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「タンゴ」
1900年頃、アルゼンチンの首都・ブエノスアイレスで生まれた情熱的な音楽とダンス――その名は『タンゴ』。世界中からの移民で人種や民族のるつぼとなった街から、その音楽は生まれた。1910年代には、あまりにセクシーなダンスであるという理由で、ヨーロッパでタンゴ禁止令が出されたコトもある。それでも、人々はタンゴで踊ることを決して止めようとはしなかった。 そしてアストル・ピアソラの登場により、タンゴは音楽の世界でも重要な地位を占めるようになる。ヨーヨーマの演奏でお馴染みのあの曲も、ピアソラの曲だと言えば、その理由が少しはお分かりいただけるのではないだろうか。 今日はAVANTIのテーブル席に、バンドネオン奏者の門奈紀生さんが座っている。上手く行けばその演奏が聴けるかも知れない。ちょっとその話し声に、耳を傾けてみよう。
父が持っていたレコードの中に、タンゴのレコードがあった。子供の時にそれを聴いて、「何だ、この熱い感情は!」って衝撃を受けた。それが、生まれて初めてタンゴに接した瞬間。それ以来、早くタンゴを理解できる年齢になりたいと思っていた。そして宝塚に入り、ショーのナンバーとしてタンゴで踊るようになった頃には、家でもレコードを聴いて一人で酔いしれるようになっていた。ちょうど今、『夜明けの序曲』という作品をやっていて、その一場面でピアソラの曲をかけてタンゴを踊っている。ジャズなどの他のダンスというのは自分で踊ればいいけど、タンゴは必ずカップルで踊る。だからタンゴだけは客に見せるモノではなく、自分たちが酔いしれるモノ、といういう人もいる。実際、舞台で踊っていても、自分たちの世界に没頭してしまったときの方が、お客様の反応もイイ。
ピアソラはかなりお茶目な人で、イタズラばかりしていたらしい。楽屋で靴を隠すなんて日常茶飯事。若い頃はピアノの鍵盤88個全てに火薬を仕掛けて、鍵盤を押す度に爆発音が出る、なんてとんでもないイタズラもやった。それからフェデリコという有名な奏者と一緒の時に、フェデリコが地震が大嫌いだということを聞きつけて、舞台の下に人を潜り込ませ、下からホウキの柄で揺らしてビックリさせる、みたいなコトもしていた。音楽的には、ピアソラはタンゴに初めてエレキギターを持ち込んだ人であり、さらに、原曲を解体して再構築するというジャズの発想を、タンゴにもたらした人でもある。始めの頃は世間に全く受け入れられなかったにも関わらず、それでも自分の音楽を貫き通した、固い意志と情熱の人でもあった。
タンゴに欠かせない「バンドネオン」という楽器が生まれたのは、タンゴが生まれるずっと前。しかも場所はドイツだった。でも、ヨーロッパ系のコンチネンタル・タンゴで使うのはアコーディオンで、バンドネオンが花形なのはアルゼンチン・タンゴの方。ちょっと聞くと逆の様だが、その経緯は1900年頃に遡る。当時、ドイツから大量の移民がアルゼンチンへ移った時に、移民を運んだ船乗りたちが、バンドネオンをブエノスアイレスに流行らせた。そしてちょうどその頃が、アルゼンチンでタンゴが生まれた時期だったので、アルゼンチン・タンゴではバンドネオンが使われた。そのタンゴがヨーロッパに伝わり、アコーディオンを使用したりして生まれたのが、ヨーロッパ風のコンチネンタル・タンゴ。ドイツで教会音楽に使われていた時は「天使の歌声」と呼ばれていたのに、アルゼンチンでは「小悪魔の音色」と表現される、バンドネオン。正反対の様だけど、どちらも魅力的という意味は同じ。
タンゴというのは、本来ソフトな踊り。真っ白い塀に赤や黒でちょっと描くような、メリハリで魅せるダンス。ところが色の付いたところが目立つだけに、全速力のダンスだと誤解している人が多い。昔は、日本人全員が勘違いをしていたほど。だけど昭和28年に、世界チャンピオンのスクリブナーという先生が来た時に、日本人は初めて本物のタンゴを生で見るコトができた。スクリブナーの踊りは、柔らかく踊っているにも関わらず、そのスピード感たるやもの凄く、観衆は息をのんで見つめ続けた。そして曲が終わっても会場は静まり返り、一瞬、間が空いてから、会場は割れんばかりの拍手に包まれた。こうして、日本人はそれまでのタンゴが本当のタンゴではないことを知った。私もその場に居たけれど、鳥肌が立つのを押さえられなかった。
アルゼンチン料理と言えばお肉。この間ちょっと小耳に挟んだ話では、アルゼンチン人が1年間に消費する肉の量は、56kgにも上るのだとか。食料に関しては豊かな国なので、アルゼンチンで餓死する人はまずいない。面白い法律もあって、旅をしている最中に、食料に困ったとする。あたりを見渡しても何もなく、ただ、牧草地に羊が見えるだけ。そんな時は、その羊を焼いて食べてしまっても、アルゼンチンでは無罪。そのかわり、羊の皮だけはそこのフェンスに掛けておきなさい、ということになっている。ちなみに皮も持って帰ると罪になる。街でも、無一文でお店に入り、一番安いものと水だけで食事をして食べても無罪。それで警察を呼んでも来てくれない。でも、それなりのモノとワインを注文すると、捕まってしまう。
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