今まで出演した映画は、全部で約400本。なにしろ、昔の東映は年間150〜200本も映画を撮っていた。その東映映画の、ほぼ1/4に出演していたから、毎日が大変だった。まあ、台本なんか全然読まなかったんだけど。
台本を読まなかったのは、僕だけじゃない。地井武男がよそから来て、一生懸命台本を読んでいるのを見た安岡力也は、梅宮達夫に向かってこういった。「アニキ、新しく入ってきたあの野郎、台本呼んでますゼ。」それを聞いた梅宮、「生意気だなぁ、シメちゃえ」だって。台本読んでシメられたんじゃ堪らないけど、こんな具合に、東映では台本を読まないのが伝統だった。
松方弘樹主演の「真田幸村の陰謀」という映画では、梅宮達夫が真田幸村の兄貴役を演じた。梅宮の出るシーンが一通り撮り終わり、「お疲れ様でした!」なんて声が掛かる中、また梅宮が一言。「なんでオレだけ『幸村!』なんて、偉そうに呼び捨てにしてるの?」それを聞いた監督は大慌て。「だって、幸村の兄の役じゃないですか!」「あぁ、そうだったの、お疲れ様」って言って、帰ったらしい。
でも、実際に監督をやってみると、そういう役者の方が使い易い。下手な小理屈をこね回さず、監督の希望通りの演技をしてくれるから。
僕が映画監督として一番影響を受けたのはマキノ雅弘監督。マキノさんは、芝居作りがうまい。例えば、「次郎長三国志」という映画では、こんなシーンがあった。凶状持ちの身のため、なかなか清水へ帰れない次郎長の一行の中、ついに「お蝶」が死の病に倒れてしまう。お蝶は、大政、小政と、次々に子分達へ別れの言葉を告げていく。しかし、田中春男演じる「法院大五郎」だけが声を掛けてもらえずに、オロオロとしている。最後になって大五郎が「姐はん、わての名前も呼んどくなはれ」と言うと、お蝶は「法院サン、最期に私のお経を唱えてね」と頼む。そこで大五郎、「姐はん、わてはお経を忘れた坊主だす。思い出すまで死なんといておくれやす」と言うのだが、実は最後のこのセリフ、田中春男のアドリブだった。そのセリフに号泣する子分達。その声を表で聞いていた次郎長は、目に涙を浮かべるのだった…。こんな演出は、マキノさんしか出来ない。
アドリブの下りでも分かるように、かなりアバウトな人なので、よくよく見ると切り返しの両カットに同じ人がいる、なんて事もあるけど。