バイオリンもギターも、その形の原型は、女性の体をイメージしていると思う。ウエストのくびれた感じがたまらない。しかも、ギターじゃ表も裏も平面だけど、バイオリンは曲面で、これがまた、何とも言えないラインをしている。これを磨いていると、かわいくて仕方がない。
あんなにキレイな形をしている楽器は他にないと思う。フルートはパッと見た感じキレイだけど、所詮「棒」だし。造形美という意味では、バイオリンには及ばない。
しかも、普通の楽器はどんどん改良されていって、例えば管楽器なんか特にそうなんだけど、指を押さえるためのシステムは変わっていくのに、バイオリンだけは300年前から何も変わっていない。つまり300年前に、すでに完成形ができてしまっている。これは凄いことだと思う。
そしてバイオリンは、ご存知の通り木で出来ている。ところが、木というモノは、腐らない限り生きていて、常に変形を続ける。だからバイオリンはニカワという柔軟な接着剤を使っていて、あっちが伸びたりこっちが縮んだりしても大丈夫。そのお陰で、何百年経ってもバイオリンは生き続けることができる。
僕が使っているバイオリンも、220歳くらい。そういう楽器を手にしてみると、今まで誰が使ってきたんだろう、どんなバイオリニストがこの楽器と関わってきたんだろう、そんなロマンに駆られる。
バイオリンは、150年経ったときに、そのバイオリンが良い楽器かどうかが分かると言われている。良いバイオリンは、そこからどんどん磨きが掛かっていって、寿命はだいたい300〜400年らしい。名器と言われるストラディバリウスやガルネリ・デルジェスは、おおよそ300年なので、今が全盛期。僕のバイオリンは約200年で、これからどんどん良くなっていく。どんなに良い作りでも、100年のバイオリンじゃ、まだまだ音が若い。年月でしか為し得ないモノが、バイオリンの世界にはある。
逆に、ストラディバリの師匠でアマティという人がいるんだけど、この人のバイオリンは、もうパワーが無くなってきて、オーケストラには向かないとされている。むしろ、小規模なサロンでバッハをやると、本領を発揮するとか。それはそれで、そのバイオリンにしかできない魅力だと思う。
僕は凄くスコッチが好きで、以前にマッカランの50年モノを買ったことがある。1本100万円もしたので、25人で4万円ずつ出し合って、イギリスのオークションで買った。そのマッカランを飲んだとき、なんだかバイオリンのニスのような、アンティークショップの匂いのような、時の流れを感じさせる香りがした。そういう「骨董」としての価値はバイオリンにもあって、バイオリンの値段は高くなっている。
ヨーロッパの貴族は、絵と同じくバイオリンもコレクションしていて、素晴らしいバイオリニストに貸し出していた。その代わり、ウチで必ずサロン・コンサートをしなさい、という約束だったので、ヨーロッパにはサロン音楽の歴史が脈々と続いている。その結果、バイオリンの値段も高くなっている。