SUNTORY SATURDAY WAITING BAR
1997年12月20日の放送内容

この日の放送曲目リスト/過去の放送内容リスト

「クリスマス・ドラマ・スペシャル」



出演

斉木洋子さん(DJ)
東海林のり子さん(テレビリポーター)
永井美奈子さん(アナウンサー)

郁男

ジェイク
紳士

聖なる夜、クリスマス・イブ。街は光で溢れ、子供たちはプレゼントにはしゃぎ、恋人たちは肩を寄せ合う。世界が幸せに包まれる夜である。しかし残念ながらというべきか、ここアヴァンティは「イブは家族とお過ごし下さい」とのジェイクの計らいで、毎年12月24日はお休みと決まっている。そこで今日は、1997年のクリスマス・イブを直前に控えた土曜日に、アヴァンティで起こった出来事をお話ししよう。


(エピソード1)

ジェイク「そんなこと言って、洋子ちゃん、彼のこと、好きなんじゃないのぉ?」
洋子  「そうそう、きっかけを間違わないでね。」

 TFMの人気DJ・斉木洋子さんが、アヴァンティのカウンターでジェイクに何やらお願いしている。どうやら意中の男性に告白してもらうため、ジェイクに一芝居打ってもらおうとしているらしい。
 洋子さんの意中の男性は、洋子さんが通うボイストレーニング教室の先生、郁男クン。郁男クンは教室に通っているある女性に恋をしているらしいと、生徒の間でもっぱらの噂になっている。そしてその女性とは、自分なのではないかと洋子さんは睨んでいるのだ。

 そこで洋子さんがジェイクにお願いしたのは、こんな筋書き。
 郁男クンと洋子さんが結婚の話をしている。「でも洋子さん、結婚しない主義なんでしょ。」「そんなことないわよ。」「嘘だ。する気なんかない癖に。」「あんたとだけは、ね。」ここでジェイク「そんなこと言って、洋子ちゃん、彼のこと、好きなんじゃないのぉ?」「何言ってんのよ、もう。」さらにジェイク「でも、最近、洋子ちゃん、綺麗になったよねぇ。」
 洋子さんの筋書きでは、これで郁男クンも洋子さんの気持ちに気付くはず。うまく告白してもらえたら、用意したネクタイをプレゼントして、二人で幸せなクリスマスを過ごすつもりようだ。

ジェイクとの打ち合わせが終わった頃、その郁男クンがアヴァンティに現れた。

郁男  「ごめんなさい、お待たせしちゃって。」
洋子  「ううん、平気。郁男クン、何飲む?」
郁男  「あ、じゃあ、ビール。」
ジェイク「綺麗になったねぇ〜」(小声)
郁男  「は?」
ジェイク「え、あ、練習です。」
郁男  「え、なんですか?あの…ビールを…」
ジェイク「あ、はい。かしこまりました。」
郁男  「変わったバーテンさんだね。」
洋子  「あはは、そうね。」
郁男  「よく来るの、ここ?洋子さんの周りは皆面白い人ばかりなんだな。」
洋子  「失礼しちゃうわね。」
ジェイク「でも、最近、洋子ちゃん、華麗になったねぇ〜」(大声)

静まり返る店内。焦る洋子さん。

洋子  「な…」
ジェイク「う、しまった。きっかけ間違えました。」
郁男  「何ですか?」
ジェイク「いえ。」
洋子  「いや、何でもないの。なんか今日ジェイクさん、おかしいみたい。ねえ、ちょっとテーブル席移っていい?」

郁男クンを先にテーブル席にやって、洋子さんはジェイクと小声で話し込む。

洋子  「何やってんのよ、もう。」
ジェイク「め、面目ねぇ。」
洋子「面目ねぇじゃないわよ、全く。何であんなに大声なのよ。てんで不自然じゃない。しかも何よ、『洋子ちゃん、華麗になったねぇ』って。あたしはカレーライスになるのかい?ちゃんとしてよ、もう。」
ジェイク「は、はい。次こそは。」
洋子  「宜しくね。」

洋子さんもテーブル席に移り、郁男クンと話し始める。

洋子  「どうしたのよ、切ない顔して。」
郁男  「え、ああ。」
洋子  「好きな人ができたの?チラっと人に聞いたけど」
郁男  「え、ああ。」
洋子  「ボイストレーニングの生徒さんって本当?」
郁男  「え、ああ。」
洋子  「喋るの仕事にしている人って本当?」
郁男  「え、ああ。」
洋子  「そ〜う。で?白状しなさいよ。相手は…アヴァンティの常連?」
郁男  「ああ…」
洋子  「あーそう!?確か、ここアヴァンティを郁男クンに紹介したの、あたしだったわよねぇ。んもう、ふふ。」

どうやら洋子さんは、郁男クンが好きな女性は自分に間違いないと確信したようだ。

洋子  「それでそれで?どうなの、自分から告白する気はないの?」
郁男  「え、うん、別に怖じ気付いてはいないんだけどね。」
洋子  「うんうん、じゃすれば。相手は待ってるかもよ。というか待ってるわよ、きっと。」
郁男  「一緒に飲みに行ったりもしてるし、仲もいいから、無碍に断られることはないと思うんだけど。」
洋子  「うんうん、何がネックになっているのよ」
郁男  「結婚…」
洋子  「やっぱり」
郁男  「え?」
洋子  「相手が結婚より仕事を選びたいって言いそうなのね。そんなことないって。あたしだったら全然…」
郁男  「違うんだよ。うちの母親がね、そういう仕事をしている人はちょっとって。」
洋子  「え、何、それ。ちょっと待って。それで引き下がっちゃうの。」
郁男  「…!え。」
洋子  「いや、ちょっと待ってよ。相手のこと好きなら、どうだっていいじゃない、母親なんて。幻滅だよ。何よ、それ。お母ちゃまがダメって言うから引き下がるの?あたしは願い下げですよ。まっぴらごめんだね。」
郁男  「そうだな、そうだよな。」
洋子  「え。」
郁男  「そうだよ。親なんか関係ないよな」
洋子  「そうだよ。」
郁男  「よし、告白しよう!」
洋子  「え。お。そうか。よし、いいぞ、急展開!行けっ、受けて立とう!」
郁男  「おおっ、行って来る!」
洋子  「…!え?」

驚く洋子さん。立ち上がる郁男クン。

郁男  「ありがとう。元気が出たよ。そうだよな。洋子さんの言う通りだ。俺、彼女にプロポーズしてくるよ。」
洋子  「彼女?ってことは。」
郁男  「ありがとう。ジェイクさん、ごちそうさま。」
ジェイク「ありがとうございました。」
洋子  「…あの…、郁男クン?」
郁男  「え?」
洋子  「これ、あげる。ネクタイ。素敵な柄だったから、つい買っちゃったけど、あげる相手がいなくてさ、だから。」
郁男  「そう、ありがとう。それじゃ。何しろ目が覚めたよ。洋子さん、ありがとう。また。」
洋子  「うん。じゃ〜ね〜。」

郁男クンは店を飛び出し、洋子さんは一人店に残される。

洋子  「は〜あ。世界一の早合点女だね、こりゃ。」
ジェイク「あの。私、またきっかけ間違えましたか?」
洋子  「ううん。二つ目のセリフは出番なし。ごめんね、ジェイクさん。」
ジェイク「でも、洋子ちゃん、本当は…」
洋子  「でも、あれね。恋の早合点って、宝くじみたいでいいわね。結果が出るまで、とりあえずはワクワクしていられる。」
ジェイク「でも、洋子ちゃん、本当は好きなんじゃないのぉ?」
洋子  「いいんだって、もう練習しなくて。」
ジェイク「え。だって。」
洋子  「あなた聞いてないの?人の大失恋現場に立ち会っていながら。んもう。いいから、おかわり作ってよ。」
ジェイク「え、またきっかけ、外しましたか?」
洋子  「いいからおかわりだってば。」

 仕事で恋愛の悩みに答える機会も多い斉木洋子さん。その都度リスナーを励ましている彼女だが、彼女を励ましてくれる人はどこにいるのだろう。ジェイクが差し出したグラスを一気に飲み干す彼女は、たった今失恋したとは思えないくらいカラッと振る舞っている。ともあれ、ここにも一つの、メリークリスマス。




(エピソード2)

 洋子さんがアヴァンティを出てからしばらくして、郁男クンがアバンティに戻ってきた。今度はテレビリポーターの東海林のり子さんと一緒である。恋人、にしてはどうも年が離れすぎている。と思ったら、どうやらこの二人、親子のようだ。

東海林 「息子からの突然の留守番電話。『大事な話があるから』とたった一言。慌てて駆けつけた私ですが、一体、何を言い出すのかを考えると、緊張が隠し切れません。ここ、元麻布のイタリアンレストラン・アヴァンティのウェイティング・バーより、東海林がお伝えします。」
郁男  「伝えなくていいから、誰にも。なんでその口調なのよ。息子との会話を誰に中継するつもりなの。」

 どうやら東海林さんは、普段もあの独特の口調で話すようだ。果たして息子の郁男クンも、母親の突撃リポートに、丸裸にされてしまうのだろうか。

東海林 「それでは核心に迫ってみたいと思います。一体、あなた郁男さんは、お母さんに何を言おうと思ってるんですか。」
郁男  「郁男さんって…。いや、ちょっとね。結婚したいな、と思っている人がいてね。」
東海林 「おおっ。聞きましたか、皆さん。朗報です。東海林もこう見えても人の親、素直に喜びを表現したいと思います。東海林、小躍り。」
郁男  「喜んでる言い方じゃないじゃないか。いや、まあ、俺もね、仕事の方も順調だし、結婚を考えてもいい頃だなと思ってね。」
東海林 「母親の仕事を見て育ち、母親が声に気を配る様子を見てボイストレーナーという仕事を選んだ東海林郁男。ついに伴侶を迎えるときが来た模様です。」
郁男  「ただね、相手を母さんが気に入るかどうかってのがちょっと気になるんだ。」
東海林 「何を臆することがありましょう。東海林は手放しでお祝いします。あなたが選んだ相手なら、きっと間違いはないはずだから。」
郁男  「いや、ちゃんとした人なんだよ。仕事もしてるし。うちの生徒さんなんだけどね。」
東海林 「東海林は素直に喜ぶことでしょう。職業に貴賎はありません。あなたの愛した人ならば。」
郁男  「ああ、そう。なら良いんだけど。」
東海林 「プレゼント、開けてもよろしゅうございますか?」
郁男  「いや、後にしてよ。恥ずかしいじゃない。」
東海林 「え〜。開けさせとくれよ〜。」
郁男  「何、砕けた口調になってんの、急に。」
東海林 「いや、くたびれちゃって。それより、いいだろ、開けても。」
郁男  「いや、後にしてって。カードも書いたんだ。本当はイブに渡したかったけど、年末年始は特番だ、なんだで、毎年忙しいでしょう。それに休みだとしても、父さんとゆっくりしたいだろうと思って。ちょっと早いけど…いいから後にしてって。」
東海林 「そうかい。じゃ。…でも、あれだね。クリスマスになると思い出しちゃうねぇ。」
郁男  「サンタ村をリポートしたときの話?」
東海林 「ああ、十年くらい前かな。ああいう出来事で、自分の仕事を因果な商売と思いたくないんだけどねぇ。」

 サンタ村の話とは、こうである。かつて東海林さんがリポートに行ったある村では、十五歳未満の子供に「サンタはいない」などと言うと、条例により罰せられるというのだ。村の人みんなで子供たちの夢を守るなんて、なんとロマンや優しさに溢れた話なんだろう。東海林さんは感動にふるえながら、しかし冷静にリポートした。ところが…


郁男  「やらせだった。」
東海林 「…そう。ラジオ局のアナウンサーになって、十三年経って独立してフリーになってから、いろんな現場にリポートに行ったじゃない。」
郁男  「うん。」
東海林 「あんたの大学合格の知らせを受けた直後とか、騒いで慶びたいぐらい嬉しい時も、真面目なリポートだと、感情を押し殺して中継しなくちゃならない。でも、事実を伝えるのが仕事だと思ってたから、事実を皆さんの耳や目に届けることが自分の仕事の本質だと思っていたからやってこれたんだけど、スタッフが捏造した嘘を報じた自分がいやでいやで仕方なくてね。」
郁男  「でも、それは結局、放送されなかったんでしょ。」
東海林 「そうなんだけど。そのVTRを流さないでくれって頼めなかった自分が、悔しくてね。」
郁男  「仕方ないよ。世話になったプロデューサーなんだろ。」
東海林 「正義感ぶってそんな偉そうなことを言い出したら仕事が切れるかもしてない、そんなことを考えちゃったあのときの自分が今でも大嫌いでね。対談番組では、嫌なゲスト相手でも楽しそうに振る舞わなきゃいけない。自分の表と裏を綺麗に使い分けなきゃいけない。嘘の表情をカメラの前に出して。」
郁男  「…」
東海林 「だからね。構わないよ、郁男の結婚相手。アナウンサーとか、元局アナとかでさえなけりゃね。嘘の言葉や嘘の表情を使うことになんの抵抗も持たない人たち以外なら、どんな人だって構わない。幸せにおなり。応援するよ。」
郁男  「そう…ありがとう。」
東海林 「あ、母さん、そろそろ仕事だ。…?何、それ。」
郁男  「え。ああ、プレゼント。うちの生徒さんから貰ったんだ。ネクタイだって。面白い人でね。男モノでも、お店で見て気に入ると買っちゃうんだって。あげる相手がいないからって、俺にくれた。」
東海林 「それをくれた人ってのは、あんたの結婚したい相手とは別の人なのかい?」
郁男  「ああ。」
東海林 「あ〜あ。」
郁男  「何。」
東海林 「気があるんだよ、あんたに。ネクタイだろ。あんたにクビったけってことなんじゃないの?」
郁男  「…!?」
東海林 「じゃ、あたし、行くね。これ、どうもありがとう。あ、そうそう。で、肝心なあんたのつきあってる人ってのは…」
郁男  「え、ああ。今度話すよ。今日はもう。うん。」
東海林 「そうかい。じゃ、近いうちに。」
郁男  「ああ。気を付けて。」
東海林 「あいよ。」
ジェイク「ありがとうございました。」

 店を出た東海林さんは、郁男クンからのプレゼントを開けた。するとそれは、一足の靴と、一枚のクリスマスカードだった。
「メリークリスマス。母さん。外反拇指がどうこうって言ってたから、足を圧迫しないって評判の靴を探して買いました。冬になるとそとの中継は大変だろうけど、体に気を付けて。」

東海林 「まぁ。…ありがと。」


ジェイク「おつくりしましょうか」
郁男  「あ。はい、お願いします。…え、ちょっと待ってよ。ネクタイって…。そうかな。いや…でも…」

》洋子  「え、何、それ。ちょっと待って。それで引き下がっちゃうの。」
》郁男  「…!え。」
》洋子  「いや、ちょっと待ってよ。相手のこと好きなら、どうだっていいじゃない、母親なんて。幻滅だよ。何よ、それ。お母ちゃまがダメって言うから引き下がるの?あたしは願い下げですよ。まっぴらごめんだね。」
》郁男  「そうだな、そうだよな。」
》洋子  「え。」
》郁男  「そうだよ。親なんか関係ないよな」
》洋子  「そうだよ。」
》郁男  「よし、告白しよう!」
》洋子  「え。お。そうか。よし、いいぞ、急展開!行けっ、受けて立とう!」
》郁男  「おおっ、行って来る!」
》洋子  「…!え?」

郁男  「え。でも…。洋子さん…。あちゃ〜!」

ようやく自分の鈍感さに気付いた郁男クン。こんな調子で、意中の女性とうまく行くのだろうか。ともあれ、ここにも一つのメリークリスマス。




(エピソード3)

ジェイク「いらっしゃいませ。」
美奈子 「遅くなってごめんなさい、郁男先生。」
郁男  「あ。美奈さん。こっちこっち。」

 元日本テレビ局アナ、現在はフリーアナウンサーの永井美奈子さんがアヴァンティに現れた。どうやら待ち合わせの相手は郁男クンのようである。
 二人の縁は、ボイストレーニング教室。教室では郁男クンが先生、美奈子さんが生徒という立場のため、多少距離を置いた口の聞き方をしているのだが、どうやら二人ともその事に、少なからず不満を持っている。
 そして今日は、美奈子さんが郁男クンにクリスマスプレゼントを渡すため、アヴァンティで待ち合わせをしていたようである。これは、「クリスマス・プレゼントをくれ〜っ!」と、郁男クンが美奈子さんを拝み倒して約束させたモノ。そこで、美奈子さんが選んだのは留守番電話だった。いまどき携帯電話も持っていない郁男クンと、少しでも連絡が取りやすいようにと、美奈子さんが悩みに悩んで決めたプレゼントだ。さらに美奈子さんはプレゼントの交換条件に、これまでの「美奈さん」という呼び方から、「美奈ちゃん」と呼んでもらうことにした。
 ここまでいい雰囲気になっているのに、鈍感な郁男クンは、美奈子さんの気持ちにまだ気付かない…

美奈子 「…あ、そうそう。この間ね、有り難いことにファンの方からお手紙貰ったんだけど、永井美奈子クイズっていうのが入っててね。」
郁男  「何それ。」
美奈子 「要はあたしに関するクイズなんだけど、これの点数次第で、永井さんとの相性が判る優れモノですって。これがね、良くできてるのよ。クイズの問題の内容によっては点数が違っててね、で、合計点数で結婚相手にピッタリっていうのから、接触を持たない方がいいでしょうって人まで分類されるの。周りのスタッフの人とやってみたんだけど、本当にピッタリでね。」
郁男  「え。それ相手に結果言ったの?」
美奈子 「ううん。点数だけ。で、あとで自分で調べてみると、本当に好きなスタッフとは相性が割といいの。でも、恋愛対象っていうボーダーライン越える人はなかなかいないの。郁男先生もやってみていい?」
郁男  「え。いいけど。」
美奈子 「じゃ、いくわよ。永井美奈子テストです。第一問、私、永井美奈子の出身校は成城大学である。マルかバツか?」
郁男  「マル。」
美奈子 「第二問。私、永井美奈子は、もし結婚するとしたら、どんな夫婦関係を望んでいるでしょうか。」
郁男  「え〜。ああ、ジョン&ヨーコのような夫婦。」
美奈子 「おっ、その理由は?」
郁男  「だから、ええと、お互いが自分を持ちつつ、なおかつ認めあえる関係、じゃないかな。」
美奈子 「続いて第三問です。私、永井美奈子のマイブームは何でしょう?」
郁男  「え。マイブーム。これ、この間、聞いたような気がする。ううんと、あ。FMラジオ、だな。うん、よく聞くっていってたし。」
美奈子 「第四問です。私、永井美奈子がプロポーズして欲しい、シチュエーションやフレーズなどは、どういったものでしょうか?」
郁男  「ええと。別にないんじゃないかな。フレーズや何かで、相手を好きになったり嫌いになったりするワケじゃないから。」
美奈子 「ほぉ、なるほどね。ええと、今の所…」
郁男  「何よ。どんな感じなの。正解教えてよ。」
美奈子 「え〜、どうしようかなぁ。じゃ、これだけ教えて上げる。身の回りの人で、恋愛対象のボーダーラインを越えた初めての人です。」

 美奈子さんはご機嫌である。しかし問題はまだまだ続く。

郁男  「へぇ。で、何、全問正解なの?ねぇ。正解教えてくれないと、消化不良じゃない。」
美奈子 「では、続いての問題です。私、永井美奈子は、今、恋する女の顔をしていると思いますか?」
郁男  「いいえ。」
美奈子 「おっ。友達以上、恋人未満に格落ち。」
郁男  「え。なぬ?」
美奈子 「問題です。私、永井美奈子が今現在、恋する男性がいるとしたら、それはテレビなど、マスコミ関係に従事している人である。マルかバツか。」
郁男  「マル。」
美奈子 「おっと。友達以下、他人以上に格落ち。」
郁男  「え〜、なんで。」
美奈子 「問題です。永井美奈子は、恋する相手と仲良くなりたいあまり、敬語や『さん付け』で呼ばれることを常々悲しく感じているに違いない。マルかバツか。」郁男  「え〜。そんなの判らないよ。」
美奈子 「問題です。永井美奈子は、自分のことを恋愛対象としてみていると思う。イエスかノーか。」
郁男  「自分って、俺のこと?じゃ、ノー。」
美奈子 「問題です。永井美奈子は、ちょっとした知り合いの男友達でも、頼まれればクリスマスプレゼントを買ってくれる女だ。イエスかノーか。」
郁男  「イエス、だな。立証済みだからなぁ。」

 段々元気のなくなっていく美奈子さん。ここまで来ると、ほとんど泣き声である。

美奈子 「それでは、ここでサービス問題です。永井美奈子は、自分の気持ちを察していると確信している相手の男性から、早く何かのアクションを起こして欲しいと思っている。イエスかノーか。」
郁男  「え。…」
美奈子 「問題です。自分をデリカシーのない男だと思う。イエスかノーか。」
郁男  「何それ。永井美奈子クイズじゃないじゃない。」
美奈子 「問題です。永井美奈子は、どんなに疲れていてもボイストレーニングに通っていたのには、個人的感情が働いていたからだと思う。イエスかノーか。」
郁男  「…え。」
美奈子 「問題です。ここまで女に言わせておいて、男として、煮えきらない男だと思わないのか。イエスかノーか。」
郁男  「え。ちょっ、ちょっと待ってよ。美奈ちゃん。」
美奈子 「問題ですっ!あなたは永井美奈子がタイプの女性である。イエスかノーか。」
郁男  「…え。」
美奈子 「問題ですっ!あなたは永井美奈子に男性として愛されていることに気がついている。イエスかノーか。」
郁男  「…そんな…」

 黙り込んでしまう二人。どうやら、世界一鈍感な郁男クンも、やっと美奈子さんの気持ちに気付いたようだ。

郁男  「違うんだって。たった今。いや、本当にね、たった今さ、早合点することはよくないってこととさ、早合点させることは罪作りだって事をさ、うん、たった今学習したばっかだったからさ。」
美奈子 「ネクタイの人?」
郁男  「うん。だから、その。いや、ごめん。ジェイクさん、おかわり。」
ジェイク「かしこまりました。」
郁男  「あの。」
美奈子 「なによ。」
郁男  「ごめん。もう一度、問題言ってくれるかな。母親がなんと言おうと、な。」
美奈子 「え?」
郁男  「いいからっ。早く、問題っ!」
美奈子 「あなたは、永井美奈子を…」
郁男  「…」
美奈子 「…愛していますか…」
郁男  「…イエス。イエス、大イエス、超イエス!」
美奈子 「…」
郁男  「問題です。あなたは、初めて会ったときから、永井美奈子をボイストレーニングの生徒としてではなく、女性として見つめていましたか。イエスっ。あなたはテレビを見て、タレントと仲良さそうにしている永井美奈子を見て、ジェラシーを感じたことがありますか。イエスっ。身を切る思いで恋い焦がれていましたか。イエスっ。今、永井美奈子を抱きしめたいですか。イエスっ。今日の帰り道、永井美奈子の手を握りたいですか。イエスっ。キスをしたいですか。イエスっ。結婚したいと思いますか。イエスっ。生涯の伴侶として助け合い、認め合い生きていくことを誓えますか。イエスっ!あなたは、今日この場で、ハッキリと気持ちを伝えるべく大きな声でイエスと言うためだけにボイストレーナーを続けてきたと言っても過言ではありませんか。イエス!大イエスっ!超イエスっ!」

 やっと気持ちの通じ合った二人。美奈子さんは、アナウンサーだからといって特別扱いせず、普通に接してくれたことが、郁男クンを好きになったきっかけだった、と打ち明ける。それを聞いた郁男クンは、この人なら母さんも納得してくれるだろうと確信する。幸せな空気に包まれながら、二人は店を出た。

美奈子 「ところで…」
郁男  「え。」
美奈子 「最後の問題です。永井美奈子は、今のいびつな形でのプロポーズを、快諾すると思いますか?」
郁男  「え…」
美奈子 「だぁめ。失格。最悪。論外。全然ダメ。」
郁男  「え。何で…!?」
美奈子 「だって。」
郁男  「何。」
美奈子 「あたし、自分から告白したことなんて、ないんだよ。」
郁男  「え。だから、何。」
美奈子 「イブの日、どっかで必ず時間作るから、最悪電話でも構わないから、プロポーズして。ちゃんと考えて、映画みたいな台詞でさ。」
郁男  「なんで、いいじゃない、そんなの。」
美奈子 「イヤだよ。こんななし崩しに尋問みたいなのじゃ。」
郁男  「え。ちょっと待ってよ。それで気のきいたフレーズじゃなきゃダメだったりするの?」
美奈子 「さーねー」
郁男  「いや、ちょっと待ってよ、そんな。えー。待って。今日、帰りに手繋いだりできないの?ねぇ、強く抱きしめたりとか、チューとか、うぞ。マジ?え〜」

日本一デリカシーのない男性の、日本一ロマンチックでないプロポーズ。いかがでしたか?ともあれ、ここにも一つのメリークリスマス。




(エピローグ)

郁男の部屋、ベッドの脇の留守番電話がなる。
「もしもし、永井です。早速留守番電話使ってくれてますね。ありがとう。じゃ、イブ、楽しみにしてますね。」

テレビでは、いつものワイドショーが流れている。
「只今、私、東海林は、あの永井美奈子さんのお宅の前へお邪魔しております。彼女のプライベートに関して急浮上した噂の真相に迫るため、本日、突撃取材をと思ったのですが、まだ戻られていないようです。結婚が秒読みとさえ囁かれる中、相手の男性に関しては全くと言っていいほど情報が入ってきておりません。一体あのような才女のハートを射止めたのは誰なのか、永井さんご本人が戻られましたら、ぜひとも、私、東海林が…」

そして、ラジオからは、あの曲が流れている。
「お送りしている曲は、ジョン・レノンでハッピー・クリスマス。この曲はたくさんのリクエストを頂きました。ファックスを紹介しましょう。ファックスネームは「元局アナさん」より。いつも裏表なく伸び伸び自由にお喋りしている斉木さんの番組、楽しくきいてます。なんと私、近々結婚しそうなムード。へー、いいじゃない。おめでとーっ!で、なになに。かねてから憧れだったジョンとヨーコのような夫婦になれるかもしれないと思うと、ワクワク・ドキドキです。リクエストはジョン・レノンで、ハッピー・クリスマスをお願いします。何よ何よ。いいじゃないいいじゃない。こっちは失恋したばっかりだってのに、全く。それにしても元局アナって本当なんでしょうかね…」



みんなに、Merry Christmas...






今週の放送曲目リスト

Time Title Artist Label Number
16'28" The First Noel Ella Fitzgerald Capitol tocp 50373
45'59" Have Yourself a Merry Little Christmas The Singers Unlimited Polydor J33J-20074
50'32" Happy Christmas (War is Over) John & Yoko Capitol CP32-5722