SUNTORY SATURDAY WAITING BAR
2000年3月4日の放送内容

この日の放送曲目リスト/過去の放送内容リスト


「医者」

 医学の発達によって、人類は様々な病(やまい)の恐怖から解放されてきた。結核はすでに致命的な病気ではないし、人間の体の一部を機械や人口素材で代用することだって可能である。
 それと同時に医学の進歩は、医者が関わる領域を広めてきた。外科から派生したスポーツ医学、「心」という形の無いモノを扱う精神医学、形の無いモノと言えば「声」を専門とする医学などもあるようだ。
 しかしこれらの新しい医学は、社会のニーズがあったからこそ生まれたのである。そこで今日は、その少し変わった専門を持つ医者達の話に聞き耳を立ててみよう。その向こうに、今の世の中が透けて見えるような気がしないだろうか。




  • 米山文明さん(日本音声言語医学会理事)の

    「声の医学」の話

     診療や治療とは別に、大学で「声」が出る仕組みを研究している。
     「声」の基本はモチロン「呼吸」。人間は吐く時の息で音を作る。その時、声帯は閉じていなければならない。閉じた声帯に息がぶつかって、空気が振動することで音が生まれる。そしてその音が口や鼻で共鳴して、声となる。
     よく勘違いされているのだが、声とは、声帯が振動する音ではない。声帯が振動したために空気の断続が起こり、それによって起こる言わばすきま風の音に近い。
     例えば鳥も、声帯が無いのにあれだけ大きな声を出している。あれはノドの軟骨によって気管を狭めて出している声。それから、口笛が鳴る原理もまったく同じ。すぼめた口の小さな隙間を通り抜ける時に空気が振動しているのであって、唇が振動しているわけではない。
     歌手の声が良いのは、声の出し方がうまいから。確かに声帯の質にも個人差はあるが、それよりも技術の差の方が大きい。外国人で言えば、マライア・キャリーの高い声などが分かり易い。日本人なら、美空ひばりの声帯の使い方が抜群にうまかった。
     日本語は声帯で生まれた音をそのまま声にしてしまうケースが多いので、総じて日本人は声の出し方が下手。イタリア語圏やフランス語圏の人の方が、口の中で音を共鳴させる発音が多いので、声の出し方の上手い人が多い。

    【Hot Link !!】

  • 『声と日本人』(米山さんの著書の紹介)
  • ホーミー・ワールド
    (モンゴルの不思議な発声法「ホーミー」に関するサイト)



  • 磯山永次郎さん(歯科医)の

    「マウスガード」の話

     昔、ウチに弱気そうな大学生が患者としてやってきた。治療に来てもいつもビクビクしていて、本当に弱々しい感じの患者だった。
     その彼が、ある時「大会があるので、1ヶ月ほど治療を休みたい」と言い出した。それで何をやっているのかと聞いてみたら、何とボクシングだと言う。まあボクシングの選手はゴツイ体をしているわけでもないので、見た目では分かりづらいのだが、それにしてもあの時は驚いた。ちなみに彼は、大学を卒業した後プロになって、世界タイトルマッチまで行ったんだけど。
     そして、彼の歯を診ていた行き掛かり上、僕が彼のマウスガード(俗称マウスピース)を作るようになった。
     歯医者の作るマウスガードというのは、完全なオーダーメイド。型を取って作るので、噛み合わせがズレるような事はない。ところが市販のマウスガードは、顎がズレた状態で噛み合ってしまったりして、調子が悪くなったりするケースもある。そのボクサーの彼も、僕がちゃんとしたマウスガードを作る前は、試合が終わると顎の関節が痛くなると言っていた。今でもコンタクトスポーツをする選手の多くが、市販のマウスガードをお湯で暖めて、自分の口に合わせて使っているけど、なるべく歯医者で作ってもらった方が良い。
     『明日ジョー』で、ボクサーが殴られてマウスガードが飛ぶシーンがあったけど、歯科医の作ったマウスガードなら、あんな事はあり得ない。あんな事があったら、歯医者の恥。

  • マウスガードについて(「ハヤシ歯科クリニックHP」内)
  • マウスガード製作ネットワーク
    (「関東ラグビーフットボール協会HP」内)



  • 香山リカさん(精神科医)の

    「精神科医の素質」の話

     大学の2〜3年生の頃は、けっこう精神科というのも面白そうに見えたりして、精神科医になろうかと考える人も多い。だけどやっぱり、内科や外科が医学部の花形、みたいな雰囲気があったり、内科の勉強がけっこう大変で、それを終えた上で改めて精神科の勉強をやるのにもめげちゃったりして、実際に精神科医になるまでにはいくつものハードルがある。
     私もある時期、「医者はやっぱりメスを持ってこそ医者なんじゃないか」と考えたり、心電図とかいろんな機械を使ってる姿に憧れたりして、かなりぐらついた時期があった。
     でも残念ながら、私は手先が起用じゃなかったし、反射神経もあまり良くなかった。アメリカのTVドラマ『ER』なんかを見ても、パッと判断してパッと動けるのが外科医。同僚の外科医に「あんなに緊急の場面で、例えばドッと血が流れているような時にも、よく外科医ってパッと動けるね」と聞いてみたら、「そりゃ簡単だよ。血が出ているんなら、手でふさげば良いんだよ」だって。その手がパッと出る事が、外科医としての素質みたい。
     逆に彼らに取ってみれば、私たち精神科医のようにジッと患者の話を聞いていられる事の方が不思議らしい。そういえば精神科医には、頼りなさげな、自分に自信のなさそうな人が多い。そういう人の方が人の悩みを聞き易いという意味では、それが精神科医の素質なのかも。

    【Hot Link !!】

  • ストレス(香山さんのメールマガジンや読み物)



  • 林盈六さん(日本相撲協会診療所医師)の

    「双葉山」の話

     相撲取りの体のつくりと普通の人の体のつくりは、根本的に違う。
     まず相撲取りは、みんな骨太。骨粗鬆症だけには縁がない。実はコレは普通の人にも多少関係のある話で、女性でも太っている人は骨密度が高く、痩せている人ほど骨粗鬆症になりやすい。そういう女性は、歳を取ってたら背が縮む。50を過ぎたら5cmは縮む。気をつけた方が良い。
     相撲取りの話に戻すと、出世する人は骨格が良い。筋肉をいくら鍛えても、骨が細ければ筋肉の付けようがない。骨盤も大きい方が良い。
     いままでいろんな人を診てきたけど、一番印象に残っているのは、「古今の名力士」と言われた双葉山。血圧が高かったので、稽古が終わる頃を見計らって毎日血圧を測りに行った時期があった。ところが、血圧を測り終わっても、「ありがとう」としか言わない。その前にも後にも、「どれくらいですか?」と聞かなかった人は居ないのに。あの人は「体のことは医者に任せたんだから、余計なことを聞く必要はない」という信念の持ち主だった。寡黙だったけど、ああいう人こそ本当に尊敬に値する。
     双葉山が亡くなった時は東大病院に入院していたのだが、偶然にも私が当直だった。亡くなる前の晩に話をしたら、巡業中の相撲取りの心配ばかりしていた。最後まで相撲一筋の人だった。

    【Hot Link !!】

  • 双葉山 定次(「宇佐市役所HP」内)
  • 大相撲ホームページ



  • 井上修二さん(日本肥満学会理事長)の

    「肥満のメカニズム」の話

     太り易さはある程度遺伝の影響がある。
     残念ながら、大部分の肥満に関する遺伝子はまだ見つかっていない。しかし、ある種の遺伝子が肥満に関係していることは分かっている。
     最初の肥満遺伝子は、マウスの実験から発見された。ある二つの遺伝子がくっつくと肥満になるということがマウスの実験で分かり、さらに調べてみると人間にも同じ遺伝子が存在していた。その遺伝子が作り出すダンパクをレプチンと言い、食欲を押さえて消費エネルギーを増やす役割を持っている。だからこのレプチンを作り出す遺伝子に異常が起こると、肥満になりやすいという事が分かっている。
     だが、食欲を押さえる仕組みがコレで全てかと言うと、そんな事はない。血中のブドウ糖濃度だったり、グルカゴンと言うホルモンだったり、食欲というのは生命維持活動において非常に重要な仕組みなので、十重二十重の複雑なメカニズムになっている。だから一つのメカニズムを押さえただけでは、食欲を押さえる事はできない。たとえ押さえられたとしても、せいぜい2〜3ヶ月。いくら痩せようとしても、体は抵抗する。極端なダイエットをすれば、そのぶん体の抵抗も大きく、リバウンドという現象となって跳ね返ってくる。
     そして残念ながら、人間の体には太りすぎたときに痩せようとするメカニズムはない。これは人類400万年の歴史で、飢えに対抗しなければならなかった時期がそのほとんどだから。人類にとって肥満が問題になりだして、せいぜい4〜50年。だから肥満に対しては、大脳皮質を使って理性で対抗するしかない。

    【Hot Link !!】

  • 日本肥満学会(日経メディカルHP)
  • インターネット成人病教室(糖尿病や肥満症について)




    放送曲目リスト

    Time Title Artist Label Number
    9'22" You're So Right For Me Peggy Lee Capitol CDP7243 8 56056 28
    18'54" There's No One But You The Four Freshmem Capitol 7243 4 95002 28
    32'14" Got Have Me Go With Me Debbie Reynolds Universal Victor MVCJ-19233
    41'09" I've Grown Accustomed To Her Face Dean Martin Capitol CDP7243 8 37571 21
    47'56" It's Too Good To Talk About Now Blossom Dearie verve POCJ-2653

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