若山富三郎さんと勝新太郎さんの兄弟とは、かなり親しくさせてもらっていて、その二人の話を「おこりんぼさびしんぼ」という本にさせてもらった。
勝さんにとって永遠のライバルは、三船敏郎さんでも鶴田浩二さんでもなく、若山さんだった。若山さんにとっても、ライバルは勝さん。だから相手がいい仕事をした時は、もの凄く仲が悪くなった。これは本物の役者ならではの感情で、歌舞伎役者の兄弟にも時々ある。
津川雅彦が勝さんの葬式で、「これからオレ達は、自分が良い芝居をしたと思ったときに、誰に誉めてもらえばいいんだ」って言ったけど、これは本当にその通りだと思った。役者が誉めてもらいたいのは、評論家でも監督でもない。勝新太郎に誉めてもらいたかった。勝さんはあらゆる芸事を見て、どんな芝居でも冷静に批評する人だったから、勝さんに「あそこの芝居は良かったね」と誉めてもらえることが一番嬉しかった。
映画監督としての勝さんは、15分間の演出だったら日本一だと思う。気持ちが持続しなかったり飽きちゃったりするので、生意気を言わせてもらえれば、勝さんの映画は必ずしも良いとは言えないんだけど、凝って押すところの演出は最高。
僕が実際に勝さんの映画に出演したときも、こんなことがあった。僕の役はちょっとグレてる米問屋の若旦那。賭場でスッカラカンに負けて、「女房を置いて行け」という話になってしまう。そこで、「女房には手を付けないでくれ、必ず金を持って帰ってくるから」と趣旨のセリフを、勝さんはアドリブで言えという。しかも、高木均というヤクザ役の俳優に「新伍のセリフが信用できなかったら、その場で斬ってくれ」と言う。この後、夫婦のよりが戻って、二人で旅立っていくという筋なのに、どうするつもりなのかと思ったら「それは何とかなるから」だって。こっちも面倒くさくなって、「高木さん、勝さんには内緒だけど、お願いだから斬って」って言ったんだけど、高木さんはさすがに「じゃあ待ってるぞ、三日だぞ」と言った。後になって、勝さんは「殺してくれって言ったんだって」って笑ってたけど。
そういう現場は、すごく楽しかった。「なんで台本通り覚えて、その手順で動くんだよ、つまんねぇよ」なんて勝さんは言ってたけど、ひょっとして、黒澤さんにそんな意見を言ったとしたら、そりゃ揉めるだろうと思う。黒澤さんは絵コンテの1枚1枚と変わらないように演出する人だったから、才能がどうこうというというより、タイプが合わなかったのだろう。