SUNTORY SATURDAY WAITING BAR
2000年9月16日の放送内容

この日の放送曲目リスト/過去の放送内容リスト

「冒険小説」

 第2次世界大戦中、スコットランドからソ連のムルマンスクに向けて物資を運ぶ英国輸送船団と、その護衛にあたる「ユリシーズ号」。厳しい天候とドイツ軍の攻撃により、次第にその数を減らしていく船団。ユリシーズ号の船員たちは、ボロボロになりながらも、戦い続ける。そして…
 これが、冒険小説の中でも不朽の名作と言われる、アリステア・マクリーンの『女王陛下のユリシーズ号』である。北極海の荒々しさとは対照的に、静かに描かれる船員たちの姿。涙なしには読めない名作である。
 今日のAVANTIのテーブル席では、その『ユリシーズ号』でも読み返してきたのか、冒険小説について熱く語っている人がいるようだ。その話し声に、ちょっと聞き耳を立ててみよう。




  • 北上次郎さん(冒険小説評論家)の

    「冒険小説の系譜」の話

     冒険小説は17世紀のイギリスで生まれた。イギリスが世界の海を支配していた時代、いろんな航海士たちが世界の海へ乗り出していき、その中には、遭難したり無人島に漂流した人もいた。そこから生還した人たちの記録が多数出版され、かなりの人気を博していたらしい。例えば、有名な『ロビンソン・クルーソー』も、セルク・アークという船員の遭難実録を元に、その話を小説化したモノ。
     そして19世紀に入り、大衆小説というジャンルが生まれた。その影響で、それまでは記録でしかなかったものが、物語としての体裁を整え、「冒険小説」という娯楽が誕生する。ハガードの『ソロモン王の洞窟』などが当時の代表作だが、秘境で珍しい動物や怪物と戦う貴族の主人公、という設定は、その頃の冒険小説の基本だった。
     さらに戦後になって、アリステア・マクリーンが、庶民が主人公の冒険小説を書き、世界的な人気を得る。『女王陛下のユリシーズ号』では、ユリシーズ号の船員が主人公だったし、『ナバロンの要塞』でも普通の兵士が主人公だった。
     冒険小説とは、ある種の成長小説。遠くへ行って未知の体験をするという事は、限りなく死に近い極限状況に近づくということでもある。その極限状況から生還することによって、勇気、誇り、克己の心、といった、何らかの成長を遂げるのが、冒険小説の一番大事な核の部分。
     冒険小説の舞台としては、19世紀なら未知の秘境、20世紀は戦争が一般的だったが、どちらも時代と伴にリアリティを失っていった。そこで60年代に入って生まれたのが、自然を切り離した冒険小説だった。その典型例が、ディック・フランシスの競馬スリラーシリーズ。一見、イギリスの競馬界を舞台にした普通のサスペンス・スリラーのように見える。しかし、例えば『大穴』という作品の主人公は、己の中に潜む脆弱な心、臆病な自分と戦う。これはマクリーンが『ユリシーズ号』で書いた、冒険小説の一番の核を見事に受け継いだ、典型的な冒険小説と言える。

    【Hot Link !!】

  • 女王陛下のユリシーズ号(「M19981−KOBE」内)
  • 『大穴』(「Pegasus Square 競馬とディック・フランシス」内)



  • 馬場啓一さん(作家)の

    「ジェームス・ボンド」の話

     初めてジェースム・ボンドが紹介された時、解説に「Thriller(スリラー)」と書かれていた。どうやら冒険小説というものは、「ゾクッとさせる物」という意味で、英米では「スリラー」と呼ばれているらしい。エラリー・クイーンやミス・マープルのような本格謎解き物もある一方で、アクション物が冒険小説、という位置付けになっている。「Adventure Fiction」という言葉が使われる時は、「三銃士」みたいな昔の小説を指す事が多いみたい。
     僕の考えでは、冒険小説の要はアクション。そしてアクションということは、「その人がどんな人か」という事が重要になってくる。だから、どんな家に住んでいて、車は何で、洋服はどうして、という話になる。
     高校生の時に読んだジェームス・ボンドの短編集に、こんな一幕があった。フラスコというお酒を入れるケースがある。ボンドはそこへ、まずコーヒーを入れ、それと一緒にウイスキーを入れる。それを持って、ボンドは敵を撃ちに行くのだが、アクション・シーンでこんなディテールを描いた作品は読んだことがなかった。その後、たくさんの冒険小説を読んだけど、あそこまでヌケヌケとやる人はいないし、ボンドの「お遊び」にかなう人はいない。
     冒険小説は、男の絵本。かっこいい車、ロレックスの時計、シャンペンの銘柄、靴のブランド、そういう物が格好良く描かれているのは、素晴らしいことだと思う。

    【Hot Link !!】

  • KENJI'S WEBSITE(ファンサイト・ボンドのファッションなど)
  • 読んだら燃やして <-- 4 your eyes only -->(ファンサイト・映画と原作の比較など)



  • 若松節朗さん(ディレクター)の

    「ホワイトアウト」の話

     「ホワイトアウト」の原作は、600頁もある。これをそのまま映画にすると、約4時間。それを2時間に収めなくてはならなかった。
     そこで、原作者でもある真保裕一さんに脚本を書いてもらったら、アクション・シーンはきっちり残した代わりに、人間ドラマや背景などがバッサリと切られていた。もちろん時間枠の都合で、そうせざるを得なかったのだが、それを読んで僕は真保さんにこう言った。「アナタの原作で一番良いのはココじゃないですか、なんでこのシーンを抜くんですか!」
     というのは、実は僕は、アクション・シーンが下手だから。下手というよりは、あまり好きじゃない。むしろ、人間ドラマをじっくり描きたいタイプ。今までだって、ドンパチものなんてほとんどやってないし。
     この映画を作るにあたって一番問題だったのが、日本にはテロリストという物体が無いという事。それをどうやって描くかが、僕にとっての勝負だった。そこで300人くらいのオーディションを行った。そこでお願いしたのが「身長185cm以上の人にしてくれ」という事。これはトンネルの狭さを演出したかったからなんだけど。
     「ホワイトアウト」は、恋愛も多少は出てくるけど、どちらかというと約束とか友情みないなものが中心の話。でも、恋人たちが見た時に、「富樫さんみたいな人になってよ」とは言って欲しくない。むしろ、「吉岡さんみたいな友達いる?」って言って欲しい。「友達何人持っていますか?友達のために銃を撃てますか?」という事が、一番のテーマ。

    【Hot Link !!】

  • 「WHITEOUT」オフィシャルサイト
  • BATTLE THROUGH(ファンサイト)
  • 奥遠和へようこそ!総合案内板(原作のファンサイト)



  • 松木孝さん(早川書房)の

    「冒険小説の名作」の話

     『冒険スパイ小説ハンドブック』でやった読者の人気投票では、ジャック・ヒギンズの『鷲は舞い降りた』が1位だった。これは典型的な冒険小説で、普通ならイギリス側を主人公にするところを、ドイツ側を主人公にした点がちょっと変わっている。チャーチル誘拐作戦で、主人公が騎士道的な活躍をするのだが、「ドイツだから敵」みたいな書き方をしていないのが良い。
     2位はギャビン・ライアルの『深夜プラス1』。これは1965年の作品で、戦後の冒険小説の流れを作った名作。これと、クリステア・マクリーンの『女王陛下のユリシーズ号』によって、現在の冒険小説の形が出来たと言っても過言ではない。
     『女王陛下のユリシーズ号』では、際だった主人公がいない代わりに、乗組員全員が必死になって戦う姿は、胸を熱くさせる。北極海が舞台で、手すりに触ると手の皮が剥げてしまう等、描写も迫力満点。
     冒険小説も、その好みは人によって様々なので、初めて読むなら、この辺の名作から手に取ってみるのが良いのでは。

    【Hot Link !!】

  • 早川書房/A>
  • アリステア・マクリーン著作リスト(「PIPITTO」内)
  • GAVIN LYALL(「For Kicks」内・著作リスト)
  • Jack Higgins(「あ・ら・かると」内・著作リスト)



  • 逢坂剛さん(作家)の

    「面白い小説の書き方」の話

     私が子供の頃と言えば、昭和20〜30年代。もちろんパソコンもファミコンもないので、冒険と言えば「ターザンごっこ」だったし、もちろん冒険小説の「ターザン」も読んでいた。
     それから、『少年王者』とか『少年ケニヤ』。小松崎茂さんの『大平原児』なんかもドキドキしながら読んだ覚えがある。
     そして何といっても、『怪盗ルパン』。私にとっては、アレが冒険小説の原点と言っても良いかも知れない。
     『ルパン』は、あの時代に泥棒を主人公にしたというのが、かなり斬新だったのだろうと思う。しかも、最初の短編が『アルセーヌ・ルパンの逮捕』。いきなり捕まるところから話が始まる。悪いヤツなんだけど、本当に憎まれてはいけないし、捕まったままだったり、殺されてしまっては話にならない。非常に難しい設定だと思う。
     ちなみに私がいま書いている小説では、悪徳警官が出てくる。コイツは誰が見ても早く死んだ方が良いと思うくらい悪いヤツ。ところが面白いモノで、読者の中には「それが良い」という人がいたりして、そうなると、なかなか殺すわけにも行かない。こんな風に、キャラクターを作ると、作者の思惑通りに行かなくなることもある。
     エンターテイメントな小説は、読者あってのもの。読者の声は気になるし、読者の期待には応えたいと思う。原稿用紙を埋めようとしているだけじゃ、絶対に面白いモノは出来ない。まず、書いている自分が面白いと思っていなければ。

    【Hot Link !!】

  • 大平原児(「Shirouyasu Homepage」内)
  • 怪盗ルパンの館(「徹夜城の多趣味の城」内)




    放送曲目リスト

    Time Title Artist Label Number
    11'41" That Certain Feeling Jo Ann Greer Capitol CDP 7 9679 22
    19'00" You Were Mean't For Me Kei Kobayashi 東芝EMI TOCJ-68046
    27'53" Sweet Talkin' Hannah Matt Manro Capitol 7243 8 55392 20
    41'58" This Time The Dreams On Me June Christy Capitol CDP 7 96329 2
    49'23" I Got Plenty Of Nuffin' Kenny Gardener Capitol CDP 7 9679 22

  •