■ 川島隆哉さん(「XYLEM」店長)の
「ラッパとサックス」の話
金管楽器の場合、「音を出す」ために一生をかける。ピアノは鍵盤を叩けば音は出るし、ギターも弦を弾けば音が出るけど、ラッパ(トランペット)はそうはいかない。サックスなら、ラッパ屋が皆「扇風機の前においときゃ鳴る楽器」なんて悪口を言うくらいだから、まだ何とかなるかもしれない。でもラッパ屋は、ちゃんと肉体を訓練しなければ音が出ない。
その証拠に、ライブの途中で借金取りが来ると、ラッパ屋は途端に演奏がバラバラになってしまう。それくらい精神的なものがすごく出る。だからこそ魅力的なんだけど。これがサックス奏者だと、何があってもポーカーフェイス。だからサックス奏者とは腹を割って話せない。
サックスは、「A#」とか「Bb」とか、指で押さえる場所によって出る音が全部決まってしまう。ところがラッパは倍音を使っているので、一つの押さえ方で何種類もの音が出る。音を1オクターブ上げる時も、サックスなら「オクターブ・キー」を押さえるだけ、ラッパは根性で上げるしかない。そのせいか、ラッパ屋には「オレがオレが」という人間が多い。人より半歩でも前に出ようとする。その代わり、頭の中はスッカラカンだけど。
楽器を買いに来た客を見ていても、その違いはよく分かる。サックスだと「キーのタッチがコンマ5mmくらい高いんだよ」とか「G#がちょっと甘いな」なんて、やけに細かい。その割に、実際に吹かせてみると情けない音を出すヤツが多かったりして。能書き言う前に練習してこいって。
そんな感じで、とにかくサックスのヤツらは「らいくー(くらい)」で「まらんた(たまらん)」。一見明るそうなヤツでも、その明るさは「NHKアナウンサーの明るさ」と同じで、どこか無理してる。それに対してラッパ屋は、とにかく「一か八かの人生」なヤツばかり。前しか見ていないから、底抜けに明るい。マイルス・デイビスなんかは一見暗そうに見えるけど、絶対に明るいはず。そうじゃなきゃ、あんなに女を替えられない。
ラッパ屋には1つ、どうしようもない宿命があって、自分の音を聴くことは一生ない。ラッパは音が前に出ていく楽器なので、自分の音は一生わからない。中には壁に向かって吹いて、壁で反射した音を聴く人もいるけど、所詮それは反射音にすぎない。ラッパ屋はいつも自分の音を聴きたいと思い、自分の音を想像しながら生きている。そんなラッパ屋の人生は、美しい誤解の上に成り立った人生、と言えるかもしれない。
【Hot Link !!】
■ こだま和文さん(ミュージシャン)の
「ダブとサッチモ」の話
高校生の頃、いろんな人の曲を聴いたけど、一番影響を受けたのはルイ・アームストロングだった。『サッチモ』という本を読んで、一遍で好きになってしまった。
サッチモがやっていたジャズは、インプロビゼーションしていくと言うよりも、歌をトランペットに置き換えて歌っていくという色彩が強い。これは、元をただすとブルースだったからなのではないかと思う。ちなみにブルースは、ジャズ、ロック、R&B、様々な音楽の源流でもある。そしてレゲエという音楽も、カリブ海のジャマイカで生まれた音楽ながら、海を隔てた国のブルースやジャズを吸収しながら育った音楽。
サッチモのジャズ、というよりニューオリンズ・ジャズは、リズムの構造が非常にシンプルで、その後ディキシーランド・ジャズの頃までは、ざっくりしたリズムのノリみたいなものがあった。その雰囲気が、ジャマイカの音楽、特に「スカ」には色濃く残っている。つまり、一度複雑な音楽を通り越して、もう一度それを再構築したら生まれてきたのがレゲエ。そして、そのレゲエから生まれたダブは、さらにもう1段階削ぎ落とされて、リズムが持っている本当のノリ、僕らがグルーブと呼んでいるものを抽出していく音楽へと向かっている。
ダブには、サッチモの持っていた、ジャズでありながらシンプルな何か核になるものと結びつく部分がある。
【Hot Link !!】
■ 矢部正志さん(自衛隊東部方面音楽隊)の
「屋外での演奏」の話
自衛隊の音楽隊は、長野五輪でも開会式と閉会式のファンファーレ、それから国歌の演奏などを担当した。当初は厳しい寒さが予想されていて、最悪の場合は金属製のマウスピースに唇がくっついてしまうと考えられていた。それから楽器のピストンが凍ってしまう可能性もあって、その対策としてウイスキーのポケット瓶が支給されて、凍りそうな場合は潤滑油代わりにピストンにさす事になっていた。
そういったワケで、状況によってはまったく音が出ないこともあり得たので、ファンファーレはテープでも流せるような準備はされていた。さらに演奏できたとしても、寒さのせいで楽器のピッチが下がるのは避けようがないと言われていた。つまり金属は温度が下がると縮んでしまうので、下手をすると音が半音ぐらい低くなってしまう。だから「状況によっては半音上げて吹け」という指令も出ていた。
幸い、本番の時は天気も良くて暖かい日だったので、これらの準備も取り越し苦労で済んだけど、こういう風に野外で楽器を演奏するということは、非常に大変なこと。
長野五輪のような極限状況じゃなくても、野外で演奏していれば途中で雨が降ってくることなんてしょっちゅう。でも、ポツポツと来たときに、そこで「雨天中止」と割り切るか、意地でも続けるかは、指揮者の判断次第。中には「始めたからには最後までやろう!」という気合いの入った指揮者もいて、降り始めた瞬間はちょっと音がひるむんだけど、ずぶ濡れになっていくに従って皆だんだん開き直ってきて、最後には普段よりも良い演奏になったりする。しかも聴いているお客さんも同じで、雨が降っている中で意地になって聴いてくれていたりするので、終わったときの拍手はいつもより大きい。そういう所はライブの良さだと思う。
一応、自衛隊員には違いないので、年に1度の射撃訓練はあるけど、基本的に音楽隊に入れば、音楽の専門家としてずっと仕事をしていくことになる。ただし、いわゆる「起床ラッパ」みたいなのは音楽隊の仕事じゃなくて、「ラッパ手」という人の仕事。ところがこの「ラッパ」というヤツが意外と侮れない。トランペットと違ってピストンがついていないため、音が4〜5つぐらいしか出ないはずなのに、「よくまぁ、これだけいろんなパターンを作ったな〜」といつも感心している。
【Hot Link !!】
■ 日野皓正さん(ミュージシャン)の
「サッチモとマイルス・デイビス」の話
僕はサッチモの事を、自分のお祖父さんだと思っている。ちなみにお父さんはマイルス・デイビス。それくらいこの2人からは影響を受けて、ジャズの遺伝子を受け継いでいると思うし、マイルスに関しては直接のエピソードもたくさんあった。だからこそマイルスが死んだ後に、「生きている間にもっと会って、もっと話をしたかった」と思った。
サッチモの演奏を初めて聴いたのは中学生の時だった。場所は浅草の国際劇場。オヤジが連れていってくれたんだけど、フランキー堺さんのシックス・レモンズが前座だったのをよく覚えている。そしてサッチモが登場して、その演奏を聴いたんだけど、もう鳥肌ものだった。あの太ったオバサンの歌と、トラミー・ヤングはいるし、本当に素晴らしかった。あれからずいぶん歳月が流れたけど、今でもサッチモに対する情熱は失っていない。
この前、って言ってもだいぶ前なんだけど、N.Y.でバスタブに入っていた時も、FMのジャズステーションを掛けっぱなしにしていた。すると「サッチモがデューク・エリントンの曲を演奏したものが発売されました」などとDJが言って、その曲を流れてきたら、もう居ても立ってもいられない。慌てて家を飛び出して、レコード店へ駆け込んだもの。
そういえば、ウッディ・アレンの映画『マンハッタン』を見てたら、映画の中でサッチモの「Stardust」が流れてきた。その瞬間、「オヤジが昔聴いていたSPはコレだ!」となぜか突然思い出して、レコード屋に駆け込んだこともある。
それから、マイルスの家に家に行った時の話なんだけど、僕が「旅に出るときは、必ず2人のカセットを持っていく。1人はサッチモ、もう一人はアナタなんだ」と言ったことがある。するとマイルスは自分の部屋の奥から大きなパネルを持ってきた。そのパネルにはサッチモとマイルスが写っていて、しかもサッチモのサインが入っていたんだけど、そのパネルを見せながら、マイルスが心から得意気な顔をしていたのが微笑ましかった。
マイルスが昔よくやった演出で、最初の内はミュートをはめていて、途中でそのミュートを捨ててテンションを変えるっていうのもあったけど、実はコレ、完全にサッチモの真似。サッチモの古いレコードを聴くと、まったく同じ事をやっているのがわかる。あのマイルスでさえ、それくらいサッチモを尊敬しているということ。
【Hot Link !!】
■ 鈴木円さん(レディースブラス代表)の
「女性のトランペット」の話
中学でブラスバンド部に入ったのが、トランペットとの出会い。私の歯並びが比較的良かった事もあって、「じゃ、とりあえず」みたいな感じでヒョイと渡されたのがトランペットだった。本音を言えばサキソフォンやドラムをやりたかったんだけど、素敵な先輩にそう言われたら、断れるはずもない。で、それ以来、ずっとトランペットとの付き合いが続いている。
トランペットは、最初にとりあえず音が出る人と出ない人がいて、そこで振り落とされる人も多い。幸いにして私の場合は、たまたま口が合ったのか、音が出た。とは言っても、それなりに苦労はしたけど。
トランペットという楽器は、特に肺活量が必要なワケではない。私も別に体が大きいわけでもないし、肺から出る空気と唇の穴のバランスを取って、効率良く息を使えばいい楽器。だから最近、女性でトランペットをやる人が増えているのでは。ビビ・ブラックさんなんか、本当に女優さんみたいにキレイで、その演奏は「聴く」というよりも「観る」という感じ。
中学校や高校のブラスバンド部に至っては、男の子の入部が少なくなってしまい、コンクールで男の子がステージに立つだけで、期待の拍手が起こるほど。でもやっぱり、今の子は女の子の方が元気もバイタリティもあったりして、昔とは違うなと思う。
【Hot Link !!】
放送曲目リスト
| Time |
Title |
Artist |
Label |
Number |
| 8'51" |
The Man I Love |
Frances Wayne |
Epic/Sony |
ESCA 5055 |
| 16'31" |
Everybody Loves My Baby |
Ann - Margret |
BMGジャパン |
BVCJ-7471 |
| 24'26" |
Somebody Loves Me |
Four Freshmen |
Capitol |
TOCJ-5321 |
| 32'48" |
A Kiss To Build A Dream On |
Louis Armstrong |
MCA |
MVCM-273 |
| 46'13" |
Wild Is Love |
Shirley Horn |
Marcury |
PHCE-10029 |
|