■ 楳図かずおさん(漫画家)の
「ホラー漫画」の話
恐怖モノの漫画を描くときに大事なのは、一番最初に不吉なことが起こるシーンで、読者に「何だろう?ちょっとヘンだぞ…」と思わせること。「あったはずの物がない」とか、「締めてあったはずのドアが開いている」とか、「違和感」に対して「何故だろう?」と興味を持ってもらうことで、漫画の世界にのめり込ませる。
漫画がテレビや映画と決定的に違うのは、ページをめくった瞬間、2ページ分の絵が見えてしまうこと。だから見開き2ページを1つの画面と考えなくてはいけない。だからページをめくるとシーンが変わるようしたり、ページの途中でシーンが変わるなら先が気になるように話を持っていったり、いろいろ工夫する。
逆に、漫画とテレビが似ていて、映画とは違う点もあって、それは画面の大きさ。「広大な大草原」を劇場の大きなスクリーンで見れば感動的だけど、漫画やテレビの大きさで見ても、いまいちピンとこない。だから漫画で見開きの大きな絵を描くときは、映画とは逆に小さな物を拡大して迫力を出す。ホラー漫画なら、目をアップにして描き込めば、本当に怖い。実は、人間の顔の中で、直接的に怖いのは「口」で、「喰われる」「噛まれる」など、物理的な怖さがある。でも、別の意味でもっと怖いのは「目」。
「上が明るくて下が暗い」か「上が暗くて下が明るい」かだけでも、怖さは演出できる。前者は、太陽や照明が頭の上にあるような普通の状態なので、ぜんぜん怖くない。だからこそ、後者のような逆の状態にするだけで、違和感を感じて怖くなる。
そういう風に、理屈で説得する「文章」と違って、絵で本能に訴えかけるのが「漫画」。だから外国人が初めて漫画を読んでも、理屈抜きに通じるんだと思う。ホラーを書くときも、そのホラーの絵柄が本能に訴えかけているかどうか、それを大事にしている。
【Hot Link !!】
■ 渡部祐介さん(富士急行)の
「お化け屋敷」の話
富士急ハイランドの隣りに、古いホテルが建っていた。富士急ハイランドができた頃からある古いホテルだったのだが、それをお化け屋敷にしてしまった。
そのお化け屋敷、今年は「戦慄迷宮・運命の扉編」というテーマで営業している。その意味するところは、「扉を開く恐怖」。お化け屋敷で扉を開く、しかも自動ドアじゃなくて、自分で開くというのは、もの凄く怖い。扉の向こうに何かが居るかもしれない、というかお化け屋敷なんだから絶対に居るんだけど、その扉を開くのはかなり勇気がいる。だからそういう扉が10カ所ほどあるんだけど、開く勇気がない人のために「チキン・ウェイ」という逃げ道も用意している。
さらに、「迷宮」というくらいだから、中は迷路になっている。最短距離を歩いても500m。しかもお化け屋敷だから、みんなソロソロと歩くので、ちゃんと出口まで辿り着くには、かなり時間が掛かる。
人を怖がらせる基本は意外性。例えば、後ろでコトンと音がしたら、本能的に人は振り返ってしまう。その瞬間、死角になった後ろからドンと何かが出てきたら、人は必ず驚いてしまう。それから音も重要で、ホラー映画を音なしで見ると、意外と怖くない。ホラー映画お約束のおどろおどろしい効果音も、見てる側は気持ちのどこかで待っている部分がある。
暗闇の中を1人で歩いているとする。足下でコトッと音がしたので、ふと下を見た瞬間、頭上で「ガタン!」と大きな音がしたら、人は絶対に悲鳴を上げてしゃがみ込む。窓ガラスの外でお化けが窓を叩いている。窓ガラスがあるからこっちには来ないな、と油断していると、いきなりガラスが割れてお化けが身を乗り出せば、人は必ずビックリする。遠くにお化けが見える。どんな仕掛けがあるんだろうと思っていると、単にこっちに向かってスゴイ勢いで走ってくるだけ。それでも人は、とりあえず逆方向に逃げてしまう。そんな事がお化け屋敷の基本原理。
【Hot Link !!】
■ 中田秀夫さん(映画監督)の
「ホラー映画」の話
こじつけになってしまうかもしれないけど、小学生の頃に一大オカルト映画ブームがあって、『エクソシスト』『オーメン』『サスペリア』をみんなで見に行ったのが、ホラー映画との出会いだった。
ただ、その後アメリカで流行ったスプラッタ映画なんかはぜんぜん見てなくて。それで『リング』の監督をやる前に、日活の寮の狭い部屋で、毎日2本ずつホラー映画を見続けた。まぁ、言ってみれば筋トレというか、ホラーモードにはいるためのトレーニングみたいなモノなんだけど、それくらい「ホラー」とは縁遠い人間だった。
そんなトレーニングで見たホラー映画の中で、特に感心したのは『悪魔の生け贄』。実際にテキサスで起きたという、チェーンソーを持ち仮面を被った殺人鬼の話なんだけど、「来るぞ来るぞ」と思わせて来ないとか、「なんだ、何もいないじゃないか」と安心させておいて来るとか、その辺の外し方とか間合いが非常にうまい。
日本映画の場合、そういう間合いは、比較的長いというかゆったりとしている場合が多くて、例えば『リング』でも、最初の30分は主役の松嶋奈々子さんが「リング・ビデオ」を一切見ない。これは作るときにもずいぶん議論があったんだけど、「最初にドンと驚かした方が良い」という意見よりも、「最初はとにかく我慢して、お客さんの不安感をゆっくり煽った方が良い」という意見が通った。
ホラー映画を作るときは、直接的なホラー表現も大事なんだけど、それ以上に難しいのが「観客の不安感を常に念頭に置く」こと。『リング』の時は、松嶋さんに「今、5段階のレベル2です」「4に上がりました」「また2に下がりました」なんて言いながら撮影をした。
【Hot Link !!】
■ 風間賢二さん(翻訳家)の
「スティーブン・キング」の話
スティーブン・キングの怖さの基本は、日常生活の中に潜む恐怖。見慣れていた物が、突如、異形の物に変わってしまうというのは、やっぱり怖い。『クレヨンしんちゃん』で、しんちゃんの行動にネネのお母さんが怒って変な事をすると、「いつものママと違う〜」ってネネが怖がるけど、要するにアレ。
『シャイニング』でも、作家志望の主人公が、徐々に狂気に飲み込まれていく。まぁ、映画ではジャック・ニコルソンが演じた時点で、最初からそういう雰囲気が漂っていたけど。その他にも「普通の良きパパが、別人のようになってしまい家族を殺してしまう話」、「車が暴走して人を殺す話」、「今まで親しかった隣人が吸血鬼になってしまう話」など、日常生活が恐怖に変わっていく話がほとんど。
『死の舞踏』というキングの自伝的な本の中で、キングは「TerrorとHorrorとGross Out」と語っている。「Terror」とは、心理的な恐怖。それでも読者が怖がらなければ、「Horror」つまり肉体的な恐怖を使う。それでもダメなら、「Gross Out」嫌悪感をもよおすような事をやるということ。具体的に言うと、「茂みにザワザワと何かがいる」のがTerror。「その茂みから化け物が出てきて襲いかかる」とHorror。そして「その化け物に首を千切られたり、内臓を引きずり出されたり」というのがGross Out。19世紀までのゴースト・ストーリーでは、Terrorが中心だったけど、現代のホラー小説はそこまでやらなければいけないみたい。
普通、プライドが高いというか、上品なホラー作家だと、雰囲気だけで怖がらせて、なかなかそこまではできないモノなんだけど、キングは「自分は節操がないから、インモラルに徹する」と言い切っている。
【Hot Link !!】
■ 一龍齋貞水さん(講談師)の
「怪談噺」の話
夏の講談師の定番と言えば怪談噺。でも、講談師は幽霊の研究家でも何でもなくて、怪談噺でいかに怖がらせるかを商売にしているだけなので、「幽霊と話したことはありますか?」とか「幽霊は見えますか?」なんて聞かれても困ってしまう。というか、そんなものが本当に見えたら、怖くて怪談噺なんかやってられないし。
怪談噺だからと言って、なんでもかんでも小声で話せば良いと言うものではない。最初からそんな調子で喋っていたらお客さんが飽きてしまうので、やっぱりそこは演出で、声の強弱を使い分ける。面白いもので、怪談噺を喋っていて、一瞬、自分で「何をバカなことを喋っているんだろう」と思う事もあるんだけど、雰囲気さえしっかり作れていれば大丈夫。
「世も深々と更け渡り、どこかで聞こえてくる鐘の音。その鐘の音に乗って、ピト、ピト、廊下を裸足で歩くような足音。部屋の襖が音もなくスゥ〜ッと…」って、おい、スゥ〜ッと音がしてんじゃねえかって自分でウケちゃったりするんだけど、聞いている方は案外気が付かないし。
夏に怪談噺、というのは、良く言われる「涼む」ためだけじゃなくて、シチュエーションが怪談向きだったから。障子を外してすだれを掛けて、だんだん日が暮れてくるに従って影が長くなり、薄暗い夕日の中すだれが風に揺れ、外ではガサガサと草木がこすれる音がする。そんな昔の日本の夏の情景が、怪談噺そのものだった。
それと、昔はいい年したオッサンが、子供を集めて怪談噺をして、怖がらせて楽しんでいた、と言われているけど、その実、怪談噺というのは、一種の教育にもなっていた。というのは、お化け屋敷の怖さというのは「ビックリした、驚いた」という怖さなんだけど、怪談噺の怖さは違うから。
例えば四谷怪談、主人公の夫婦は、本当はとても仲の良い夫婦だった。それが周りの良くない人間のせいで、妻は幽霊になってしまうわ、夫は大悪人として後世に名を残してしまうわ、ひどい目に遭ってしまう。これは昔だからという話じゃなくて、今の話にたとえるなら、ブスの奥さんが病気で寝込んで、自分の仕事もないとして、そこでたまたま会社社長の令嬢が自分に惚れてしまった、みたいな話で、社長に「奥さんと別れてウチの娘と一緒になってくれれば、キミに会社も任せるし、箱根の別荘も渡そう」なんて言われたら、一体どうするか。つまり、何が怖いって、自分を取り巻く人間のしがらみとか、時代背景とか、そういうモノが一番怖い。
怪談噺は、幽霊が出るまでのプロセスで怖がらせる。だから人物や世の中を語るときに、非常に説得力がある。
【Hot Link !!】
放送曲目リスト
| Time |
Title |
Artist |
Label |
Number |
| 10'30" |
Errinho A Toa |
Maysa |
EPIC Records |
ESCA 7784 |
| 20'56" |
Rapaz De Bern |
Walter Santos |
Victor |
VICP-5216 |
| 31'58" |
Garoto Paissandu |
Doris Monteiro |
Bomba Records |
BOM 557 |
| 41'00" |
Saiupa |
Bossa Rio |
A&M |
D18Y 4110 |
| 48'22" |
Aos Pes Da Cruz |
Joao Gilberto |
World Pacific |
CDP 7 93891 2 |
|