層というのがあるので、その購買層に合わせた本を置くとか。今なら『ハリー・ポッター』の横には、ファンタジーの本が並べてあったりする。
 最近は「本屋が作ったベストセラー」というのも話題になっている。新潮文庫の『白い犬とワルツを』などがその典型。ある本屋の店員がポップを書いて店頭に並べたら瞬く間に売れて、その情報が新潮社に行って増刷が掛かったと言われている。書店にはとにかく山ほど本が並んでいるので、お客さんはどうしても目移りしてしまう。そういう時に、ちょっと背中を押すようなうまいポップがあると、やっぱり買う人は増える。

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image ■ 松浦弥太郎さん(M&COMPANY. TRAVELING BOOKSELLERS)の

「移動本屋」の話

 「移動本屋」の原点は、子供の頃にお世話になった移動図書館。「アレの本屋版があったら素晴らしいかも」と考えた。それで1年くらい掛けて準備をして、2tトラックの荷台を全部本棚にして、移動本屋として営業を開始した。
 始めてからもう1年になるけど、今では月に1回、大阪と名古屋と京都まで行って店を開いている。我ながら「Traveling」という言葉に酔っているような気もするけど、自分が楽しめる仕事環境を作りたかったので、その点ではうまく行っている。
 大阪や名古屋や京都では1晩しか居られないので、楽しみにしてくれている常連のお客さんが、営業時間の夜8時から深夜1時までの間に、150人くらい来てくれたりする。一緒に本の話をしたり、前回に買った本の感想を教えてくれたり、本屋としてはすごく嬉しい時間を過ごしている。
 僕のトラックには2000冊の本しか乗らない。言葉で2000冊と言うと凄そうに聞こえるけど、棚に入れてみると意外なくらい少ない。だからその2000冊には、自分で読んで、それなりに説明ができる本しか入れていない。そして2000冊くらいが、誰でもどんな本か憶えておける、ちょうど良い範囲だと思う。
 そういった意味では、この移動本屋の棚は、自分の家の本棚という感覚に近い。だからどんな話でも出来るし、それがすごく楽しい。まあ、こっちからセールストークを言うのも嫌なので、よっぽど聞かれないと話さないけど。その上、旅が出来るなんて、これ以上望むことはない。「この移動本屋をやっていて、一番ツライことって何ですか?」って聞かれることがあるけど、ツライことなんて何もない。自分で好きで選んだ道だから、ツライことだって楽しい。

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image ■ 目黒孝二さん(『本の雑誌』編集人)の

「新古書店」の話

 「新古書店」がスゴイ勢いで増えている。これが出版界に大きな波紋を呼んでいる。
 新古書店が増えているのにはそれなりの理由がある。簡単なところで、いわゆるベストセラー文庫、読み捨て文庫と言ってもいいけど、たくさん売れているエンターテイメントの文庫は、みんな処分に困っていた。赤川次郎さんや西村京太郎さんの文庫を面白いからたくさん買う。で、読み終わった本を処分しようと思って既存の古本屋に持っていっても、まったく相手にしてくれない。古本屋の側にしてみれば、その手の本を求めて古本屋に来る客は居ないので、引き取っても商売にならない。だから相手にしないのも当然の話。ところが、新古書店があらわれて、そういう本を引き取る受け皿が出来てしまった。
 そして、その新古書店に買いに行く客も生まれた。この「買いに行く客」というのは、どの本が読みたいと思っているわけではないらしい。「赤川次郎の本が何か読みたいな」と思って、フラッと立ち寄る。で、たまたま置いていれば買う。だったら新刊書店よりもいくらか安い新古書店で構わない、という話になる。その結果、既存の新刊書店は打撃を受け、売り上げが減っている。
 ここで疑問に思うのが、なぜ今までは新刊書店と古本屋が競合しなかったのか、という問題。実は、これまでは新刊書店と古本屋は、まったく正反対の価値観を持っていた。新刊書店で売れているベストセラーは古本屋では安く、逆に哲学書や思想書といった売れない本は、新刊書店では高い値段で売っていた。ところがここに、新刊書店と同じ価値観を持つ新古書店が現れ、商売として成立してしまった。という事は、新古書店の問題は、とりもなおさず「新古書店でも商売になるような商品を、新刊書店が主力商品にしなければいけなかった」という出版界の体質の問題とも言える。出版界が「いま売れるだけでいい」という物を次々に作って主力商品にしてきた出版界の体質、その歪みがここへ来て大きなツケとなって現れている、という見方もある。
 新古書店と似たような問題を抱えているのが、図書館。数年前、東京近郊のある大きな図書館へ取材に行った時に、宮部みゆきさんの新刊の話を聞いたら、その図書館では300人待ちだと教えられた。図書館でもリクエストの多い本は「複本」と言って何冊か仕入れるけど、それにしたって300人。もし全国の図書館に宮部みゆきさんの本が無ければ、机上の計算では今の数十倍も売れているかもしれない。だから中には「図書館も出版界の敵だ」と公言してはばからない人もいる。
 しかし、図書館には別に重要な機能もある。あまり需要が無いために、少部数しか刷られない高い本、それでも残しておきたいと思わせる本は、世の中にたくさんある。そういう本を図書館が仕入れてくれることによって、その出版社がまたそういう本を出せる、という一面がある。だから一概に図書館がおかしいとは言い切れない。
 そういえば世の中にはズル賢いヤツがいるもので、そういう図書館の機能を利用した商法が過去にはあったらしい。高い本を作った上で、全国の読者にダイレクトメールを送り、「買ってくれ」ではなく、「おたくの近くの図書館にリクエストを出して下さい」と呼びかけたんだとか。最近は図書館もリクエストにはかなり応えてくれるので、それで一儲けしようとしたらしい。うまく行ったのか行かなかったのか、今でもそういう商法をやっているヤツが居るのか居ないのか、詳しいことは知らないけど、この話を聞いたときに「頭の良いヤツがいるもんだ」と、つい感心してしまった。

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■ 中尾玲一さん(徳間書店)の

「電子出版」の話

 『電子文庫パブリ』では、それぞれの出版社がそれぞれの形式で電子文庫を用意している。そして通常の書店で本を買うように、読みたい本を探してレジまで持っていけば、どこの出版社のモノかなど気にすることなく、購入することが出来る。
 電子出版が始まる前は、既存の出版物に対する影響が懸念されたけど、実際にやってみたら、むしろ新しい読者が増えたという印象が強い。海外に住んでいる人や、長期療養中で書店に行けない人、今まで書店に行ったことない若い人、そういった人が主に利用していて、元々本が好きな人は今まで通り本屋に行っている。「誰がモニタなんかで読もうと思うんだろう」とも思ったけど、若い人はゲームで慣れているのか、モニタで文章を読むことに抵抗が無いらしい。それで本の面白さを知って、「今度本屋に行ってみます」という若い人もいた。
 それから、老眼で文庫の小さな字が辛くなった人にも、電子文庫は向いている。電子書籍なら文字の大きさは自分である程度変えられるので、高い年齢層の利用者も多い。通勤電車の中で文庫を読もうと思っても老眼でツライ。眼鏡を外す隙間もない。そんな時はPDAに電子書籍を入れておけば、楽に、しかも片手で読むことが出来る。
 さらに、本は本来、視覚障害者が楽しむのは難しいモノだった。ところが電子書籍なら、パソコンで音声に変えて読んでもらうこともできる。手が不自由な人はページを開けなかった。足が不自由な人は本屋に行けなかった。こういう問題も、電子書籍は解決してくれる。
 「所有している」という感覚は紙の本でないと感じにくいけど、「中身を知るだけでいい」と言うなら電子書籍で可能。

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放送曲目リスト

Time Title Artist Label Number
9'19" I'm Gonna Sit Right Down And Wright Myself A Letter Ella Mae Morse Capitol TOCJ-5990
19'26" Too Marvelous For Words Ella Fitzgerald Verve 823 247-2
29'57" Give Me The Simple Life June Christy Capitol CD_ 954498
40'47" Desafinado The Hi-Lo's Reprise WPCR-1134
47'44" I Could Write A Book Peggy Lee Capitol TOCJ-5342


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